【あの人と、革の話】クリエイティブディレクター 栗野宏文のレザー愛用品 project by w/leather

「“訳アリ”ジャケットとエルメスのベルト」

FASHIONPROMOTION
栗野宏文 レザー 私物

Image by: FASHIONSNAP

栗野宏文 レザー 私物

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【あの人と、革の話】クリエイティブディレクター 栗野宏文のレザー愛用品 project by w/leather

「“訳アリ”ジャケットとエルメスのベルト」

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栗野宏文 レザー 私物

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 長年、使い込んでいるからこそ、本音で語れる“革のリアル”がある。今回、FASHIONSNAPでは、皮革・革製品などのサステナビリティを発信していくプロジェクト「Thinking Leather Action」とコラボレーションを実施。ファッションの第一線で活躍する人々のレザー愛用品を紹介し、購入のきっかけや愛用歴、そこから広がる“レザー愛”、使い込むからこそ見えるレザーの奥深さなど、日々の暮らしや仕事をともにする「w/leather(ウィズ レザー)」を掘り下げます。連載 第1回はユナイテッドアローズの創立者の1人で上級顧問の栗野宏文さん。長い間、ファッション業界に身をおいている彼だからこそ語れる革の魅力。

サイ(Scye)のバイカージャケット

栗野宏文 革ジャン

⎯⎯とても綺麗に着られていますね。どのくらい前に購入したんですか?

 15年くらい前でしょうか。元々、服を大事に着る方だとは思うのですが、このコは僕のところに来た時から“訳アリ”でした。というのも、色焼けをしているB品を譲ってもらったんです。

⎯⎯よく見ると肩口の部分が退色しています。

 もちろん「サイ(Scye)」は品質管理を徹底しているブランドですが、たまたま彼らの目をかいくぐったようで。「これは売れない」と。そうなるといつまでも倉庫に置かれてしまう。なので「これもアジだから譲ってください」と頼んで売ってもらいました。

栗野宏文 ライダース

⎯⎯光の当たり方によっては深い緑色にも見えます。

 着皺ではなく、色味で経年変化を感じますよね。基本的に純粋な黒という色は実現が難しく、そのため、着込んでいくと少しずつ退色して緑色に見えるようです。

栗野宏文 ライダースジャケット

⎯⎯使われているのは山羊革。

 高い耐久性としなやかさが特徴だそうです。摩耗にも強いと聞きます。実際に着ている時は「山羊革」ということは意識していないのですが、シボ感と見た目より軽いことが、このジャケットを愛している理由です。

栗野宏文 私物

栗野「腰ベルトをクロスさせているのは確か日高さん(サイのデザイナー)に『イギリスのロックミュージシャンはここをバッテンにしています』と聞いたから(笑)」

 サイの一番の売りはパターンだと思いますが、デザイナーの日高久代さんとパタンナーの宮原秀晃さんの「作るものに対する完成度への熱意」は本当に素晴らしいです。例えば、ライダースジャケットは本来「バイクに乗る姿勢」に合わせてパターンが作られているので日常生活には取り入れにくかったりするのですが、このジャケットに関してはアームの作りがキツくなく、日常着としての可動域を意識して作られていると体感できます。身幅のゆとりもあるので、ジャケットの上に着たりもします。

栗野宏文 スタイリング

⎯⎯どういう時に着ていますか?

 鞄を持ちたくない時(笑)。

⎯⎯(笑)。ポケットがたくさんあるからですね。

 そうです。あとはパリ出張の時にすごく便利で。というのも、パリはスリが多いので、これで貴重品を守っています。携帯電話や財布を内ポケットにしまえば、僕を誘拐する以外に盗む方法はありません(笑)。

栗野宏文 ライダース
栗野宏文 ライダース

⎯⎯レザーアイテムが「かっこいいな」と思う時はどんな時ですか?

 レザーアイテムがかっこいいのではなく、レザーアイテムの「使い方」がかっこいいのだと思います。長く着ること、或いは革靴を自分で磨くこと、へたったものをメンテナンスして更に使い込むこと。そういう付き合い方の話だと思います。

⎯⎯先ほどジャケットを「このコ」と呼んだのが象徴的でした。

 僕にとってはすべての服がそうです。服を長く着ようと思ったら自然と「この人」「このコ」という言い方になる(笑)。愛情ですよね。洋服屋あるあるなのかもしれません。

エルメス(HERMÈS)のベルト

栗野宏文 エルメス

⎯⎯かなりの年季を感じます。

 これは今から25年くらい前に、パリの本店で購入しました。退色もしているし、傷もたくさんあるし、汗染みもあります。

⎯⎯お手入れはされていますか?

 していません。手入れしない方が味が出るので。靴を磨くのは趣味ですが、このコは手入れのしようがないんです。なぜなら、ナチュラルレザーに手を施すと変色したり硬くなってしまうから。そうなるとますます手放せない。

栗野宏文 エルメス

⎯⎯ファッション好きは、綺麗なものを綺麗なまま着るより、少し味が出ている方が良いという感覚がある気がします。

 ラグジュアリーブランドの高級なレザーアイテムを少しも傷つけずに着る、ということは僕には一生ないと思います。傷ついたり汚れたり皺がよったりしても、それが味だと思っているので。味が出るのは革のなせる技です。経年変化は、自分の外見も含めてオッケーです(笑)。

⎯⎯当時でおいくらくらいだったんですか?

 それがなんと6万円位で。実は、これは既製品ではなくオーダー品なんです。当時はメンズのアイテムはまだ少なく「ウィメンズで展開されているベルトをメンズ用に作ってほしい」とお願いしたら作っていただけて。よっぽど高いだろうなと思ったら、オーダー品と既製品で値段が変わらなかった。「いずれもハンドメイドだから手間は同じですので」と(笑)。

栗野宏文 エルメス

 これは通常の裏表とは革の使い方が逆なんです。つまり、本来表面に使うはずの綺麗でスムースな面を裏側に、毛羽立った方を表側にしている。理由は「その方が馬体に優しいから」と。エルメスのルーツは乗馬用の鞍であり、これは馬具に用いられる革「サドルレザー」です。乗馬由来のブランドだからと、馬を思いやるデザインにしている。僕は、ラグジュアリーブランドをほとんど着ないけど、そういう哲学も含めて「エルメス」は好きですね。

⎯⎯ラグジュアリーブランドを着ない理由は?

 現在「ラグジュアリーブランド」と呼ばれる会社は、多額の経費を広告やマーケティングに費やしています。セレブリティを起用するプロモーションは戦略として“アリ”になってしまったわけですが、僕個人としてはその考えに賛同できない。でも、その戦略も今曲がり角に来ていると感じています。お客さんを無視し続けているラグジュアリーブランドは、あと2〜3年したら危機的状況になるのでは無いでしょうか。

栗野宏文 エルメス

⎯⎯お客さんを無視し続けている、というと?

 まず高すぎるし、デザイナーを変えすぎている。しかもデザイナー交代劇の多くの理由が「話題づくり」でしかないから、良かったものも悪くしてしまう。僕が高級ブランドの中でエルメスを好んでいる理由は、物としての完成度の高さはもちろんですが、役員やデザイナーも含め、働いている人たち全員が「自分たちは『ラグジュアリーブランド』ではありません。職人を束ねたファミリーです」と言っていること。その言葉通り、エルメスはいわゆるラグジュアリーブランドと異なり、利益が出ると工場を作って技術継承に費やすわけです。結果として近年人気品番の欠品が改善されています。

栗野宏文 エルメス

⎯⎯ファッション業界では、ラグジュアリーブランドに代表される西洋的な価値観やトレンドが、あたかも絶対的な“正しさ”のように受け入れられてしまうことがまだまだあると感じています。

 暑さ・寒さから守るための衣服に意匠が加えられ、それがやがて西洋的な価値観に支配されるようになったのも事実です。「なにがかっこいいのか」は彼らが19世紀〜20世紀の中盤までに作り上げてしまった。ただ、僕が初めて海外出張をした1985年頃から40年が経ち「日本製よりもヨーロッパのものの方が優れている」「海外メゾンが作った価値観が正しい」という固定観念はだいぶ薄らいだと思うし、布帛、ニット、そして革製品など、多くのものづくりにおいて日本は世界トップレベルになったとも思います。

⎯⎯それでもなお「より良いものを」と高めようとする精神性が日本人にはあります。

 縫製やなめし※など、西洋の技術に「追いつけ追い越せ」と頑張ってきて、日本の技術は極めて高いクオリティレベルに到達したと思っています。極論すれば、もはや比べる必要もない段階かもしれません。

※なめし:生皮に防腐性、柔軟性などを付与し、革の風合いを決める重要な工程

栗野宏文

栗野宏文と革のはなし

⎯⎯日本製の革の価値を高める一歩はなんだと思いますか?

 例えば国産和牛を使っていることを積極的にアピールすれば、日本の革はもっと浸透すると思います。食用の和牛自体は高価格帯で流通しているので、同じ価値観で「あの、和牛の外側=革を使った上質なアイテムです」と謳えたらと思います。

⎯⎯革は食肉の副産物ですもんね。

 和牛をたくさん食べているので、当然、外側(革)もたくさん出ているでしょうし「積極的に使いましょうよ」と。「和牛」というブランドは既に確立されているので、わざわざ新しく「⚫︎⚫︎レザー」と呼ぶ必要もなく「和牛レザー」で良い。

⎯⎯消費者も和牛=良いものということもわかっているので、新しく価値を刷り込む必要がない。

 メイド・イン・ジャパンも謳うことができますからね。無駄なく使う方法のように思います。

 日本には「もったいない」という概念があります。「もったいない」という概念があった上で生活者への啓発活動をやっていくのが一番良いと思うんですよ。

栗野宏文 インタビュー

⎯⎯革というものをどう思っていますか?

 おそらく人類が最初に着た衣服は革でしょう。先祖の記憶というか、DNAレベルで皮革製品というのは人間にとって着馴染みのあるアイテムだと思います。

⎯⎯本物の動物の革を使用していない“レザー調”の素材についてはどう考えていますか?

 素材そのものについては否定をしません。ですが“ヴィーガンレザー”という言葉を初めて聞いたとき、率直に「ずるい」と思いました。「ヴィーガン」というのは、お肉はもちろん、出汁や卵も食べない人たちのことを意味します。他方「レザー」という言葉には、ご存知の通り「丈夫」「高級感」といった人々が既に持っているイメージがあります。そういった、元来使われてきた語彙の意味合いや印象を利用して“レザー的なるもの”に意味づけをしている。しかも、“レザー的なるもの”の評価を上げるために、リアルレザーについてバッシングを行ったというのは、見方によれば利益のために何でもしがちな人たちによる一種のグリーンウォッシングだと思います。

※2024年より「革」「レザー」と呼べる製品は、動物由来のものに限定するとJISで規定。「ヴィーガンレザー」という言葉もJISの規定上は使用することができない。

栗野宏文 インタビュー

⎯⎯「革やレザーと呼べる製品は動物由来のものに限定する」という新たな規格がJIS(日本産業規格)で制定されました。

 分かりやすい言葉を使ったもん勝ちなのは悲しいです。これは個人的な考えですが、ファーライクやレザーライクって、本物のファーや革があっての美意識や価値観ではないでしょうか?そこに敬意を払わずに「どこがクリエイションなんだろう」と思います。

 自分が好きなことや信念を持つことは素晴らしいことだと思います。でも、自分だけが正義だと思うのはやめたほうがいい。誰もがどこかで地球の汚染に加担しており、誰の手も清くはないのです。「だから諦めろ」という話をしたいのではなく「世の中にたった一つの正義はない」ということ。なるべく動物の命を守るためにお肉を食べないことも一つの信念です。でも、人間は何万年も動物を食べて生きてきました。それをイデオロギー化するのはどっちにとっても不公平なのではないでしょうか。

連載目次|あの人と、革の話
・ファッションディレクター 栗野宏文のレザー愛用品
・ファッションデザイナー 尾花大輔のレザー愛用品(10/17公開)
・スタイリスト 仙波レナのレザー愛用品(10/20公開)
・芸人 みなみかわのレザー愛用品(10/21公開)
・音楽プロデューサー 藤原ヒロシのレザー愛用品(10/22公開)

■w/leather –革と生きる、という選択。–
期間:2025年11月1日(土)〜11月3日(月)
時間:11:00〜21:00(最終日は18:00まで)
会場:PBOX(ピーボックス)
所在地:東京都渋谷区宇田川町 15-1渋谷パルコ 10F
入場料:無料
主催:一般社団法人 日本皮革産業連合会「Thinking Leather Action
「Thinking Leather Action」は皮革・革製品のサステナビリティに関する様々な誤解を解消し、消費者に正しい知識の理解促進をしていくために、日本皮革産業連合会が2021年に立ち上げたプロジェクトです。

Photographer:Ito Asuka
text&edit:Furukata Asuka(FASHIONSNAP)

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