Image by: FASHIONSNAP

Image by: FASHIONSNAP
現役の医学生として学ぶ傍ら、グラフィックアーティストとして活動する陣内良⾶。「医術と芸術はかつて“Art”という1語だった」と語り、両者を再び接続するプロジェクト「IGEI(医藝)」を立ち上げた同氏が、展覧会「イコール・メディカル・センター(=QUAL M=DICAL C=NT=R)」を開催した。テーマに据えたのは、病院で既成事実化している“顧みられなかった不合理”だ。なぜ患者に服装の自由はないのか、なぜ白衣は白でなくてはならないのか──。医療のリアルを知る当事者だからこそ感じる疑問や違和感を、アートやファッションに託してストリートへと持ち出した。権威主義の中心でその弊害に向き合う想い、医療服につきまとう記号性、現代医療が天秤にかけてきた人間的豊かさの価値についてまで。陣内の言葉から見えてきた未来の医療のあり方とは。
ADVERTISING
陣内良⾶ Ryoto Jinnai | グラフィックアーティスト
2000年神奈川県⽣まれ。筑波⼤学医学群医学類6年。医学を学ぶ傍ら、東京を拠点にデザイナー・アーティストとして活動。これまで TBS、Redbull Japan、Chim ↑ pom from Smappa! Group、Dos Monos、脳盗・奇奇怪怪、Sleep Development Goalz などにデザインを提供してきた。2024年には、ヴィジュアルデザインを⼿掛けた「盗」が「ACC CREATIVE AWARD」を2部⾨で受賞したほか、Chim↑pom from Smappa! Group が⽴ち上げたアートフェス「BENTEN」のデザインを担当。2025年に自身のプロジェクト「IGEI(医藝)」を立ち上げ、現代美術やグラフィック、ファッションデザインなどの複合的観点から医療と芸術の融合を目指している。

⎯⎯まず、陣内さんの仕事やお立場について簡単に教えてください。
筑波大学医学部の6年生です。国家試験の合格発表が3日前にあって、無事合格したので4月からは医師として働き始めます。その傍ら、デザイナーやアーティストとして活動しています。ファッションデザインや、クリエイティブディレクションを行うこともありますが、基本的にはグラフィックがメインです。
⎯⎯どういった経緯でアーティスト活動を始めましたか?
もともとアートが好きで、医学部に入ると決めた時から「アートと医療をミックスした活動をしよう」ということは決めていました。絵を描くことは昔から好きだったので、入学後はとりあえずグラフィックデザインから始めて。勉強で使っていたタブレット端末で制作をするようになりましたね。特にどのメディアで表現するかにこだわりはなくて、ヒップホップダンスにも並行して取り組んでいました。
⎯⎯創作のベースにはヒップホップ文化からの影響がありますか?
直接的にヒップホップを感じさせる絵柄を作りたいわけではないですね。持たざる者であってもクールであれば評価されて受け入れられる、ストリートカルチャーのあり方が良いなと思うんです。反権威主義というか、誰もがフラットな関係を築ける平等さに惹かれます。患者さんと医師の関係を対等なものにすることを目指す上で、表面的なことではなくそうした精神性を作品に取り入れているつもりです。

シューズアーティスト ⼾⽥健太とのコラボレーション作品。外反母趾を引き起こすハイヒールを、本物の医療用ギプスで模った。

戸田のシューズ作品に合わせて製作した陣内によるグラフィック作品
⎯⎯医療はミシェル・フーコーの言う「生権力」の最たる例で、構造的に権威主義的なものとして捉えられがちです。
そうですね、確かに1番わかりやすいのは医師と患者の上下関係ですし、僕もその一部です。ただ、医師も結局はガイドラインに縛られていて、さらに上位の産業や国家の利権がそれらを決定づけている。そうした権力の入れ子構造があって、そこから生じる矛盾や不合理が現場には山ほどあります。そうした問題を「病院はそういうものだから仕方ない」と無視するのではなく、現場にいるからこそ実感できる疑問や不満を広く発信して、皆で考え直したい。その契機にアートがなれば良いなと思うんです。
⎯⎯「白い巨塔」の内側にいるからこそ表現できるリアルがあると。
僕は現代美術にも強い関心があるのですが、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)の幾つかの作品をはじめ、医療を主題に批判的なメッセージを込めたものは少なくありません。でも、医学を実践的に学ぶ身からすると、その批判は抽象的な概念としての医療にしか向けられていないように思えるというか。例えば、作品に登場するモチーフが実際の現場では使われないものだったりしたときに、現実と接続しないことがもったいないと感じるんです。内側にいる自分であれば、もっと深いところでアートと医療を繋げられる、現実の問題を動かすようなことができるんじゃないかと。
⎯⎯そうした思いが「イコール・メディカル・センター」の土台にあるんですね。このブランドはどういった経緯で始めたんですか?
学業の傍らグラフィックデザインの仕事を始めたのですが、規模が大きくなるにつれて段々と比重が逆転して、6年生で一度留年してしまったんです。両立できているつもりだったのですが、医学生としての本分が疎かになっていたことをそのとき痛感しました。本末転倒だなと思って、医学ともう一度きちんと向き合うために昨年立ち上げたのがIGEI(医藝)というプロジェクト。その一環として始めた同名のポッドキャストで、シューズアーティストの⼾⽥健太さんやPERIMETRONの神⼾雄平さんなどと、医療とアートをテーマにした対談を重ねてきました。

その中で、ただインターネット上で喋るだけじゃなく、もっと直接的に社会に働きかけたいと思うようになって。ファッションであれば、その服を着た人たちが街を歩いて生活に溶け込んでいくことで、ある種のパフォーマンスアートのようにメッセージを拡散できると考えてブランドを作りました。ブランド名は、医師も患者も、病院の内外も平等で同等だという思いをダイレクトに表現したもの。架空の病院をコンセプトに据えて、その制服という設定で服を作ればパッケージとして分かりやすいと思ったんです。
⎯⎯「病院の内外は同等」というメッセージは、現実にはそこに隔絶があるというご自身の実感の裏返しなのでしょうか?
病院って医師にとっては職場なんですけど、患者さんにとっては生活の場であり居住空間なんですよ。街や家と可能な限り同じように過ごして良いはずなのに、例えば患者さんは指定の服装をあてがわれますよね。それがめちゃくちゃダサい上に、慣習だというほかにダサい服装を強いる理由はない。「オシャレをする」といった病院の外なら当然にある人間的な豊かさが、病院ではことごとく不合理に禁じられているんです。それがいつまでも顧みられないことにずっと疑問がありました。病院の廊下ってラミネートされた木の写真が等間隔で貼ってあったりするじゃないですか。もはやサイバーパンクじみているというか、逆に非人間的ですよね。ただもっと普通に暮らせば良いだけなんですよ。現代医療へのアンチテーゼみたいな仰々しい話じゃなくて、単純で当たり前のことに目を向けて欲しいだけなんです。


⎯⎯それが、「なぜ白衣が黒ではいけないのか?」という純粋な疑問へと繋がると。
そもそも白衣自体、19世紀に生まれたもので大した歴史はないんですよ。今でこそ医学の象徴のように捉えられていますが、白衣が生まれるまで医師の服装は黒かった。さらに言えば、近年はスピリチュアルや似非科学みたいなものも白をシンボルカラーに用いていたり、色の象徴性自体がどこか胡散臭いというか流動的で相対的なものなんです。であれば、医師の服装を黒に戻してはいけない理由などないはずだと。医療における固定観念を崩す第1歩として、色は最適な要素だと考えました。
⎯⎯アイテムのデザインについて教えていただけますか?
まずは、Tシャツとスクラブ(医療用制服)を作りました。全く同じグラフィックを落とし込んで同価格で販売することで、両者を置換できる等価なものとして提案したかった。病院の内外に同じデザインの服を着た人が同時に存在していることで、その間にある壁を開通できると考えたんです。
販売が間に合わずに展示だけになってしまうのですが、スナップボタンで袖やフードを取り付けられるようにしたスクラブも製作しました。実はフード部分はバッグにもなるんです。スクラブという基本の構造は崩さずに、それをあらゆるシチュエーションでフラットに着られる服にすることで、医療用という文脈から切り出してしまおうという試みでした。スクラブもまた2000年前後に生まれたもので、医療のシンボルとなるべき由縁などないですから。




⎯⎯医療服をファッションとしてデザインする上で、もっとも重視した点はなんですか?
医療やその制服・器具が持つエッジィさを強調しないことですね。最近だとグレン・マーティンス(Glenn Martens)の「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」でマウスピースが話題になりましたが、ああいうデザインは医療の異質さを強調しているにすぎないと思います。僕が望むアプローチは真逆で、リアルな医療服を違和感なく街に溶け込ませたい。スクラブが単なる服の一形態でしかなくて、それを着て原宿を歩けるということを示したいんです。例えばアメリカでは、医師はスクラブを着たまま街を普通に歩いている。日本ではまず見ない光景ですが、海の向こうでは当たり前なんですよ。一方で、医師が病院でTシャツを着たっていいと思うし、最終的にはあらゆる服から意味が剥がれ落ちて、服が人を規定しなくなればいい。
⎯⎯医療服がその記号性を失うほどにファッションに浸透することを目指そうと。
現代ではファッションアイテムとして浸透しているMA-1を例に取りましょう。元々は米軍パイロットの服で、狭いコックピットで邪魔にならないように丈が短く設定されたわけですが、そんなことを意識して着ている人なんてほとんどいませんよね。もちろん、街でそれを着ている人を見てもパイロットだなんて思わない。ではなぜ、医療服はその記号に縛られて拡張性を減じなくてはならないのか。その背景にある要因は、病院生活の不自然さや不合理さにも繋がると思っています。僕の取り組みが、そうしたことに疑問を持つきっかけになれば嬉しいです。
⎯⎯陣内さんの言う病院生活の問題とは具体的にどのような?
例えば、せん妄という精神障害があるのですが、これは入院患者に起きやすいものと言われています。治療のストレスや薬の影響などを含む体の負荷によって、昼夜逆転や幻覚、意識の混濁といった症状があらわれます。大雑把に言えば、病院生活で心が参ってしまうわけです。そして、それを改善する方法というのが「普段履いている靴を持ってくること」であったりすることも、病院がいかに異常な環境であるかの証左と言えます。

クリエイティブクルーのCLOVEROMとコラボレーションした映像作品「Am I Living?」

展示作品の1つにせん妄をテーマにした映像があり、「病院の天井の模様が歪んで虫のように見えてくる」という典型的な症状の1つを再現しています。音楽は、医療器具から生じる電子音をサンプリングして作ったものです。誰にとっても不快に感じる映像や音楽であるはずなのですが、それが病院生活の現実なんです。生命を含めた体の健康を守るために、非人間的な環境が甘受されるべきだと僕は思いませんし、心の健康との両立を可能な限り追求するべきだと考えています。
⎯⎯病院内外の生活様式・環境の差を埋めていくことが、陣内さんの目標ということでしょうか?
まさにそうです。医療現場は人間の深い部分を扱っている場なのに、そこで追求されている価値がすごく一面的。医術を提供することだけじゃなくて、病院という環境そのものを改善することも十分治療になりうると思っています。AIが風邪を正確に診断できる時代になり、医師の役割も変わっていくはずなんです。表情が優しいとか、声が落ち着くとか、今の医師にとって全く評価の対象にならない要素が、将来的には優位性になり得ると考えています。「病は気から」という言葉はあながち間違いではなく、体の健康と同時に心をいかにケアできるかが、今後の医療ではより大きな価値を持つと思います。このプロジェクトは、そうした時代に備えたものです。
⎯⎯医療と芸術を接続する必要性や価値をどのように考えてますか?
医術と芸術は、かつては“Art”の1語で表されていました。やがて科学の発展で分化したわけですが、よりよく生きるための知恵や技能という点では共通しているのです。なので、全く異質なものを接続するというより、元来の関係に巻き戻してみるという感覚です。僕は、未来だけを見つめることが進歩だとは思いません。立ち止まったり振り返ったりすることが、前進のきっかけになることもあります。その思いを再生停止の記号に込めて、ロゴにも取り入れました。

医療って、小難しく捉えられがちで。例えば、僕が一般的なアーティストだったとして、病院に置く絵を描いてくれと頼まれたら、きっと当たり障りのない作品を用意してしまいます。絵が患者さんに与える影響にビビったりして、浅いアプローチにきっとなる。ホスピタルアートのような取り組みは近年増えましたが、あまり決定的な変化をもたらせていないように感じる理由は、アーティスト自身と医療現場の距離感にあると考えているんです。僕はその隔絶を埋めたいんです。
⎯⎯最後に、今後の展望について教えてください。
IGEI(医藝)のポッドキャストは不定期で続けながら、活動を通して繋がったアーティストとのコラボレーションや、イコール・メディカル・センターのラインナップ拡大も行っていきたいです。ファッションだけでなく、実はトレーディングカードのプロジェクトも進行中なんです。医療というものに遠慮せず親しんでもらえるような、面白い企画をどんどん打ち出していきたい。個人としては、無事に国家試験も合格したので医師としての本分を全うします。もちろんアーティスト活動も両立しますが、僕自身のメンタルヘルスも重要だと考えているので、自己犠牲にならない範囲で無理なく続けていきます。家族や恋人、友達などをちゃんと愛せる健康な心で、やれる時にやれることだけやっていきたいです。

最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【インタビュー・対談】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

4月25日オープンの「クオーツ心斎橋」、全52店舗のテナント詳細が発表

















