

最近、国内の繊維製造加工業の工員後継者として、ファッション専門学校の卒業生をマッチングさせるのはどうか?という言説がメディアやその手のコンサルタント業から聞くことがある。
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工員後継者不足に嘆く工場に対しての提案であると同時に、ファッション専門学校卒業生の就職先に対する提案でもある。
一見すると、ベストな提案に見えるが、意外と歓迎しにくいという工場側の意見も少なくない。
そういえば、何年か前に「全国のファッション専門学校へ進学する生徒が2万人を割り込んだ」と某学校の理事長が当時危機感を持っておられたが、今はどうだろうか。
多分その頃よりもファッション専門学校への進学者数は減っているのではないかと思う。
学生の人口自体が毎年減り続けている上に、進学先としてファッション専門学校を選ぶという比率はここ何十年間も減り続けている。
1つには、アパレル関係の仕事が不安定だと見られていることが大きいだるう。
しかし、原因はそれだけではない。
ファッション専門学校に進学したいという生徒のほとんどは、衣料品のデザインやパターンづくりに興味が強くある。いわば、企画職・デザイン職志望である。
ところが、現在の衣料品業界の就職先の大半は店頭での販売職となっている。現在の衣料品ビジネスとして店頭での販売は重要であることは言うまでもない。
ところが、販売職になるためにファッション専門学校を卒業しなくてはならない理由はほとんど無い。現実問題として、多くの大手小売りや大手ブランドは大卒・短大卒を販売員として採用している。
かくいう当方とて、販売職で新卒採用されたが専門学校は卒業していない。
30年前から販売員になるためにファッション専門学校を卒業する理由はゼロに等しかったといえる。
もちろん、デザインやパターンのことを知っていて損は無いし、恐らく販売員としても不可欠ではないが必要な知識だと思う。
だが、「どうしても必要」ではなく「あった方がいい」というレベルである。
また、企画として活動するにしても売り場の現場を知っておいた方が今の世の中では強いから、企画採用でも2年か3年は販売員として配属される大手も多い。
右も左もわからない1年目を経験して、2年目で売り場の流れがわかるようになると考えているので、最低でも2年間は売り場で働いた方が良いと思っているが、これが苦痛で辞めてしまう若者も多い。
まあ、実際、55歳の今なら「1年なんてあっという間に過ぎる」と感じているが、未知なことが多かった若い頃は「1年て長いなあ」と思っていたから、2年が我慢できずに辞める人の気持ちも理解はできる。
理解はできるが、2年か3年は体験した方が良いという意見は変わらない。
さて、工場に就職するのはどうか?という提案だが、理論的にいうと適正ではないかと思えるが、実際はそうではない場合が多い。
ここ1年くらいは工場を回っていないが、最後に岡山・児島の工場を回った時に、いくつもの工場が「現場作業の後継者が不足しているが、専門学校の生徒はちょっと」と言葉を濁していた。
理由を尋ねてみると、メディアや識者に提案されるまでもなくこれまで何度も採用したことがあったそうだ。考えてみればわかることだが、就職氷河期時代には大卒者だけでなく、専門学校卒業者も就職先に困っていたわけだから、工場の扉をたたいた者も相当数いたことだろう。
しかし、長続きした者が少なかったというのがそういう工場の経験談である。
長続きしにくいから、専門学校卒業生ではない人の方が望ましいと言い切る工場もあった。
長続きしない理由は簡単である。企画職志望の若者は別に工場の生産ラインで働きたいわけではないからだ。洋服をデザインしたり、パターンを引いたりすることに興味があるだけで、生地を染めたり、生地を織ったり、縫製したりすることに強い興味があるわけではない。
これは他の分野に置き換えてもわかりやすいだろう。
料理人を志している料理好きな人が農作業や漁業に従事することに興味があるかというと、そうではないという割合が高いだろう。
そうなると、仕事としての興味深さを覚える前に退職してしまうのは容易に想像できる。
もちろん、定着した人もいるのだろうが、扉を叩いた専門学校生の人数に比してその割合は少なかったということだろう。
打率として非常に低かったということになるだろう。
実際に工場の現場の環境は過酷である。縫製工場はまだしも、染色や紡績、織布になると、必要上室内は高温多湿になる。汗っかきで暑さが苦手な当方なら長続きしないだろう。
若い人も同様で、現場仕事にさして興味が無い上に高温多湿で汗まみれになる現場に長くとどまりたいという人が少ないのは、致し方無いともいえる。
逆に、繊維や衣服には興味が無いが、分野を問わず工場作業自体に興味があるという人を採用した方が長続きする比率が高いのではないかと思う。
工員後継者不足も深刻だが、工場の経営後継者不足も深刻だと当方は感じている。工員が仮に増えたとしても経営者がいなくなれば工場は存続できない。
現在、各工程の工場はだいたい40~60代前半くらいの経営者に代替わりを果たしているが、20~30年後にまた後継者問題は浮上する。その際、消える工場が少なからずあるのではないかと見ている。
当方にも40代から同年代、60代前半くらいの工場経営者の知人が何人かいるが、その人たちの息子や娘はほかの仕事に就いていることが多い。何ならアパレルも衣料品も全く関係の無い仕事に就いていることの方が多い。
今、違う業界で働いている20代・30代の息子・娘が20年後・30年後に「家業の工場を継ぐわ」と言う割合はかなり少ないだろうと当方は見ている。
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