Image by: FASHIONSNAP

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ファッション業界で後を絶たない模倣品問題。直近では、人気ブランド「スナイデル(SNIDEL)」「リリーブラウン(Lily Brown)」などを手掛けるマッシュスタイルラボが、ファッションECの「グレイル(GRL)」を運営するアートデコとジオの2社を不正競争防止法違反で提訴し、マッシュスタイルラボが3億円の和解金を受け取る形で決着した。3億円は、公表されている模倣品訴訟の和解金としては最高額とも言われる。なぜこの金額なのか。そして、そもそも模倣の定義とは何か。ファッションローに注力する海老澤美幸弁護士に聞いた。
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商品点数の多さなどから3億円に















対象となった商品。左がマッシュスタイルラボ、右がグレイルの商品
Image by: マッシュスタイルラボ
⎯⎯今回、3億円という非常に大きな金額の和解金が支払われたことも注目を集めました。
海老澤美幸弁護士(以下、海老澤):金額の大きさは、対象となった商品の数などによるものだと思います。今回は17点の商品が対象となっており、グレイルによる販売数量や利益額も大きかったのではないでしょうか。
損害額の計算にはいくつか方法がありますが、ざっくり言うと、模倣品を販売した側(グレイル)の販売数量に、権利者側(マッシュスタイルラボ)の1商品あたりの利益額を掛け合わせて算出する方法です。ここから、模倣品を販売した側の販売数量が権利者側の販売能力を超える場合や、権利者が販売できなかった事情などがあれば、その分が差し引かれることになります(これを法律用語で「覆滅」といいます)。この計算方法による場合、権利者側の1商品当たりの利益額が大きく、模倣品を販売した側の販売数量が多ければ、損害額は大きくなります。マッシュスタイルラボの商品価格は、グレイルの商品価格の5倍から10倍程度かと思いますので、マッシュスタイルラボの1商品当たりの利益額は大きいでしょう。また、グレイルは安く大量に販売するスタイルですから、販売数量も多いのではないかと思います。そのため、覆滅の点を考慮しても、損害額は大きくなると考えられます。
もう一つの損害額の計算方法が、模倣品を販売した側が得た利益額を損害額と推定する方法です。今回、裁判所がどちらの計算方法に重きをおいたのか分かりませんが、いずれにしても、問題となった商品の点数が多いことや、マッシュスタイルラボの1商品当たりの利益額が高くグレイルの販売数量が多いこと、グレイルの利益額だけを見てもそれなりに大きな金額だったことが影響したのではないかと思います。
アイランドの「グレースコンチネンタル(GRACE CONTINENTAL)」が宮崎のアパレル企業を不正競争防止法で訴えたケース(2019年)では、商品8点中7点が模倣と判断され、約1億4000万円の損害額が認められました。今回のケースと単純な比較はできませんが、今回対象となった商品点数はその倍以上ですから、17点すべてが模倣と認められないとしても、3億円というのはありえる金額のようには思われます。
⎯⎯グレイル側は「あくまで和解であって法律違反と認定されたわけではない。話し合いの中でお互いが円満に解決した」とコメントしています。
海老澤:今回は和解で終結しており判決が出たわけではありませんので、グレイル側としてはこのようにコメントすることになると思います。他方で、3億円は裁判所が提示した金額かと思いますが、裁判所としては、おそらくは17点全部ではないにせよ、ある程度の商品は模倣に当たるのではないかとの心証を持っており、その前提で3億円を提示して双方を説得したのではないかと思います。
⎯⎯ファッション業界において、模倣品の問題は永遠の課題の1つです。模倣品を法律で裁く際には、今回のように不正競争防止法がよく出てきます。
海老澤:今回のように、服のデザインを模倣(形態模倣)されたケースでは、不正競争防止法第2条1項3号が問題となることがほとんどです。意匠登録をしていれば意匠権侵害を主張できますが、ファッションデザインでは登録しているケースは多くないため、不正競争防止法で対応することになります。
デザインの権利というと著作権を想起される方が多いのですが、衣服を含む実用品の形態・デザインが著作権で保護されるハードルは高いのが実情です。この背景には、実用品の形態・デザインは基本的には意匠権で保護しようというすみ分けの考え方があるとされています。意匠権で保護されるには登録が必要ですが、意匠登録には時間も費用もかかることや、出願は原則としてデザインの公開前に行わなければならないことなどから、一般的なファッションデザインではそこまで使われていません。ここで登場するのが、不正競争防止法2条1項3号なのです。不正競争防止法2条1項3号はいわゆる丸パクリ(デッドコピー)を規制するもので、登録なども必要なく、国内での販売から3年間に限り保護を受けられます。
「○ヶ所変えれば模倣にならない」は誤り

「スナイデル」2026年夏物展示会から
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⎯⎯不正競争防止法では、形態模倣を具体的にどう定義しているのでしょうか。どういう状態が模倣にあたりますか?
海老澤:まず、不正競争防止法では、「商品の形態」を「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」(第2条4項)と定義しています。そして「模倣」とは、「他人の商品の形態に依拠して(※①)、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと(※②)」(第2条5項)とされています。つまり、①依拠と②実質的同一という2つの条件を満たすと形態模倣になります。
①依拠とは、元になる商品を参考にする、といったイメージです。そして、②実質的に同一 については、法律にこれ以上の明確な基準が書かれていないため、過去の裁判例などから基準となる視点や傾向を探っていくことになります。
⎯⎯②実質的に同一 の明確な基準がないというのは、事業者側にとっては判断が難しいです。業界内では「3ヶ所以上変えていたら、模倣には当たらない」などという真偽不明な言説も聞きますが。
海老澤:「○ヶ所変えればOK」などというのは、ただの都市伝説ですから鵜呑みにしてはいけません。繰り返しになりますが、何点以上変えれば模倣には当たらないといった明確な基準はなく、「実質的に同一」かどうかを個別に判断するしかありません。裁判所がどのような視点で見ているのか、過去の裁判例からその傾向を探っていくと、おおむね「商品の特徴的な部分を真似しているか」「需要者(消費者)が同じ商品だと感じるか」「(変更している部分が)事業者にとって容易に想起できる変更か」などのポイントを重視しているようです。
例えば、特徴的なモチーフのように、労力を投下して考えられたデザインをそのまま真似すれば、実質的に同一との判断に傾きやすいでしょう。一方で、長袖を半袖に変更したり、色を変えたりすることはアパレル関係者であれば容易に思いつくでしょうから、袖の長さを少し変えただけ、あるいは色を変えただけでは、実質的同一の判断にあまり影響はないように思われます。これらの視点を総合的に勘案して、模倣か否かが判断されます。
⎯⎯不正競争防止法では、どんなデザインでも保護されるのでしょうか。例えばシンプルなスカートのデザインまで保護されてしまうと、誰もスカートを作れなくなってしまいますよね。
海老澤:不正競争防止法2条1項3号は、資金や労力をかけて開発した商品の形態の丸パクリ(デッドコピー)を一定期間禁止することで、先行開発者を保護する規定です。このような趣旨から、次のような形態は保護されないとされています。
まず、不正競争防止法2条1項3号にカッコ書きで「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く」と書かれている通り、その商品の機能を確保するために不可欠な形態は保護されません。こうした形態が保護されるとすると、特定の事業者に機能そのものを独占させる結果となってしまい、自由競争を阻害するからですね。
また、シンプルなスカートのデザインのように、もともと市場に存在する「ありふれた形態」も保護されません。資金や労力をかけることなく極めて容易に作り出せるわけですから、保護の必要がないわけです。
このような趣旨から、保護期間が国内での販売開始から3年間に限定されています。3年間あれば、投下資本を回収できるでしょう、ということですね。逆に言えば、3年がすぎたデザインは、他の法律で保護されない限り、模倣して構わないということになります。
⎯⎯グレイルは2015年にマッシュスタイルラボに模倣で刑事告訴され、当時の社長らが逮捕されました。その際のグレイルの年間売上高は70億円前後といった報道でしたが、求人サイトの情報などによれば、直近では385億円ほどに成長しているようです。グレイルだけでなく、模倣品のマーケット全体が大きくなっているということでしょうか?
海老澤:模倣品の規模が拡大しているとのニュースも見られますし、体感的にも模倣品のマーケットが拡大している印象を持っています。製造技術やデジタル技術、AI技術が目まぐるしく進化し、服の写真さえあればそれをもとにパターンを引いて短期間で模倣品を作ることができてしまう。また、マーケットプレイスなどを通じて、模倣品を販売することも簡単にできるようになっています。われわれの事務所に持ち込まれる案件としても、模倣品に関するご相談は非常に増えています。
⎯⎯模倣品が出てきた場合、具体的にどう対処すればよいのかを教えてください。
海老澤:模倣品を販売している相手が特定できる場合には、相手に警告書を送付し、販売の中止や販売ページの削除、損害賠償などを求めることが一般的です。相手がこれに応じないなど話し合いでの解決が難しい場合は、次のステップとして、訴訟提起などの法的手段を検討することになります。ことファッション関連でいえば、水面下で終わるケースがほとんどで、訴訟にまで発展するケースはごくわずかだと思います。
⎯⎯水面下で終わるケースがほとんどなんですね。それはなぜですか?
海老澤:大きな要因としては、やはり法的手続きにはお金と時間と労力がかかる点があると思います。端的に言えば、訴訟にかかる費用と、訴訟で認められる損害賠償金とのバランスがある。今回のように17点も対象商品がある場合は訴訟に踏み切りやすいですが、1〜2点の場合は損害額がそれほど大きくならないことも多く、それでも訴訟をするのか悩ましいところです。これ以外にも、相手の支払い能力の問題などもあります。
⎯⎯水面下でのやり取りの場合、どのような内容で解決していくのでしょうか?
海老澤:権利者側の意向などにもよりますが、対象商品の販売を中止して販売ページなども削除し、在庫も廃棄して、「二度とやりません」と誓約して終わる、というのは1つの解決方法だと思います。また、何らかの解決金を支払って終わるケースもあります。場合によっては、権利者側が公表できることを条件にする場合もあります。相手としては公表してほしくないと考えることが多いので、他の条件とも兼ね合いも考えながら、妥結点を探っていくことになります。
SNSでの模倣の告発にはリスクが伴う

「グレイル」公式サイトのスクリーンショット
⎯⎯近年は、資本力のない中小のブランドや作り手がSNSで告発し、共感を集めるケースも目にします。
海老澤:個人的には、「模倣された」などとSNSで告発するのはやめた方がいいと考えています。「自分のデザインが模倣されている」と感じたとしても、それが本当に法律上の模倣に当たるかどうかの判断は難しい。実際、SNSで炎上したケースで、法律の専門家からすると、「模倣とまでは言えないのでは?」と感じるケースもそれなりにある印象です。法律上は模倣には当たらないのに、「あのブランドは模倣している」などと吹聴することは、虚偽の事実を告知・流布する行為(不正競争防止法2条1項21号)に当たる可能性もありますし、営業妨害や名誉毀損などに当たる可能性もあります。SNSに書き込むことで、逆に相手から訴訟を起こされたり、損害賠償請求をされたりするリスクがあるので、書き込む前に専門家に相談してほしいなと思います。
⎯⎯「そもそもファッション産業は、ランウェイに出てくるデザインを真似することで昔からトレンドを作ってきたじゃないか、そういう業界構造じゃないか」という指摘もあります。
海老澤:ファッションをはじめ文化というものは、真似し真似されながら発展してきました。ことファッションについて言えば、似たようなデザインや色、柄などを「トレンド」と呼ぶように、近しいデザインが出てくること自体がファッションの本質と言っても過言ではありません。ファッションに限りませんが、何かを参考にしたり真似たりすること自体が法律に違反するわけではありません。
他方で、他人のデザインを丸パクりする行為は単なるフリーライド(ただ乗り)であり、一線を超えていると言えるでしょう。大事なのは、自分のオリジナリティや独自性を加え、ちゃんと変えることだと思います。
実は、法律上模倣と認められる範囲はそこまで広くはありません。SNSの炎上などを見ていると、一般の方々が模倣と感じる範囲がやや広がり過ぎているのではないか……と懸念を抱いています。専門家として、正しい知識をお伝えすることが重要だと感じています。
⎯⎯マッシュとグレイルの訴訟を他山の石として、自社が模倣問題を起こさないようにできることはありますか?
海老澤:相手から訴訟を提起された場合はもちろん、相手から模倣品だとクレームを受けた場合、調査や相手への謝罪、お客さまへの返金返品対応など多大な費用と労力がかかります。それだけでなく、「模倣ブランド」というイメージがついてブランド価値が毀損され、お客さまからの信頼を裏切ることにもなります。そうした事態を防ぐためにどうするべきかというご相談は、普段から多くいただきます。
個人的には、「人」と「システム」の両面を整えることが重要だと考えています。「人」については、デザイナーをはじめとする現場の皆さんへの教育が大切です。そもそもどんな場合が模倣に当たるのか、模倣するとどんな事態が起きるのか、それを防ぐために何に気を付けるべきか。現場の皆さんがこうした知識を身につけ、模倣への意識を高めてもらうことで、模倣の芽が発見されやすくなり、模倣そのものを防ぐことにつながります。
「システム」については、現場の皆さんからの声が集まりやすく、また専門家に円滑に相談できるような体制を作ってもらうことが重要です。具体的には、担当部署や担当者を決め、現場の方がアクセスしやすい窓口を設置していただくとともに、担当部署や担当者と専門家の連携を高めることだと思います。私自身、日々、クライアント企業の皆さんから「このデザインは問題ないか」といった相談を受けています。専門家とやりとりを繰り返すことで、担当部署や担当者の方々に感覚値や知見が蓄積され、社内である程度判断できるようになります。それが一番効率的で、理想的だと思います。
社内の関係者が参加するチャットグループを作って、そこに気になる商品の情報や画像を投げてもらう方法もおすすめです。「これはあのデザインに似ているよね?」という誰かの気付きを端緒として、確認や調査を始めることができる。一人ではなかなか気づけないリスクも、多くの人の目を通すことで、気づきやすくなります。この方法は、模倣だけではなく、ジェンダーバイアスや文化の盗用などの問題でも有効です。
⎯⎯模倣をすることで客の信頼を失うことは多くのブランドにとってはリスクですが、そもそも“パクリブランド”という立ち位置で、より安いことを売りに商売をしているケースもあります。それを求める消費者がいる以上、どうしようもないのでしょうか?
海老澤:悩ましい問題ですよね。少し前には、Z世代やミレニアル世代の間で「Dupe(デュープ)」「ジェネリック~」など、手ごろな価格で買える代替品がトレンドになっていることも話題になりました。個人的には、やはり「このブランドが好きだ」「このブランドの世界観を楽しみたい」と消費者に思ってもらうことが重要になるんだと思います。そのためにブランド独自のストーリーや世界観を表現し、その世界に自分も属したいと消費者に感じてもらう。ブランド育成において、そういう観点が欠かせなくなっているのではないでしょうか。
また最近は、例えば化粧品ならブランド自身が小さなサイズのトライアル商品を販売するなど、より手軽に試せる安価な商品を販売する動きもあります。ブランド自身が柔軟に対応していく姿勢が大事になってくるのかもしれません。
今回のマッシュスタイルラボのように、企業やブランドが模倣品に対して毅然と対応することは、健全な世の中を作っていくことにもつながります。訴訟を含め、模倣品に対抗することはお金も時間もかかるので、残念ながら全ての企業やブランドができることではありません。だからこそ、マッシュのような大手企業が動くことが、「模倣品は許されない」というメッセージを世の中に打ち出し、世の中に共通意識を作っていくことになるのではないかと思います。
⎯⎯消費者1人1人が意識することはありますか?
消費者の皆さんがより安くファッションを楽しみたいという気持ちは当然です。他方で、その商品は誰かの商品を丸パクリした模倣品かもしれません。模倣品を購入することは、フリーライドを許し、被害を受けたブランドや企業、ひいてはファッション産業全体に影響を与えることになります。そうした点はもっと意識されるといいなと思いますし、メディアなどがそうした認識を世の中にしっかり広げていくことも大切なのではないでしょうか。
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