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任天堂に学ぶローカライズ 文化に応じた表現方法とは

任天堂に学ぶローカライズ 文化に応じた表現方法とは

サンフランシスコ発デザイン会社の公式ブログ
btrax

今年5月、任天堂はアメリカ・サンフランシスコに直営店「Nintendo San Francisco」をオープンした。本店舗は「Nintendo New York」に次ぐ2店舗目のアメリカ展開であり、西海岸に住む任天堂ファンたちにとってはまさに待望の開店だった。

その人気ぶりは明らかで、実際に訪れたbtraxメンバーによると40分待ちのタイミングもあったそう。

さらに6月29日には、Switch2がアメリカにおいて歴代ゲーム機の初週最多売上記録を更新している。

新店舗の開店に新機種の爆発的ヒットと快進撃が続く任天堂ブランドは、現在アメリカ市場において新たなフェーズに突入しているのかもしれない。

これらの成功は、ゲームやキャラクターといった商品力のみによるものではない。任天堂が長年積み上げてきた、文化的背景を丁寧に理解し展開する「ローカライズ戦略」の成果でもある。

今回は有名キャラクターを通じて、顕著にその違いが表れる日本市場とアメリカ市場を比較していきたい。

カービィの「にっこり顔」vs「怒り顔」

日本ではカービィといえば、丸くてピンクで、瞳には大きなハイライトが光る、まさにかわいい存在として知られている。

見た目から受ける印象はやさしく、女性や子どもをメインターゲットとする商品とのコラボも多い。中でも笑顔のカービィは様々な商品に起用され、「癒し」や「親しみやすさ」が訴求ポイントとなっている。

一方、アメリカ市場では事情が異なる。現地のゲームパッケージに登場するカービィは、しばしば“怒り顔”をしているのだ。例として、ここでは2003年に発売されたカービィのエアライド(ゲームキューブ)を取り上げてみよう。

引用元:株式会社ハル研究所 https://www.hallab.co.jp/works/detail/000728/

左のパッケージは日本で、右のものは北米で実際に販売されたものである。

こうして比べてみると、北米版カービィは目が釣り上がり、口も笑っておらず、明らかに凛々しくなっている。この表情の差分は、「アメリカの消費者は力強さやアクション性を重視する傾向があるため、カービィにも戦う存在としての印象を持たせた方が受け入れられやすい」という分析に基づいているようだ。

実は今年発売される約20年ぶりの最新作『カービィのエアライダー』では、日本版パッケージと海外版パッケージはどちらも同じで柔らかい表情をしている。その背景には、ポケモン、どうぶつの森、スプラトゥーンなど、見た目に「かわいさ」や「やわらかさ」を持つキャラクターが既に欧米市場で高い人気を得られたということが挙げられるだろう。

また、SNSや動画配信の普及により、世界中のファンが同じビジュアルをリアルタイムで共有する時代となった。そのため20年前とは異なり、「かわいいカービィ」というブランドイメージの一貫性がこれまで以上に重視されるようになっているのだ。

ローカライズは一度行えば終わるものではない。任天堂は、移りゆく受け手の価値観に合わせて、同じキャラクターであっても何度も表現を調整しているのである。

ドンキーコング最新作のCM表現の違い

今度は、かわいい印象のカービィとは打って変わって、フィジカルの強さが魅力のドンキーコングに着目したい。ドンキーコングは、今月に26年ぶりとなる完全新作『ドンキーコング バナンザ』が発売されたことで現在世界から注目を集めている。本作の発売に関して、日米それぞれのCM表現からその背景を探っていきたい。

まず日本では、7月29日時点で全9種のテレビCMが制作され、それぞれがゲームのシステムや世界観を丁寧に紹介している。

昨年12月にUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)でドンキーコングのエリアがオープンしたばかりであることを踏まえると、これらの種類豊富なcmの背景には、日本国内でのシリーズの再認知とファミリー層への訴求が狙いとしてあるのかもしれない。

一方、アメリカにおけるドンキーコングは、「これから人気を浸透させたいキャラクター」という位置付けとはやや異なる。彼は、アメリカではむしろ馴染みのある存在なようなのだ。

それは過去の販売実績から読み取ることができる。たとえば、2014年にWii U向けに発売された『ドンキーコング トロピカルフリーズ』は、日本では1か月で約7万本を売り上げたのに対し、アメリカでは発売からわずか8日間で推定13万本を達成している。人口の差はあれど、この圧倒的な数字は彼の人気の高さを示している。

さて、そのような背景を踏まえてか、今回の新作『バナンザ』に対するアメリカでのプロモーションは非常に大胆だ。

1分のトレーラー映像である「Donkey Kong Bananza – Unleash Your Inner Kong」は、人々が一体となって「D!K!」と叫ぶ、まさにお祭り騒ぎのような内容となっている。ストーリーやゲームシステムの詳細はほとんど触れられず、ドンキーコングのパワフルで破壊的なアクションが前面に押し出されている。

映像全体を通して、「説明」よりも「感情に訴える」ような表現が優先されており、既存のファン層やアクション性を好む層に対する直接的なアプローチが意図されている。

実際、北米ユーザーの高い注目度を表すかのように、発売前の6月に配信された「Donkey Kong Bananza Direct 6.18.2025」は、7月29日時点で既に410万回以上の再生数を記録している。これは、同じくSwitch2の新作である「Mario Kart World Direct 4.17.2025」をも上回っている。

こうしてユーザーの期待が高まる中発売された『バナンザ』は、アメリカ発の大手ゲーム・エンタメ情報サイトIGNにて、すでに10/10の最高評価を獲得している。

このように任天堂は、市場ごとの特性を丁寧に理解し、それを戦略に反映させることで、北米市場での熱狂的な支持を獲得し続けているのだ。

Hate Tingle現象

カービィやドンキーコングのように、同じキャラクターであっても国ごとに見せ方を変えることで成功する例がある一方で、逆にその調整がうまくいかず、文化的ギャップが露呈する例も存在する。

その代表格が「ゼルダの伝説」シリーズのキャラクター「チンクル(Tingle)」である。チンクルは妖精に憧れている35歳無職独身の人間というなかなか厳しい設定でありながら、多くの「ゼルダの伝説」シリーズに登場している定番のキャラクターだ。

日本では奇抜だが憎めない存在として一定の人気があり、『もぎたてチンクルのばら色ルッピーランド』などスピンオフ作品もリリースされている。

しかし、北米では「Hate Tingle」と評されるほどチンクルの好感度は低い。

その低さは、同地域のみスピンオフ作品が発売されないだけでなく、IGNで「Die, Tingle, Die! Die! Campaign(◯ね!チンクル◯ね!◯ね!キャンペーン)」と題した特集が組まれたり、『ゼルダの伝説 Twilight Princess (2006年発売)』ではファンの声を受けて登場が見送られたりと、かなり深刻な影響を及ぼしている。

これは単純な見た目による問題ではない。『ゼルダの伝説』は北米では“シリアスな冒険ゲーム”として認識されており、その世界観にチンクルのようなキャラクター設定は馴染まないという声が多いのだ。

「妖精を夢見る35歳無職独身」は、笑いとして受け止められる日本とは異なり、北米のユーザーには強い違和感や不快感をもって受け取られてしまった。こうした感性のズレが、ローカライズにおける最大の落とし穴である。

任天堂がグローバル展開で実践しているポイント

では、これらの事例を通じて、現在海外展開を視野に入れている日本企業は何を学べるのだろうか。

まずひとつ、任天堂の実績から分かるのは、ローカライズとは単に翻訳することではなく、「どう伝えるか」を市場ごとに練り直す作業だということだ。実際、ローカライズは正しく機能すれば強力な武器になる一方で、文化や価値観の読み違いが大きなリスクになることもある。

またチンクルのような事例が示すのは、「伝える側の意図」と「受け取る側の解釈」がいかにズレやすいか、ということだ。

文化が異なれば、“おもしろい”も“かわいい”も“魅力的”も、まったく違った意味合いを持つ。そこを丁寧に読み解きながら表現を最適化していくのが、本来のローカライズの姿だろう。

任天堂が海外で支持されている理由の一端は、こうしたズレに対する感度の高さと、必要に応じて表現を変える柔軟さにある。

言い換えれば、「伝え方」は変えても、「伝えたいこと」は決してぶらさない。その姿勢こそが、日本企業がグローバル市場で信頼を築く上で、何よりの参考になるはずだ。

btraxの提供できる価値

ローカライズ戦略:

ブランドの独自性を保ちながら、ターゲット市場に最適化されたアプローチを提供。現地文化や消費者の価値観に基づいた戦略的マーケティングを実施。

ブランド戦略の強化:

ブランドの認知度を向上させ、グローバル市場における競争力を高めるための戦略を構築。

現地でのイベントとプロモーション活動:

ローカルイベントやプロモーションを通じて、消費者との直接的な接点を作り、ブランド体験を提供。

弊社btraxには、日本とアメリカ両市場の文化・消費者心理に精通したグローバル・バイリンガル人材が揃っている。アメリカ市場への進出やローカライズ戦略に関心のある企業の方は、ぜひ一度ご相談いただきたい。

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