インサイド

「明るく輝く未来を期待したい」　会場は質素な設えで、ランウェイは灰色の板。ショーの始まりを告げたのは、悲鳴とも取れる甲高い声だった。アンビエントなショーミュージックとともに動物の鳴き声のように響き渡り、会場に不穏な空気を漂わせる。「気が滅入るようなグルーミーな状況の中、明るく輝く未来を期待したいという気持ちをコレクションで表したいと思いました」　ショーの後に送られてきたコレクションテーマに、川久保玲の思いを示す一文があった。その言葉のとおり、ランウェイのグルーミー（＝憂鬱、陰気）な空気を切り裂くように、色鮮やかなルックがゆっくりと現れた。クラッシュする色柄と形　ファーストルックは、テキスタイルを細かく切り刻み、シャーリングを寄せたりプリーツ状に折って縫い合わせ、丸みのあるフォルムに仕立てられたドレス。よく見ると花柄のプリントだということは認識できるが、モチーフの全貌はわからない。　古典的な西洋絵画を想起させる子どもの顔、幾何学模様、ドットやチェックといった柄にはじまり、後半はレースやチュール、ラメといった異なるテクスチャーが一体の中で混ざり合っていく。シグネチャーの黒がランウェイピースにほとんど使われていなかったのも今シーズンの特徴だ。　形についても常識を逸脱している。アシンメトリーをはじめ、身頃のパーツのアウトラインを残したままランダムにはぎ合わせたり、チューブ状のパーツをぐるぐると巻きつけたり、衣服のあるべき形を極限まで壊す。まるで立体造形だが、デフォルメされた襟やリボン、ベルトといったディテールによって、ドレスとしての存在が保たれている。ビジューが輝くスニーカーとブーツ　モチーフをクラッシュさせるアプローチは、足元にも見られた。これまでも継続して協業してきた「サロモン（Salomon）」のスニーカーは、マルチカラーに彩られ、さらにランダムなビジューが全体を覆っているデザイン。2023年春夏コレクションで登場したSR811がベースとなっている。　同じくビジューで覆われたブーツは、メンズに引き続き、山本真太郎が手掛けるシューズブランド「キッズ ラブ ゲイト（KIDS LOVE GAITE）」とコラボ。　なお翌日から開催された展示会では、ビジュー付きのミニバッグや、マルチカラーのスニーカーとブーツも披露されていた。　さらに、ランウェイでは登場しなかったが、サロモンとのコラボスニーカーの新型も登場。プラットフォームの厚底ラバーソールは継続しつつアッパーが一新し、ホワイトとブラックが展開される。色の洪水となったフィナーレ　ショーの冒頭で悲鳴のように違和感を感じさせた声は、徐々に音楽と馴染み、コーラス風の歌声に変わっていった。そして特筆すべきはラストシーンだ。　コム デ ギャルソンのショーは、ラストルックが舞台裏に消えると同時に音楽がプツリと途切れ、照明が落ちることで終わりを告げることが多い。しかし今回はその続きがあり、再び全モデルが一気に飛び出してきた。まるで色と柄の洪水のようにランウェイを埋め尽くしたのだ。観客らは意表を突かれながらも、希望を感じさせる美しいフィナーレに大きな拍手と歓声を送った。

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