
オシャレで高感度なあの人がリアルに使っている登山装備を深掘りする連載企画「あなたの愛用登山グッズを教えて」。第1回は、映像ディレクターとして活躍する上出遼平さん。「登山は下山が醍醐味」と独自の視点で山を歩き続ける上出さん。幼少期から山が身近にあり、「登頂」だけにこだわらない自由なスタイルで山を楽しむ彼に、登山観や愛用ギア、山での哲学を伺いました。
目次
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上出遼平さんの登山プロフィール
登山歴:20年以上
スタイル:ロングトレイル、テント泊、縦走
登った山:南アルプス(農鳥岳、間ノ岳、北岳)、ジョン・ミューア・トレイル、ニュージーランド・タラナキ山、奥多摩など

上出さんに「登山はいつから始めましたか?」と問いかけると「ベビーカーを降りた瞬間から山を歩いていた」と笑い混じりに教えてくれました。上出さんは西東京生まれ。家族で奥多摩に通い、山が日常の一部だったそう。彼が「ザックを背負い、自分の足で山に入った」のは高校生の頃。実在した登山家 加藤文太郎をモデルにした山岳小説「孤高の人」に影響を受け、南アルプスを単独で縦走を決意。ヤフオクで山道具を買い漁り「父親が使っていた“死ぬほど重い”ステンレス鍋」までザックに詰め込んで、富士山の次に高い山「北岳」に挑みました。そうして始まった単独行は、大橋未歩さんと結婚するまで続き、今の自由な登山スタイルの原点となっています。最近は、夫婦でのロングトレイルや、数日間山に“住む”ような感覚で歩くことが多いそうで、日帰り登山はほとんどせず、長期の山行を好んでいるとのこと。「登山は“登頂”が全てではない」と語る上出さん。若い頃は山頂を目指すことが主目的だったが、経験を重ねるうちに「山のどの部分を楽しんでいるのか」を自覚し、今は「歩いたことのない場所を長く歩く」ことに魅力を感じているとのこと。
夫婦でのロングトレイル好きが高じ、新婚旅行先に選ばれたのは「ジョン・ミューア・トレイル」。アメリカ西海岸を南北に縦断する全長約4200kmのパシフィック・クレスト・トレイルの一部です。時間が限られていたことから、新婚旅行で歩けたのはほんの一部分だけ。いつかこのトレイルを最後まで歩き切ってみたいと思い続けているそうです。また、意外なことに上出さんは北海道の山には入ったことがないそうで、大雪山系など、雄大な自然が広がる北の大地にチャレンジしたいと話してくれました。
そんな上出さんに「登山の醍醐味は?」と尋ねると「下山」と即答。「入山した瞬間から、下山のことしか考えていない」と語る上出さん曰く「長く歩けば歩くほど、荷物は重くなり、体もどんどん汚れていく。シャワーも浴びられず、ただひたすら前に進む日々。そんな時、ふと頭に浮かぶのは、数日後に待っている街の風景。電線が見え、舗装された道が現れ、ご飯屋さんの看板が目に入った瞬間、もうたまらず駆け出してしまう」のだそうです。着席と同時に頼むビールの一杯が、何よりも最高のご褒美。「どれだけ辛くなれるか。その分、下山の喜びが大きくなるんです」。山での苦しさも、すべてはあの下山の瞬間のため。上出さんにとって、登山は“下山の喜び”を味わうための、ちょっと長い寄り道なのかもしれません。

YouTubeチャンネル「muda」や「ハイパーハードボイルドグルメリポート」など、上出さんの仕事を見ると、やりたいことを全力で楽しんでいるうちに、それがいつの間にか仕事になっている印象を受けます。そのことを伝えると「公私混同なんです」と、上出さんは少し照れくさそうに話します。仕事と遊びの境界線がほとんどない働き方に憧れる人もきっと多いはず。上出さんが大切にしているのは、「全力で遊ぶ」ということ。「楽をすることと、楽しむことはまったく違う。遊びに本気で向き合うからこそ、そこから生まれるアウトプットには、たとえ不器用でも、どこか人をワクワクさせる力が宿るのだ」といいます。
「僕は東京生まれですけど、一度も東京ディズニーランドに行ったことがなくて。それも同じ理由なんですけど、受け身の消費者にはなりたくないんです」(上出遼平)。
自分が本当に能動的に楽しめた体験だけが、誰かの心にちゃんと届く。だからこそ、楽をせず、遊びにも仕事にも、いつも自分から飛び込んでいく。そんな上出さんの姿勢が、山でも日常でも、変わらずに息づいています。
上出遼平さんの入山スタイルスナップ

名前:上出遼平
職業:映像ディレクター
アウター:THE NORTH FACE
インナー:山岳制服振興会
ボトムス:GoldWin
シューズ:THE NORTH FACE
帽子:macpac
サングラス:OAKLEY
グローブ:GoldWin
ソックス:DARN TOUGH
「登山ウェアのこだわりがどんどんなくなってきてしまった」と上出さん。そんな上出さんの愛用品は土管のようなシルエットが特徴的な「ゴールドウイン(GoldWin)」のパンツ、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」の登山靴など、王道アウトドアブランドをはじめ、その脇を固めるのが、上出さんが中高時代の同級生たちと共同で立ち上げた「山岳制服振興会(以下、山服会)」のアイテム。“半袖フリース”という中途半端さが売りである山服会のインナーは、変わりやすい山でのトレッキングを快適にしてくれるレイヤリング(重ね着)を楽にしてくれるアイテム。「半袖フリースという中途半端さが常にちょうどいい」と上出さん。ネパールで入れてもらった刺繍が施されている「マックパック(macpac)」のキャップは、たくさん旅してきた上出さんならではのアイテムです。見た目がちょっとトリッキーな「オークリー(OAKLEY)」のサングラスは、その見た目とは裏腹にフィット感が◎。「オークリーのレンズは視界がクリア」なんだそうです。
長い登山歴の中で、ビバーク(緊急避難的野宿)した経験も。妻である大橋さんと入山したニュージーランド北島にあるタラナキ山の「アラウンド・ザ・マウンテン・サーキット」では、道しるべのはずの木が倒れていたり、あるはずの橋がなかったり、植物が生い茂ってルートが消えていたりとさまざまな不測の事態が起きたそう。人の気配がほとんどない静かな山の中で、何度も道に迷った時に頼りになったのが「ガーミン(Garmin)」の腕時計。ルートを確認しながら、なんとか無事に歩き切ることができたそうです。
登山バッグの中身

- 「ハイサンソー(haisanso)」のバックパック:山服会の仲間が作るバックパックブランドのファーストプロトタイプ。リュックの背中側に長いマットを差し込んで、それをクッションや骨組みの代わりに使うという、ちょっと大胆で面白い作り。
- 「マキシ(MAXI)」の純チタン製のボトル:冷える夜はボトルごと火にかけて湯を沸かし、そのまま湯たんぽとして使う。
- 「バーゴ(VARGO)」のアルコールボトル:ノズルの作りがよく、こぼれづらい上に、目盛があるので燃料の管理が簡単。
- 「カウンターアソールト(COUNTER ASSAULT)」の熊スプレー:日本でもアメリカでも熊スプレーは基本的に持ち歩いている。
- 「エバニュー(EVERNEW)」のカップ:極めてシンプルだが、槌目模様が美しい。
- 「スノーピーク(Snow Peak)」のクッカー:ウッドストーブ、アルコールストーブがジャストフィット。常にこの3点セットを持って入山。
- 「ブッシュバディ(Bushbuddy)」のウッドストーブ:晴れた日は小枝を使って燃料に。雨の日はアルコールストーブを中に置いて高効率な五徳として使う。
- 「シックスムーンデザインズ(SIX MOON DESIGNS)」の傘:なんだかんだ便利。
- 「ジーパックス(Zpacks)」のストック:両手が塞がるのは何かと不便なので重宝する。
- 火吹き棒:あるのとないのとで火の起こしやすさ、維持のしやすさが雲泥の差。
- 「カタダイン(KATADYN)」の浄水器:浄水スピード以上に、汲みやすさは重要。コンパクトな上に、ガバッと水を汲んで浄水できる。
- 「アングロ&カンパニー(Anglo&company)」のテンカラセット:知っている限りで最もコンパクトなテンカラ竿。
- 「ガーミン(GARMIN)」の時計:悪天候時に道迷いをした時、腕時計でルートを確認できたことはかなり助かった。
- 「ルナサンダル(LUNA SANDALS)」のサンダル:雪じゃなければほぼこれで歩いている。
- 「ガーミン」の衛星通信デバイス:どこにいても連絡が取れるというのはやはり安心。
- 「ソーラーパフ(solarpuff)」のソーラーライト:ナイトウォークの予定がなければこれ1つで賄える。
- 「ナイトコア(NITECORE)」のヘッドライト:とにかく軽い。
- エマージェンシーキット:テープ類や消毒類など怪我対応用と風邪薬など病気対応用で分類。
- 「山岳制服振興会」のバムフラップ:お尻にぶら下げる座布団。いつでもどんなシチュエーションでも、わざわざシートやマットを出さずに座れる。
- 「ジーパックス」のレインポンチョ:広げるとタープにもなる。
- 「ファイヤーボール(Fireball)」のウィスキーボトル:アパラチア山脈でトレイルをしている時立ち寄った街で買ったウィスキーボトルを再利用。プラスチックが一番軽い。
- 「ペンタックス(PENTAX)」のカメラ:とにかく小さい。レンズ交換式の本格一眼レフ。写りも悪くない。
- 「ジーパックス」のサコッシュ:ちょうど良いサイズ。使いすぎてだいぶ縮んでいる気がする。
- 「ヒルトップパックス(Hilltop Packs)」のフードバッグ:好きな写真をフードバッグに印刷できるサービスを提供している「ヒルトップバックス」。僕がプリントしたのはアラスカで、仲野太賀が山岳カメラマン ピコさんを撮影した写真。
- 「ナンガ(NANGA)」のダウンパンツ:ダウンパンツは1枚あると安心。
- 「アウトドアリサーチ(Outdoor Research)」のビビィサック:元々は寝袋の上からかぶせて使う防水カバー。最近はテントを建てるのが面倒くさいので、簡易シェルターとしてビビィサックで一泊してる。
- 「シートゥサミット」のシュラフシーツ:潔癖症なので、シーツが選択できるものを愛用。
- 「ウエスタンマウンテニアリング(Western Mountaineering)」のシュラフ:とにかく暖かく、発色も◎。
- 「山岳制服振興会」の手拭い:本染で製作した手拭いで水をよく吸い、すぐに乾く。一般的な手拭いより10cm長く、頭などに巻きやすい。
上出遼平さんの必需品3選
数々の山を歩きながら選び抜いてきた愛用品の中から、上出さんが特に信頼を寄せている「必需品」を3点ピックアップ。実際の登山経験に裏打ちされたリアルな視点で、機能性はもちろん、哲学までもが垣間見えるアイテムたちを紹介します。
歩行に、対戦に、マルチで役に立つ「ストック」

ブランド:ジーパックス
アイテム名:Carbon fiber staff
価格:約¥15,000
用途・シーン: 歩行時、渡渉時、対戦時
おすすめしたい人:両手が塞がるのが嫌な人、膝が弱い人

上出さん
ここ5年はこの1本で歩いています。カーボン製で、頑丈かつ軽量。一般的なストックより遥かに強度が高く、思い切り体重をかけたい場面でも問題なく使えます。先端にはチタンが取付けられており、熊や猪との“対戦”にも。
野外泊の安眠アイテム「熊スプレー」

ブランド:カウンターアソールト
アイテム名:熊よけスプレーCA290
価格:¥24,200
用途・シーン:熊の生息域を歩く時
おすすめしたい人:不安な人

上出さん
基本的には熊はどこにでもいるものと思って、常に携帯するようにしています。持っていると安心感が段違い。野外泊における安眠剤です。
調理に良し、乾かすのに良し「ウッドストーブ」

ブランド:ブッシュバディ
アイテム名:ウルトラストーブ
価格:¥16,000前後
用途・シーン:調理は容易でないが湯沸かしは簡単。濡れた靴下を乾かすこともできる。
おすすめしたい人:様々な状況に対応しなければならない長期山行を考えている人。最高の調理器具を探している人。

上出さん
軽く、高火力で燃えカスが非常に少ない。燃えカスが少ない=燃料が効率的に燃えている証拠。自然を汚さないのもポイントです。
コンパクトさも魅力で、スノーピークのトレック 900や、「トークス(TOAKS)」のチタニウムポットなど、定番クッカーにシンデレラフィット。僕は、スノーピークのクッカーにこのブッシュバディのウッドストーブを入れて、ブッシュバディの中に「エバニュー」のアルコールストーブを収めた状態で常にバックパックに入れっぱなしです。

バーナーとストーブがクッカーの中にシンデレラフィット

⛰️あなたの愛用登山グッズを教えて
・上出遼平さん
・大橋未歩さん
最終更新日:
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