デジタルファッション業界No.1企業に聞く、“ファッションデザイナー”の新しいキャリアの選択肢

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子どもの頃からファッションが好きでしたが、だからといって服をたくさん買ってもらえるわけではありませんでした。そんな時、アバターアプリの中では自由に着替えを楽しむことができて。私にとってのファッションの原体験はスマホの中でした。

 デジタルファッション業界1位*の売上を誇り、約170人の商品企画職(デザイナー)を直接雇用する「ココネ」。同社が開催したアバターのファッションデザインを募集する第1回デジタルアートコンテストの入賞者に話を聞くと、上記のような答えが返ってきました。ファッション好きにとって“雑誌”が果たしていた役割を、現在は“アバターアプリ”が担っているのかもしれません。特に幼少期から当然のようにスマホを触って育った世代にとって、アプリ内で着せ替えを楽しむ行為は日常の着替えの延長にあるようです。
*2025年10月Sensor Tower調査による「非ゲーム部門」売り上げランキングデータから、アバター+コミュニティ要素のあるアプリ・サービスをココネにて抽出。

 そうした背景もあり、従来は「美術系専門学校」や「美術大学」出身者の就職先というイメージが強かった業界ですが、近年は「ファッション専門学校生」の採用も増えているそうです。

 では、ファッションの専門知識はスマホアプリ業界でどのように活かされているのでしょうか?今回はココネのオフィスを訪問。「デジタルファッションデザイナー」という職種とその働き方の実情を、社内のキーマンや現場のクリエイターの方々に聞きました。

ココネとは?
「リヴリーアイランド」や「ポケコロ」「ポケコロツイン」といった人気アバター着せ替えサービスを展開する企業。2008年に創業し、現在は日本だけでなくニューヨークやロンドン、上海など全世界9ヶ所に拠点を持つ。総ユーザー数は1億6000万人で、これまでに販売・流通しているデジタルアイテムは300億点を超える。

「リヴリーアイランド」アイテム着用画像

Image by: ココネ

「ポケコロ」アイテム着用画像

Image by: ココネ

スマホの中で拡張する身体 アバターアプリは「ゲーム」にあらず

 誰もが一度は見かけたことがある人気アバター着せ替えアプリを展開するココネ。つい「スマホゲーム」と呼んでしまいそうですが、同社は自社のサービスを「ゲーム」ではなく「デジタルワールド」と表現しています。

 一般的なゲームは、ルールやシステムに基づいて物語を進めたり、ミッションを達成したりすることを主な体験として設計されています。これに対し、ココネのクリエイティブディレクター土屋淳広さんは、同社のサービスが表現しているのは「人々の生活や日常、生きるスペース」だと説明します。

お話を聞いた人:クリエイティブディレクターの土屋さん

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土屋さん

年々、社内では哲学的な会話が増えています。人間の本質や生き方、生活、アイデンティティについてすごく真剣に向き合っている。我々のサービスがお客さまにどのような体験をもたらし、どのような影響を与えるのかについて常に考えていて、それがサービス全体に大きな影響を及ぼしています。

我々が見据える未来像は、“人の生きる領域を広げる”こと。そうした未来のために、今できることはなんだろうと考えているんです。

 VTuber(バーチャルYouTuber)という存在が定着化し、アバター配信サービスが市民権を得た現在。デジタルネイティブ世代にとっての「アバター」とは、デジタル世界における装いのひとつと言えるでしょう。

 ただ、そうは言ってもアバターと自身のアイデンティティが紐づかないという人もいるのでは? そんな問いは同時に、「ファッションとは何か」という根本的な問いにもつながります。アバターを選択するだけで別人のような装いに変身できるアバターワールドでは、時に「変身」や「着る」といった以上の身体的意味合いを持つ可能性があると言います。

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土屋さん

フィジカルの世界の洋服は、自己表現のほかにも、寒さや暑さから身体を守る機能性や着心地、開放感といった身体的な感覚が伴う変化が求められます。一方で、デジタルの世界だとフィジカルな感覚がない分、重力の影響も受けないので、リアルでは叶えられなかったことが実現できる。精神的な解放感や機能性を伴う、言うなれば“精神的な着心地”が求められる世界になっていくのではないかと考えています。

 新しい服を着ることで、新しい自分に気がついたり、自己表現をしたり、あるいは自身に何かしらのロール(役割)を課すことにつながる。着る行為を通して自分のアイデンティティが刺激されるという点において、デジタルの世界でもフィジカルな現実でも、ファッションが持つ本質的な力は変わらないのかもしれません。

「ただの絵」がファッションとしての価値を持つ理由

 頭身をデフォルメされたココネのアバターたち。リアルな人物の頭身とは大きく異なりますが、描ける要素が少ないからこそ、モチーフの魅力に向き合い、抽象化して表現する必要があります。対象物に潜む魅力、多くの人が気づいていないかもしれない可愛さやかっこよさ、儚さや怖さといったものを、ぐっと引き出して見える化することこそ「デフォルメ」であると土屋さん。一つのパーツをデザインする際にも、その材質を細かく想定して研究を重ね、デフォルメして表現するそうです。実物にそっくりという意味での“リアリティ”の追求とは別軸での本質的な表現に挑戦しているからこそ、独自の世界観を構築できているのかもしれません。

「リヴリーアイランド」アイテム着用画像

Image by: ココネ

「リヴリーアイランド」アイテム着用画像

Image by: ココネ

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土屋さん

言ってしまえば「ただの絵」ですし「ただのデータ」かも知れません。それでもココネのお客さまはそこに価値を感じ、お金や時間をかけていただけている。デフォルメの際に込められたデザイナーたちの想いやデザインの背後のストーリーが、お客さまにもしっかり届いているからこそなのではないかと思います。何気ないガラス瓶1つに対しても魅力を感じ取れたら人生が豊かになるような、そういう体験作りを目指しています。

 1枚のイラストがファッションになる瞬間。それはまさに、「その服を着たい」と思う人が1人でも存在した瞬間です。しかしそうした「かわいい!」「欲しい!」という感情はもちろん、すでに持っているアイテムとのコーディネートのしやすさや、そのアイテム自体の“資産性”を目当てにバーチャルファッションアイテムを購入するユーザーもいるとか。アバターサービス上ではユーザー同士のアイテム交換や売り買いが可能で、まさにフィジカルの洋服がヴィンテージショップで売買されるように、バーチャルファッションアイテムはクローゼットの資産になっているのです。

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土屋さん

十数年こういったサービスを展開してきてわかったことは、ただデザインが良ければ、可愛ければ買っていただけるわけではないということ。フィジカルの世界のファッションもそうだと思うんですが、物語性や哲学はすごく重要です。AIが普及した時代だからこそ、「誰がどのように作ったか」ということに価値が生まれると考えています。

 ココネには、現在約170人の「商品企画職(バーチャルファッション・アイテムデザイナー)」が働いています。作り手の感性やフェティシズムがデフォルメによって強調され、ユーザーに届く。優れたクリエイターが社内にいるからこそ、“生きた”デザインが生まれ続けているようです。

ココネが実現する、デジタルクリエイターの働き方

 スマホの画面の向こうにいる、中々会うことができない顧客たちに真摯に向き合うため、ココネは作り手や受け手である「人」を何よりも大切にしています。その考え方は、組織作りや福利厚生の充実したオフィスにも現れています。実際にデザイナーたちはどういった環境で生活をしているのか、少し覗いてみましょう。

お話を聞いた人(左から):Cocone Pen マネージャー 小牧さん、カンパニー長 崔さん、マネージャー 佐々木さん

デザイナーが「デザインだけ」に専念できる組織

 「商品企画職」と呼ばれるココネのデザイナーが所属する、今年1月に発足した社内カンパニー「Cocone Pen」。以前はサービスごとにデザイン担当者が分かれていたことで、同職種同士の知見が社内に共有されにくいという課題がありました。そこで、社内全体のデザイン力の強化を目的に、サービスを横断した商品企画職が集まる専門性の高いチームを組成。同じデザイン職のメンバーと共に切磋琢磨できる環境は、新たな学びの機会を生み、社員たちからも好評だそう。

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Cocone Pen カンパニー長 崔さん

Cocone Penの設立は、商品企画職(デザイナー)ひとりひとりが「自分は商品を企画してお客さまに届けているんだ」という自覚をより強く持つことにつながっていると感じます。積極的に意見交換も行われ、独自の文化が培われつつあります。

 また、Cocone Penではメンバー全体の96%を女性が占めており、産休や育児休暇など、女性が働きやすい環境も整えられています。

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Cocone Pen マネージャー 小牧さん

女性が多い職場は人間関係のトラブルがあると想像される方も多いかもしれませんが、全くそんなことはありません。お互いにフラットに制作についての意見交換ができている環境です。

 ココネでは、商品企画職のひとりひとりがデザインしたアイテムに、それぞれのデザイナーネームがクレジットされるサービスもあり、制作したアイテムがユーザーから好評を得ると、アイテムだけでなく制作者自身のファンになってくれるユーザーも現れ、これが個々のデザイナーのやりがいにも直結しているようです。デザイナーが、例えば電話対応などの一般的な企業における「雑務」に関わらなくて良い仕組みが採用されているのも同社ならでは。デザインやスキルアップに集中することが可能な環境が整っているのもデザイナーにとっては嬉しいポイントです。

オフィスに飾られている額装された作品

シェフの手作り食堂からジム、カラオケまで揃うオフィス空間

 ココネが「人」に投資する姿勢は、そのユニークな福利厚生からも見てとることができます。イラストレーターやアプリ会社と聞くと、パソコンに張り付いて働く「ブラック」なイメージを持つ人もいるかもしれません。しかしココネでは、社員が健康を維持し、ワークライフバランスを保つことができる環境づくりに力を入れています。

 今回お話を聞いたCocone Penのメンバーが働くのは、ココネが自社ビルを構える東京・若林オフィス。地上3階、地下2階の5フロアは、実は元々大手小売店だったビルを改装して2020年に誕生しました。元々あった厨房施設を活かしたフロアには、300人規模を収容できる社員食堂が誕生。一方で大型の業務用エレベーターや広い駐車場など、大手小売店時代の名残も感じさせます。

 社内は執務室の他に、常駐シェフがサラダバー付きのランチを提供してくれる社員食堂(テラス付き!)に加えて、バリスタがいつでも本格的なコーヒーを淹れてくれるカフェや夕方以降限定のアルコールバー、専門トレーナーが常駐するジム、ヨガスタジオ、卓球台、カラオケルームまで揃う、まるでアミューズメントパーク。常駐スタッフもほとんどが直接雇用されています。

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社員食堂

Image by: ココネ

「イノベーションを起こすのはいつだって若い世代」 充実した教育制度

 「これからの時代にイノベーションを起こすのは常に若い世代である」という同社の哲学のもと、ユーザーと近い視点で鋭い感性を持つ若いクリエイターの育成に力を入れています。この方針に基づき、若手社員からの要望を受けて、社内の優秀なクリエイターや外部講師から新鮮なインプットが得られる学びの場「Pen Academy」を創設。取材当日は、ファッションクリエイティブディレクターの軍地彩弓さんによる講演会が行われ、質疑応答でも活発で鋭い意見が飛び交い、若手クリエイターの熱意と成長意欲が感じられました。

第1回「Pen Academy」の様子

講師を務めたファッションクリエイティブディレクターの軍地彩弓さん

 講演当日は、大衆のトレンドやニーズを掴み、数多のヒット企画を立ち上げてきた軍地さんの「企画の立て方」に始まり、ファッションの歴史から、現代のファッションの潮流、装いが人に何をもたらすかまでを講義。街行く「人」に向き合い、潜在的な読者のニーズを汲み取ってヒット企画を生み出してきた軍地さんのアプローチは、デジタルファッションデザイナーの創作プロセスとも多くの共通点があることが明らかになりました。

 このほか、今年4月には社会学や心理学、哲学といった文系の博士号を持つ研究者が集い、社内で講演やワークショップを行う「ココネ研究所」を設立。顧客の心に届く新たなヒット商品を生み出すためには、デザインの技術や知識だけではなく、認知心理学や文化人類学的な側面から研究された発想やアイデアがきっかけになるかもしれません。

服が作れなくても「ファッション」が作れる仕事

 若い才能の発掘を目的として今年「デジタルアートコンテスト」を初開催したココネ。その背景には、より幅広い業界の若い才能たちにデジタルファッションに触れて欲しい、そして同社が単なるイラストレーター集団ではなく、デジタルファッションのトレンドや未来を作り出す会社であることを知ってほしいという想いがありました。

 最優秀賞には100万円という、国内の学生も対象としたコンテストとしては高額な賞金が設定された第1回のコンテスト。300通を超える応募作品が集まったものの、最優秀賞は該当なしという結果になりました。審査基準は、「独創性、創造性」「デザインの完成度」といった技術的な側面に加えて、「商品になった時のイメージができているか」という現実的な視点、そして多くのユーザーがデザインに求める「世界観」や「物語性」だと言います。

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Cocone Pen マネージャー 佐々木さん

今回、残念ながら選出できなかった最優秀賞にふさわしい方を、次回は選出できたら嬉しいというのはもちろん、応募作品から新しい発見を得ることができたら嬉しいです。第1回の応募作にも着眼点やテーマがユニークな作品がとても多かったので、次回以降はそれぞれの得意な領域にフォーカスした特別賞を増やすことも検討しています。

 同社が定義する「デジタルファッションクリエイター」とは、仕様書に合わせた絵を描くことができるスキルを持った人ではありません。顧客のニーズを汲み取り、独自の世界観を生み出すことができる人。世の中のニーズを汲み取りながらも、たった1人の「誰か」に刺さる熱量のこもったストーリーを描ける人。求められるのはAIに取って代わられることのない「人」の手による仕事です。そして、そうした世界観の表現や、時代の空気感・トレンド、顧客の求めるものを察知することができる鋭い感性、そしてただトレンドを追いかけるだけではなく、まだ誰も気がついていない潜在的なニーズを掴む嗅覚はファッション業界のクリエイターにこそ備わっている素質ではないでしょうか。

 ファッションに興味があっても、デザインや素材選び、パターン、縫製、生産、流通など1人の力でブランドをやっていくのは難しい。でも1枚の絵に世界観を込めることができれば、それは画面の上で完成させることができる新しいファッションデザインの形なのかもしれません。フィジカルでのファッションが好きな人にこそ知って欲しいデジタルファッションクリエイターという仕事の本質。それは、1人でも多くの夢を持ったクリエイターが自分の好きなことを仕事にして生きていくための新たな選択肢の一つとして、今確かに存在感を強めているのです。

INFORMATION
ココネでは、新卒から経験者まで、幅広いキャリアを持った商品企画職(バーチャルファッション・アイテムデザイナー)を募集しています。
採用募集ページ

photography: Masahiro Muramatsu | text & edit: Chikako Hashimoto, project management: Kazuhiro Oyokawa(FASHIONSNAP)

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