ファーストリテイリンググループの「プラステ(PLST)」が、コロナ禍以降に陥っていた赤字から回復し、日本発の中価格帯コンテンポラリーブランドとして飛躍を目指す。コロナ禍前に102店あった店舗は、構造改革で41店(8月末時点)にまで減らし、2025年8月期は大幅な増収増益を達成。2025年秋冬からは、「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」を手掛ける村田晴信をウィメンズのクリエイティブディレクターに起用し、商品力に磨きをかける。キーワードは「大人のインフラ」だ。
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◾️プラステ
2002年に「セオリー」から派生したセレクトショップとして、現リンク・セオリー・ジャパンでスタート。2009年にリンク・セオリー・ジャパンがファーストリテイリングと経営統合。2018年にリンク・セオリー・ジャパンから独立して株式会社プラステを設立。2023年に佐藤可士和による新ロゴを採用、同年3月に「ユニクロ」の銀座のグローバル旗艦店「ユニクロ トウキョウ」内に旗艦店を出店。

リッツカールトンで行われたプラステの2025年冬物プレゼンテーションから
Image by: FASHIONSNAP

柳井正会長兼社長
ユニクロの成功例を異なる価格帯でも横展開していけば、ファーストリテイリングとして国内市場シェア20%も不可能ではない。
2025年8月期の決算会見で、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は上記のように話した。ユニクロの国内の年間売り上げはこのたび初めて1兆円を突破し、今や日本のアパレル市場の10%超をユニクロが占める。それでも、ユニクロ以外のブランドを成長させていけば、少子高齢化の日本でもまだまだ成長余地があると、柳井会長は社内外に発破をかける。
その期待の大部分を背負うのが、グループ二番手でトレンドカジュアルを担うジーユーだ。ただし、ジーユーは今春経営トップも交代し、構造改革の真っ最中。2025年8月期は、業績予想を下回る大幅減益だった。ジーユーに比べて規模はだいぶ小さくなるものの(セオリー、プラステ、コントワー・デ・コトニエ事業合計の売上収益で、2025年8月期に1315億円)、一時は「ファーストリテイリンググループの隠し玉」「グループ三本目の柱に」といった報道もあったのが「プラステ」になる。日本独自の需要とも言えるきれいめ通勤服をそろえ、2020年8月期には国内に101店舗を構えていた。
コロナ禍でコンサバ通勤服が打撃




2025年冬物ではダブルフェースのウール混コートに注力。写真のノーカラーコートは2万7000円
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風向きが変わったのはコロナ禍以降だ。ステイホームによって、プラステが得意としてきた通勤服やセレモニー服の需要が減少。2020年8月期以降、4期にわたる営業赤字に沈み、大量退店を進めて現在の店舗数はコロナ禍前の4割にまで減っている。同時に、ユニクロの大型店舗内に出店することで、ユニクロファミリーとしての認知を高め、トラフィックを確保してきた。2023年にはブランドロゴを佐藤可士和によるデザインに刷新。ユニクロ、ジーユーと共通するボックス型ロゴで、ユニクロファミリー色を強めている。
パンツが得意な「セオリー」から派生したブランドとして、コロナ禍前から「スティックパンツ」などのヒット商品はあった。ただ、きれいめ通勤服という日本独特のコンサバテーストでは、ブランドの広がりとして限界がある。そこで白羽の矢を立てたのが、大人の女性向けのエレガンスに定評のある村田晴信。ファッション好き以外の間ではまだ知名度はそれほど高くないものの、今の東京を代表するデザイナーの1人だ。
有力デザイナーの知見を吸収して、ブランド全体の魅力を磨いていくのは、ファーストリテイリンググループの得意とするところ。ユニクロではクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)やジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)、ジーユーでは「アンダーカバー(UNDERCOVER)」の高橋盾や「ロク(ROKH)」のロック・ファン(Rok Hwang)の懐を借りて、商品をアップデートしている。そうしたグループブランドの改善手法を、村田をパートナーにプラステでも実践する。
価格はユニクロの2〜3倍、
でも競合より値頃
プラステはシャツ・ブラウスで8990〜9990円が中心と、2990〜3990円が中心のユニクロに対して価格はおよそ2〜3倍。とは言っても、百貨店のキャリアフロアやショッピングセンターで隣接する競合ブランドに比べたら、十分値頃感がある。消費が二極化し、「ユニクロかラグジュアリーブランドか、そのどちらかしか売れなくなった」と言われる中、ユニクロが駆逐してきた中価格帯マーケットを、ユニクロの姉妹ブランドであるプラステが取りに行く。
ファーストリテイリング側からは、日本だけで売っていくのではなく、グローバルで通用するレベルを追求してほしいと言われている。ユニクロが成し遂げてきた、服は生活を彩るための道具だというインフラの考え方を、中価格帯で体現しているブランドは世界を見てもあまりない。プラステでは「大人のインフラ」を目指す。

村田晴信
村田が上記のように話す通り、アイテム1点1点は“部品”のようにシンプルでベーシックながら、丈やボリューム感の微妙なバランスやスタイリングによって、モダンなムードを演出する。村田のデビューとなる2026年秋冬物では、価値を表現しやすいアウター類に注力。暖冬下でも着回しやすいダブルフェースのウール混ガウンコートは2万9000円。ファーストリテイリングのサプライチェーンを活用することで、価値と価格のバランスを追求した。
東レが開発した高機能中綿素材を採用したアウター「ウォームリザーブパデッドシリーズ」も今秋冬の重点アイテムだ。東レが、ユニクロの「ヒートテック」や「エアリズム」を支える2006年以来の戦略的パートナーであることはよく知られるところ。東レが技術を詰め込んで開発した中綿は、ダウンのようなかさ高性(膨らみ)がありつつ、自宅で手洗いが可能、綿抜けも少ないという。そして年々高額化するダウンコートに対し、圧倒的なコスパを誇る。ラグジュアリーブランドも使用する「リモンタ」の表地を使ったロングコートで、価格は3万7000円だ。






東レの高機能中綿を使ったロングコート(3万7000円)
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究極のベーシックを高コスパで提供するというプラステの考え方は、ユニクロと重なる部分もある。「ユニクロとニーズを食い合ってしまわないのか」という質問に、村田は以下のように答える。
ユニクロとの差別化には正直難しさも感じるが、プラステはユニクロ店内でのインショップ展開も多い以上、差別化は重要なポイント。ユニクロの価格帯ではできないこと、ユニクロよりももう一歩攻めたデザインをやっていく。素材開発の知見をグループ内で共有できることは、他社に対するプラステの大きなアドバンテージだ。

村田晴信
構造改革によって、一時は年間で一気に36店も減らした店舗を、改めて今後どうしていくかについての発表は現時点ではない。ただ、2025年8月期は1店増とはいえ5期ぶりに店舗数が純増に転じ、10月24日に開業する西日本最大のユニクロのグローバル旗艦店「ユニクロ ウメダ」内にも出店する。柳井会長が公言している「グループ売上高10兆円」を実現するためには、プラステが国内外で成長していくことは不可欠。村田が手掛ける今秋冬物が本格的に動き出すのはここからだが、既にシャギーニットの羽織りなどの軽アウターに動きが出ており、手応えを感じているという。
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