
Image by: LA MUSEUM

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ベルギー出身の伝説的なファッションデザイナー、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)の初期コレクションを、森の中に佇む真っ白な建築に展示したエキシビション「Margiela at Villa in the Forest」が開催された。
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主催は、世界初のファッション専門バーチャルミュージアム「ラ・ミュージアム(LA MUSEUM)」。その記念すべき初となるフィジカル企画として、5月31日に1日限りで行われた本展の様子をレポートする。
マルタン・マルジェラとは?モードを揺るがした伝説的デザイナー

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1957年、ベルギーのランブールに生まれたマルタン・マルジェラは、テレビ番組に登場したアンドレ・クレージュ(André Courrèges)やパコ・ラバンヌ(Paco Rabanne)に衝撃を受け、わずか7歳でパリのファッションデザイナーを志したという。古着をリメイクし、独自のスタイルを探求した少年時代を経て、1977年にアントワープ王立芸術アカデミーへ進学。卒業後、ジャン=ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)のアシスタントを経て、1988年に自身のブランド「メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela)」を設立する。1997年から2003年までの6年間は、「エルメス(HERMÈS)」のデザイナーとしても活動した。
2002年には「ディーゼル(DIESEL)」の創業者であるレンツォ・ロッソ(Renzo Rosso)率いるOTBグループの支援を受けてブランドは拡大。だが、メゾンの20周年を記念した2009年春夏コレクションのランウェイショーを最後に、突然表舞台から退く。以後はベルギーでアーティストとして静かに活動を続けている。姿を見せず、コメントを発さず、写真にも写らない。徹底した匿名性は、メゾンの美学そのものとなり、彼の存在は神格化されていった。

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代表的な「タビブーツ」、仮留めされた4本の白ステッチ、裏返しや切りっぱなしを意図的に露出させた構造など、ファッションの常識を揺さぶるラディカルな手法と、視覚的インパクトを兼ね備えたその作風は、1990〜2000年代のモードに決定的な影響を与えた。今なお、ファッションを本質的に理解するか否かを見極める“踏み絵”的存在として、マルジェラは語り継がれている。
会場は妹島和世による「森の別荘」、メゾンとミュージアムに共通する白い空間

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会場となった「森の別荘」は、1994年に妹島和世建築設計事務所が手掛けた円形の住宅建築。長野・蓼科の森にひっそりと佇むこの建物は、画廊オーナー夫妻の依頼により、アーティストのためのアトリエ兼ゲストハウスとして設計された。中央の丸いアトリエを核に、リング状に生活空間が連なる構成で、大きな開口部から射し込む自然光が室内に柔らかな陰影をもたらす。

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マルジェラを象徴する“白”を基調としたこの空間は、ブランドのアトリエや店舗、スタッフの白衣など、彼の美学との親和性が高く、今回の会場として選ばれた。奇しくも、バーチャル上のラ・ミュージアムも真っ白な空間で構成されており、その仮想空間に実際に足を踏み入れたかのような錯覚すら覚える。ミニマルでありながら精緻な構造を持つマルジェラの衣服と、透明感と静けさを湛えた妹島建築。両者の間に生まれる「静かな対話」を体感することができた。

ラ・ミュージアムの公式サイトより
日本一の"マルジェラ本人期コレクター"がキュレートした初期の貴重な12ルック

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展示されたのは、1989〜99年までに発表された「メゾン マルタン マルジェラ」の初期コレクションからの12体。ブランドのデビュー作である1989年春夏の「トロンプ・ルイユ タトゥトップ」にはじまり、トルソーを模した1997年春夏の「ストックマンジャケット」、1999–2000年秋冬を代表する「デュベ コート(Duvet Coat)」など、初期マルジェラの思想と実験精神が色濃く表れたルックが並ぶ。さらに、1993年春夏および1993–94年秋冬コレクションの仕様書や、2021年にアーティストのマルタン・マルジェラとして、ラファイエット・アンティシパシオン(Lafayette Anticipations)で発表された映像作品の上映も行われた。

「メゾン マルタン マルジェラ」の仕様書
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2021年に発表されたマルタン・マルジェラによる映像作品
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本展をキュレーションしたのは、ファッションデザイナーのアーカイヴ収集と販売を行うLAILA創業者であり、ラ・ミュージアム代表のHideo Hashiura氏。同氏は日本随一の"マルジェラ本人期コレクター"として知られ、ヴィンテージの買い付けやオークション、さらにはマルジェラに携わったモデルや関係者から譲り受けたマルタン本人の手掛けたコレクションや資料を収集している。2017年にベルギー・アントワープのMoMu(アントワープ・モード博物館)で開催された「Margiela, les années Hermès(マルタン・マルジェラ、エルメス時代)」や、マルタン本人もキュレーションに関わったパリ・ガリエラ美術館の回顧展「MARGIELA GALLIERA 1989/2009」へもアーカイヴの貸し出しを行った、業界屈指のバイヤーでありコレクターである。

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今回の展示から、全てを掲載したいところだが、7つの名作ルックに厳選して紹介したい。
1989年春夏:メゾンのデビューコレクション──ラグジュアリーへのアンチテーゼ

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「メゾン マルタン マルジェラ」として初めて発表された記念すべきコレクションからの1ルック。19世紀の百科事典に描かれたポリネシアのタトゥーイラストに着想を得た、肌と布の境界を曖昧にするトロンプ・ルイユのトップスが印象的だ。メンズの古着デニムパンツを再構築したスカートは、後にクチュールの位置付けである"アーティザナルライン"となる「Line 0」の先駆けであり、既存の衣服への敬意と再利用というメゾンの思想を体現している。
ショーでモデルたちは、顔をシフォンや薄手のナイロンで覆い、現在でもアイコンとして受け継がれている「タビブーツ」を履いて登場。ストリートからキャスティングされた彼女たちの姿は、当時のラグジュアリーファッションに対する鮮烈なアンチテーゼでありながら、衣服への深い愛情と尊敬が込められていた。
1990年春夏:子どもたちと作り上げた“誰にとっても開かれた”ファッション

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パリ郊外の落書きだらけの空き地で地元の子どもたちと共に開催されたランウェイショーからのピース。子どもたちが描いた招待状が配られ、そのショーの最前列には子どもたちの姿があった。「シガレット」と名付けられた特徴的なショルダーパッドを備えたボレロや、ジャボ、ドレスシャツをウエストに巻きつけた6ピースで構成されている。18世紀後半に流行した「ローブ・ア・ラ・ポロネーズ」を彷彿とさせるボリュームが特徴。子どもたちがモデルと手を繋ぎ、ショーに溶け込んでいく様子は、"ファッションが一部の特権階級のものではなく、誰にとっても開かれたものである"というメゾンが大切にするメッセージを伝えた。
1995-96年秋冬:サーカステントでのショー──モデルから直接譲り受けた逸品

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経営が不安定だったメゾン初期は、モデルにはギャラの代わりに現物商品やサンプルが支給されていた時期があった。展示されたロングドレスは、キュレーターのHashiura氏が当時モデルを務めていた女性から直接譲り受けた貴重な一点。このシーズンはブローニュの森のサーカステントを舞台に、鮮烈なフクシア色が印象的なコレクションだった。フェイスマスクで顔を覆ったモデルたちが、クラッシュベルベットのドレスやラビットファーのアクセサリーを纏い登場。本作は、1930年代のイブニングガウンを再現した「リプロダクション」のロングドレス。フクシア色のダミーヘアが付いたレザーベルトがアクセントとなっている。
1997年春夏:伝説の"ストックマンジャケット"──完成までの過程をデザインに昇華

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マルタンのキャリアで最も称賛されたコレクションの一つである代表作。世界的に有名な1867年創業の立体裁断用のトルソー「ストックマン」社のトルソーをかたどった生リネン製の"ストックマン・ジャケット"が主役。24個の金属フックで開閉し、サイズ表示やスタンプが施された、立体裁断の概念を衣服化した革新的なデザイン。その上に重ねられたビスチェは、ユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)の元ファーストアシスタントであり、アントワープ王立芸術アカデミーでモデリングとドレープを教えていた教授の講義から着想を得たもの。マルタンが制作したドレープドレスを、教授がビスチェとして着用させた経験がもとになっている。完成形ではなく、服が完成するまでの過程そのものをデザインとして見せる、マルジェラらしいアプローチを体現している。
1998年春夏:「コム デ ギャルソン」との合同ショー──オークション形式で見せた"平面的な衣服"

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「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」の川久保玲との歴史的な共同ショーからの1ルック。両者が「脱構築主義の第一人者」として共鳴し、広いスペースを二つに分け、それぞれがショーを行った。同ショーで発表された「フラットガーメント」は、着用していないときは完全に平らになるジャケットやドレス、トラウザーズで、工業用パターンから着想を得てデザインされている。肩線を極端にずらしたり、特殊なクラッシュ加工を施すことで平面性を強調。パターンの概念をそのまま衣服として昇華し、着る身体の意味を問い直した。また、フランス語、英語、日本語での説明文が表示されたモデルの着用映像と、投映中に男性たちがハンガーに吊るした服を披露するというオークションのような演出で、ファッションのプレゼンテーションに新たな形を提示した。
1999年春夏:10周年を記念したセルフオマージュ──赤くペイントされた白衣

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廃屋となったホテルで開催された10周年記念コレクションでは、「アーティザナルライン」やメンズコレクションなどが新たに発表され、過去のアイコニックなデザインを回顧。展示されたのは、メゾンのスタッフたちが着用する白衣に、デビューコレクションの床に置かれた赤いペンキの靴跡をヒントに赤のペンキでランダムに塗装されたもの。その中に着た巻きスカートは、1996年春夏の「トロンプルイユ」ドレスを回顧したもので、ストライプ柄の写真を一枚布にプリントし、ウェイターのエプロン風に着用している。過去の作品を再構築し、新たな文脈を与えるという、セルフオマージュを繰り返すマルジェラの一貫した姿勢を体現している。
1999-2000年秋冬:ショールームを映画館に見立て発表──羽毛布団から生まれたコート

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メゾンのショールームを小さな映画館に見立て、マルタン脚本、写真家のマリーナ・ファウスト(Marina Faust)撮影のフィルムを上映した1999-2000年秋冬コレクション。招待客はポップコーンと赤ワインを片手にフィルムを鑑賞した。上映されたのは、マルジェラのミューズたちが出演する映像で、そこで発表されたのが羽毛布団をコートへと転換させた「デュベ コート」。正方形のコットンに羽毛が詰められ、取り外し可能な袖がジッパーで留められたこのコートは、布団カバーで覆うことも可能な仕様で、遊び心と機能性を兼ね備えている。フィルムの終わりには、黒いレザーのタビを模した手袋のからフォーチュンクッキーのようにメッセージが書かれた小さな紙が現れ、「あなたが触れる全てのことが幸運をもたらします」と書かれていたという。日常的なものをファッションへと昇華させる、マルジェラの創造性が感じられるコレクションの一つだ。
次回のフィジカル企画展が渋谷で開催決定

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ラ・ミュージアムは2回目となる実物展示「LA MUSEUM SHIBUYA」を6月14日から29日まで、東京・渋谷で開催する。キュレーションの軸となるのは、日本が世界に誇る世界的デザイナーである三宅一生、髙田賢三、川久保玲、山本耀司。またマルタン・マルジェラをはじめとするアントワープが生んだ才能たち、ミニマリズムを追求したヘルムート・ラング(Helmut Lang)、さらにジョン・ガリアーノ(John Galliano)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)といったクチュール界の異才たちの作品も並ぶ。
会場では、ストリートスナップ誌「STREET」「FRUiTS」「TUNE」などを発行したフォトグラファーで編集者である青木正一が1989年に撮影した「メゾン マルタン マルジェラ」1990年春夏コレクションの貴重な写真を、スライドショー形式で上映。さらには、2006年にパリ・グランパレで開催された展覧会「La Force de L'Art」で発表された、マルタンによる215枚もの写真インスタレーション作品が、日本初展示される予定だ。

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入場料は無料だが、来場前にラ・ミュージアムのアプリをダウンロードし、スマートフォン上の同画面を提示することで入場することができる。
1日限定で長野で開催された初回展は30人の応募枠に当選した人のみが入場できる限定的なものだったが、次回は会期が2週間に拡大され、入場者数の制限もない。もちろん、ラ・ミュージアムのアプリでは24時間いつでもどこからでも展示を見ることができるが、実際の空間で得られる体験は格別だ。この貴重な機会にぜひ足を運んでほしい。
LA MUSEUM SHIBUYA
会期:2025年6月14日(土)~29日(日)
時間:12:00~19:00
会場:LA MUSEUM SHIBUYA特設スペース
住所:東京都渋谷区2-12-24 東建・長井ビルB1F
入場料:無料
最終更新日:
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