
『ハバナの奇跡』

『ハバナの奇跡』

今年の2月1~10日、私はキューバの首都・ハバナに滞在していた。ちょうど1月から始まった米国のトランプ政権による経済制裁と海上封鎖で、キューバ国内に石油の備蓄が無くなった時期だ。
ハバナ市内のインフラはまひし、地区ごとに計画停電が実施され、ガソリンスタンドにはタクシーや商用車が長蛇の列を作っていた。そんな状況のこの国に乗り込んだのは、キューバのジャズをテーマとしたドキュメンタリー映画を製作するためだ。現地の息吹を伝える映像を撮るべく、ここ1年は足しげくキューバと日本を行き来している。
ハバナにジャズクラブ
映画のタイトルは『ハバナの奇跡』。天才サックス奏者セサル・ロペスがハバナにジャズクラブを建設する様子を追った作品だ。
多くの著名音楽家が米国へと活動拠点を移すなか、キューバのナンバーワンサックス奏者のセサル・ロペスは地元にとどまり、独自のジャズを発展させてきた。
セサルと日本から嫁いだ妻の聖子は、経済的困難が続く国内状況で、若いミュージシャンたちの活動の場が思うように得られないことを憂い、「ミュージシャンを目指すキューバの若者たちが米国に亡命しなくてもジャズを発表できる場を作る」と、ハバナにジャズクラブを建設することを決意する。経済危機による物資不足など多くの困難を抱えながらクラブの開業を目指してセサル夫妻は突き進んでゆく…。私はその様子をカメラで記録し続けた。
キューバ人に密着撮影
私は現地で完成前のジャズクラブの様子やミュージシャンたちの日常、そして念願かなってのオープニングライブまで撮影し、現在は映画の仕上げ作業に全力で取り組んでいる。
現地で私を強く引きつけたのはキューバ人の苦境に屈しない精神のタフさだ。経済封鎖による物資不足で工期が大幅に遅れる中、地道に作業を続ける建築家たち。ライブの最中、停電に見舞われ真っ暗闇のなか臆することなく演奏を続ける若手ミュージシャン。彼らは立ちはだかる困難に、まるでジャズの即興演奏のようにしなやかに対応し乗り越えてゆく。そのタフな精神は力強いライブミュージックへと結実してゆく。
私は映画で、キューバ人たちの精神の強さと、そこから生まれる音楽の素晴らしさを伝えたいと奮戦している。現在映画は仕上げ作業にかかる高額な制作費用を捻出するためのクラウドファンディングを「MOTION GALLERY」で開始した。格差とグローバリズムに揺れる世界に一撃を加える映画に仕上げ、発信してゆく覚悟だ。
(映画作家・高橋慎一)
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