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【トップに聞く2025】内山智子 花王・化粧品事業部門長 カネボウ化粧品社長 初の女性社長就任、ユーザーとの距離感の近さが武器に

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【トップに聞く2025】内山智子 花王・化粧品事業部門長 カネボウ化粧品社長 初の女性社長就任、ユーザーとの距離感の近さが武器に

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 2025年の展望を、2024年の振り返りとともにインタビューする「トップに聞く」。2025年1月1日付で、花王のグローバルコンシューマーケア部門 化粧品事業部門長に就任し、さらにカネボウ化粧品の女性初の社長も担う、内山智子氏にインタビュー。研究開発部門出身で技術視点を持ち合わせ、ロジックな思考を持ちながらも、一人の化粧品ユーザーとして消費者視点に立ち、ユーザーに寄り添うことが社長として最も重要であるという。内山氏にグローバルに広がる化粧品事業について聞いた。

◾️内山智子(うちやま ともこ):1977年11月3日生まれ。信州大学大学院工学系研究科機能高分子学専攻博士前期課程修了後、2002年4月に花王に入社。2019年1月から研究開発部門 ヘアケア研究所 第2研究室長、2021年6月からコンシューマープロダクツ事業統括部門 ライフケア事業部門 事業基盤開発部 開発マネジャー、2023年1月からコンシューマープロダクツ事業統括部門 ヘルス&ビューティケア 事業部門 ヘアケア第1事業部長を務める。2025年1月から現職。

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カネボウ初の女性社長、そのミッションは?

⎯⎯2025年1月1日付けで、執行役員として化粧品事業部門長、そしてカネボウ化粧品初の女性社長に就任しました。この役職における自身の強み、そしてミッションを教えてください。

 まず私自身が化粧品の一人のユーザーであるということです。

 また入社時の配属が研究開発部門だったということもあり、原料や製造における技術視点を持ち合わせているところは大きな強みの1つであり、期待されているポイントだと思っています。今回の就任にあたり、今さまざまなことを学ばせていただいている中で、化粧品は華やかな一面がある一方で、製造工程の複雑さや、種類の多様性など、実は生産のところに工夫が必要です。加えて数量管理、さらには効率化に向けた取り組みなどについても研究開発時代の知見が生かされると感じており、私のミッションだと思います。

⎯⎯自分自身のミッションとして、化粧品のいちユーザーであることを挙げられました。今回カネボウ化粧品として初の女性社長であることにも大きな意味があるのではないでしょうか?

 確かに、女性であることは一部においては有利な点もあります。化粧品をほぼ毎日使うユーザーであり、同性同士で情報交換も自然なことですし、生活者、消費者視点になりやすいとは思います。一方で化粧品に対する意識は人ぞれぞれです。高い意識で多くの情報を獲得している人もいれば、比較的にシンプルに済ませたいという人もいます。性別に関わらず、幅広いユーザーとの接点を持つことは大切なことだと感じています。

⎯⎯化粧品の男性ユーザーが増えているとはいえ、女性が中心の商材を扱う企業でもこれまでは男性が社長であることが普通でした。

 もちろん、まだまだ男性が組織的に束ねることが多く、それは、業界に長く携わっていることによる人脈や知識量、調整力等のアドバンテージも含めて、リーダーたる所以だと思います。ただ、切り口を変えると、それを女性が担うことでこれまでとは違った視点や人脈を持ち、コミュニティが形成されることは利点につながります。また先ほどの話にもつながりますが、ユーザーとの距離感が近い、同じ目線に立って寄り添えるといった点でも、大きく期待されていると感じています。

本当の意味で人々が明るい気持ちで日常を送れるようになった2024年

花王 2024年12月期通期連結決算
売上高:1兆6284億円(前期比6.3%増、実質3.3%増)
営業利益:1466億円(同144.3%増)
親会社の所有者に帰属する当期利益:1078億円(同145.7%増)
化粧品事業
売上高:2441億円(2.3%増)
営業利益:37億円(対前期17億円増)の損失

⎯⎯2024年を振り返って、一言で表すと。

 「希望の光」です。

⎯⎯というと?

 コロナが明けて1年以上経ちますが、本当の意味で人々が明るい気持ちで日常を送れるようになったということです。

 もう1点、弊社の視点に立つとコロナ禍を過ごしたことでさまざまな厳しい面が見えてきました。たとえば、もっと効率化を進めなければいけないなどの課題が浮き彫りになったという点で、次の成長に向けての希望の光が見えてきたと言えます。

⎯⎯浮き彫りになった課題点とは?

 モノがどんどん売れる、お客さまがどんどん購入するといった勢いのあった時代は、モノをたくさん作って売るというシンプルな構造で、収益が拡大し世の中が循環していたと思います。しかし、コロナ禍で一旦それがリセットされました。そして今、お客さまはそれが本当に必要なのか、本当に大切なのかを見極めて購入するマインドへと移行しています。われわれは、そのマインドに合わせ、必要な人に必要なモノを的確に届けなければいけません。そのモノづくりの原点に立ち返ること、それが課題として浮上しました。そういったことから、過剰なモノづくりも良くないですが、一方で絞り過ぎて手に入らなければ不便をかけてしまいます。このコントロールをもっとシビアに推し進めなければいけないと感じています。

⎯⎯そのコントロールは難しそうです。

 やはりお客さまの気持ちにより一層寄り添わないといけないということだと思います。リアルで物を買っていた時代から、コロナ禍を経てデジタルなど別の手段で情報を取り、そしてリアルでもデジタルでも購入するようになってきている現状に、しっかり適応していくことが必要です。それを理解することがコントロールにもつながるのではないでしょうか。

⎯⎯各ブランドについて教えて欲しいのですが、2024年を振り返り、グローバル成長ブランドと位置付ける「モルトンブラウン(MOLTON BROWN)」、「キュレル(Curél)」、「センサイ(SENSAI)」は戦略通り好調に推移しているように思います。

 モルトンブラウンは、ローズマリーのシャンプーやコンディショナー、シャワージェルなど香りを軸にした商品展開が好調です。戦略として「モルトンブラウン ビレッジ」を打ち出していますが、これは①ホテルのアメニティ、②リテール、③オンライン、この3つのシナジーを発揮させる戦略です。日本でスタートし順調に推移していることから、アジアへと展開を広げているところです。

⎯⎯モルトンブラウン ビレッジとは?

 例えば、リゾート地のラグジュアリーホテルのアメニティを導入し、そのホテルの近くにあるアウトレットやモールで、モルトンブラウンを販売します。ホテルで香りにこだわるモルトンブラウンの五感に響くアイテムを実感してもらうことで、アウトレットやモールのショップに足を運んだ時に、ホテルで使用した以外のラインナップにも触れてもらう。その場で購入にまで至らなかったとしても、オンラインへの動線を作っておくことで帰宅してから購入へと導く。体験する場と購入する場を近くでつなぎ循環させる仕組みを見出したことが、売上に寄与しました。リゾート地の中にあるホテルと、そのリゾート地に行ったら多くの人が必ず訪れる商業施設に、商品を導入するということが“肝”だと思います。

⎯⎯センサイ、キュレルはいかがでしょうか?

 センサイは100ユーロ以上のアイテムが人気を集めるなど、欧州でとても好調です。今後はアジアでの展開を加速させていきたいですね。キュレルは昨年、「キュレル 潤浸保湿 パウダーバーム」がヒットしたことが大きいです。敏感肌の方は、肌をキレイに見せたいけど肌に負担が掛かるのは嫌という思いがあり、それを解消する商品として人気を集めました。こういったお客さまにとって便利で寄り添うアイテムを今後も開発、発信していきます。

⎯⎯海外展開は?

 センサイの海外展開は2023年に中国に旗艦店を作り、今年はインドネシアに進出しましたし、今後もASEAN地域に広げていきます。また、キュレルは中国において地産地消の方針を導入。現地のお客さまに寄り添った商品を現地で開発するなど、独自のローカル対策を推進しています。

⎯⎯キュレルを通して、日本と中国では肌質やニーズなども大きく違うのでしょうか?

 日本の乾燥性敏感肌の方は、乾燥による肌荒れに悩まれている方が多いですが、中国の方は、乾燥からくる赤み肌に悩まれている方が多いです。そういったニーズに合わせた商品設計や情報発信に変更しています。昨年発売した美容液は、この赤み肌に対応した、中国での地産地消商品で、効果に対するエビデンスをしっかり取り、中国ならではのエビデンスマーケティングを実施し好調でした。

 またキュレルは、昨年から欧州へ本格導入し、順調に進んでいます。今年は拠点を大きく増やす予定です。欧州は寒い地域ですし、乾燥が気になる方も多いと思います。またお医者さまとの取り組みも視野に入れると、エビデンスに対して相性が良いと考えています。今、欧州でもダーマケアコーナーが立ち上がるなど、ダーマコスメのニーズは高まっているといえます。

憧れよりも、実質的な価値がヒットに

⎯⎯では、戦略投資ブランドと位置付ける「カネボウ(KANEBO)」と「ケイト(KATE)」の戦略を教えてください。

 カネボウ、ケイトともに昨年も好調に推移しました。両ブランドとも、ブランドパーパスが非常に強いものになっています。カネボウは「I HOPE.」といったメッセージから、差別化のある商品開発、さらにその商品を引き立たせるキャッチコピーやパッケージデザインまで、全てブレることなく発信できていますし、社内メンバーにもブレがない。ケイトも同様です。「NO MORE RULES.」をブラさずに、大胆なネーミングの商品など、さまざまな施策を連打することで、今年で誕生から28年のブランドですが、若い世代の人たちにも新鮮に映っているのではないかと思います。

 また花王・カネボウ化粧品の高い技術力も好調をけん引しているのではないでしょうか。例えばリップにおいて、落ちない、発色の良さなど、使い続けたお客さまが良かったと思うポイントが商品にあることが、リピートにつながっています。“憧れ”とは違った、“実質的な価値”を感じていただいていると思います。

⎯⎯そのほか好調なブランドは?

 「ソフィーナ iP(SOFINA iP)」は一昨年にリニューアルし、キーアイテムの土台美容液を刷新したり、化粧水を発売したり、また昨年発売した「ゴールデンタイムリペア 深夜浸透クリーム」は想定以上にお客さまに評価いただき、一時は品薄になりご迷惑をおかけしております。こういった新製品開発に力を入れましたが、改めて的確にサイエンスでアプローチするといった発信を強めました。一方で、現在化粧品販路は広がりを見せており、お客さまが欲しいものを欲しいタイミングで、そして都合の良い方法で購入できるよう工夫することは、今後も必要だと考えています。

中国依存から脱却、ASEAN地域も強化へ

⎯⎯今後の海外戦略として、業界全体で中国市場の厳しさが浮き彫りになっています。

 中国市場は、コントロールがしにくいというのが正しい解釈かなと思っています。魅力のある生活者がたくさんいて、伸びていく市場であることは間違いありません。ただ脱中国依存していかなければならないと思っています。先ほどお伝えしたキュレルに加え、「フリープラス(freeplus)」は中国市場でも拡大していく予定です。そのほか、ASEAN地域にも力を入れていきます。市場自体が伸びていること、また富裕層も増えているので、先んじて進出しテストマーケティングをスタートさせ、大きくしていくきっかけを掴んでいきたいと思います。

 ASEAN地域には、グローバルに成長をめざす6ブランドに加え、気候等を鑑みて相性の良い、日やけ止め「アリー(ALLIE)」や、毛穴ケアを意識する人が多いことから、「スイサイ(suisai)」といった洗顔ブランドの導入も考えています。

作りすぎない・余らせない・不足しないをコントロールする体制へ

⎯⎯冒頭で生産工程においても工夫が必要とおっしゃっていましたが。

 時代背景を考慮すると、製造をコントロールできる部隊と、開発・モノづくり部隊、さらに事業部のマーケティング部隊を1つにし、「作りすぎない」、「余らせない」、「不足しない」、をコントロールできる体制へと移行しています。そこに足りないのが、「届ける」といった販売のところです。今後一体で取り組めるよう、組織の中に組み込んでいきたいと思っています。

 部隊を1つにすることで、物理的に議論する距離が近くなりますし、情報交換もしやすいですよね。当然、システムで情報共有は可能ですし、もちろん導入していますが、もし在宅で進めようと思うとバケツリレーになってしまいがちです。ですが、何かを気づいた時に、すぐに話せる距離にいることが重要だと考えます。今、社内のキーワードは「スクラム型」。部署単位で同じゴールを見て、そのゴールに向かって自分のミッションを考え、遂行する。それによりかなりスピードが上がったと思います。

⎯⎯現在、原材料の高騰、物流問題など、モノづくりにおいて懸念材料がたくさんあります。

 原料の高騰は、ダイレクトに材料費に響いてくるので、シビアな問題です。それによりどうしても小売価格に影響が出て来ますが、そういった場合でもしっかりと付加価値をつけた提案が必須ですね。一方で、製品のコストダウンも今一度、一歩踏み込んで考えていかなければと思っています。何が必要で何が不必要か、適正に判断し、そして最小限の動きで進めることを意識していきたいですね。

⎯⎯M&Aの可能性はありますか?

 M&Aというよりは、現在、自社にあるブランドの価値やポジションをしっかりと見直すことが大事だと考えています。ただ先を見据え、将来を考えると、自分たちが持っている手段だけでは不足することももちろんあるかもしれません。また、振興エリアや新規参入国などを念頭において調査を進めていくことで、必要であれば、持っていないものをM&Aすることも検討していきたいと思います。

⎯⎯最後に、2025年第1クオーターが終了しましたが、化粧品市場をどう見ていて、そこに対する戦略を教えてください。

 市場自体は伸びているので、そういった意味では消費者の購買意欲は戻って来ていますし、どの国、地域においても市場はある程度、良い状態と言えると思います。ただ、1人ひとりと見ていくと、お客さまの購買行動の変化は敏感に感じ取らなければならないと思います。インバウンドも同様です。コロナ前の2019年のような“爆買い”とはならず、モノ消費よりもコト体験、エンターテイメントを楽しむことに移行しているようです。日本人のみならず、海外の人、全ての人に対して、体験をセットにした特別なアイテムの提供など、モノ視点ではなくコトを軸に考えていく必要があると思います。

花王 2025年12月期連結業績予想
売上高:1兆6700億円(前期比2.6%増、実質3.1%増)
営業利益:1600億円(同9.1%増)
親会社の所有者に帰属する当期利益:1160億円(同7.6%増)
化粧品事業
売上高:2540億円(実質増減率4.5%増)

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