
長年、使い込んでいるからこそ、本音で語れる“革のリアル”がある。今回、FASHIONSNAPでは、皮革・革製品などのサステナビリティを発信していくプロジェクト「Thinking Leather Action」とコラボレーションを実施。ファッションの第一線で活躍する人々のレザー愛用品を紹介し、購入のきっかけや愛用歴、そこから広がる“レザー愛”、使い込むからこそ見えるレザーの奥深さなど、日々の暮らしや仕事をともにする「w/leather(ウィズ レザー)」を掘り下げます。連載 第2回は「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」デザイナーの尾花大輔さん。古着屋のバイヤーとして膨大な服を見てきた経験に裏打ちされた、鋭い審美眼を持つ彼だからこそ語れる革の魅力。
目次
古着屋で出会った“レアもの”のレザーシャツ

──こちらはいつどこで購入されたんですか?
2年くらい前です。千駄ヶ谷のあたりに新しくできた古着屋で、昼飯を食べるついでにたまたま見つけました。これまで僕はさまざまなヴィンテージレザーアイテムを見てきましたが、自分が仕入れて売ったものも含めて「これは本当に出会えないな」と思い買った一着です。


──具体的にどう言った部分が“レア”なんでしょうか?
まず、ボタンがおそらくベークライト製で、いわゆる古い時代にしか使われていないものが付いています。ただ、ボタンに関しては途中で付け替えられている可能性もあるので断定はできない。一番強烈なのは、レザーシャツなのに脇下にマチがしっかり付けているところ。こういう仕様のものはまずないですね。年代でいうと、新しくても40年代くらいのものでしょうか。この時代特有の裏地の張り方や、縫製の仕方などから、アメリカ製であることは間違いないと思います。

──パーツによって革の質感がまったく違います。
今の時代は、革をすごく贅沢に使ってアイテム全体の質感を統一しようとします。でも当時は、そういうことをあまり考えずに、若しくはドレスウェアではないからか、革の番(革の大きさを示す単位)に対して「そこにあるもの」をただ裁断して使っていたんでしょうね。だから、シボが効いている革もあれば、柔らかくきれいな革の部分もある。部位を気にせず作られていたんだと思います。

──スタイリングも難しそうです。
存在感が強すぎるので、ヴィンテージファッションにしか合わせられない。でも、僕はそういうハードルが高いアイテムのほうが燃えるんですよ(笑)。以前、N.ハリウッドの設立25周年記念で刊行した書籍「苦痛の記録」にまつわる対談イベントで、裕くん(ベルベルジン ディレクターの藤原裕)と森口くん(ハイプビースト ジャパン 編集長の森口德昭)と話す時に、気合いを入れて着ていきました。
──その時の着こなしは?
中にタンクトップを着て、フロントを閉め、タックインをしました。前の持ち主がだいぶ着込んでくれたのもあり、シャツとして申し分ないぐらい前身頃の革が薄くて柔らかい。おそらく、革ジャンのように羽織って、デニムを履けばそれっぽくオシャレに見えるんだと思うんですが、「それだとつまらないな」と(笑)。ただ、あまりにも珍しかったので、どちらかというとコレクション的な位置付けで買ったという方が正しいですね。

──レザーアイテムは、コレクションとしてたくさんお持ちですか?
持っていたんですが、かなりの数を売ってしまいましたね。僕はもともと古着屋だからか、「コレクターではないし、コレクターになっちゃいけない」という感覚が染み付いていて。だから、着もしないものに関しては放出してしまう。気持ちが離れたものがずっと自分のところにあると「気が悪いな」と感じる。それに、売ったりあげたりすることで、また買う動機が生まれますからね。僕が唯一、コレクションしているものといったらダウンジャケットかな。保存状態の良さが他のアイテムより要求される部分も多い上に、ディテールの見どころが多いのも、魅了されるところかと。
──古着は「見る人が見たら歴史を感じることができるもの」。革は特性上「歴史や物語が刻まれやすい素材」だと感じます。
そうですね。レザーアイテムは長く持つし、丈夫だし、傷がつきやすい分、古着のように「その人が使っていた痕跡が伝わる素材」だと思います。僕が好きなミリタリーアイテムでいうと、化学繊維が発達する前は、当然ながら天然繊維ばかりでした。それだけでは防寒性が足りないから、エアフォースを中心に非常に寒い地域で活動するときには、ムートンや革が用いられた歴史があります。つまり、人の命に関わるような場面で、1940年代くらいまで猛烈に使われていたのがレザーアイテムです。動きやすくて人の身を守れる万能な素材という意味で、レザーアイテムは当時最も機能的なウェアだったんだろうな、と。

──N.ハリウッドは「価値が無いとされるような古着にアイデアを吹き込んで再生させる」というコンセプトが根底にあると思います。そういった視点から、このシャツのような「ボロボロな革」の魅力について教えてください。
もうそれは「デザイン」ですよね。その人の時間経過で生まれた「味」みたいなものが、ファッションの中ではごく当然のように存在します。革は、加工したときに偶然性が面白く最も出る素材かもしれませんね。何をデザインするというより、それをデザインとして捉えたらと思います。
N.ハリウッドの名品「ルシファーライダース」

──「ルシファーライダース」は革屋さんから「B品の革を捨ててしまう」という話を聞いたのがきっかけで作られた、と聞いたことがあります。
その話は本当ですね。経緯はすごく単純で、もともと取引のある革屋さんに行ったら隅の方に追いやられていた革があって。「点検したら、傷物で売れない。小物に使えたらいいけど、それを欲しがる人もいない」という話を伺い「じゃあ僕が使います」と。
──B品の革など「傷物」を「味」として楽しむ人もいそうですが、それでも製品化が難しいのはなぜでしょうか。
難しいところですね。B品の傷がどこにどう入っているかはある種ギャンブルです。すべてが格好いい傷になるわけではないので、製品として成立させるのはなかなか難しいし、売れ残るリスクも大きいと思います。

僕のブランドはリメイクから始まっているので、古着屋で売れ残ってゴミになっていくようなものを再利用していました。当時はエコやサステナブルなんてまったく考えていなくて、ただあるものを使い、安く提供したいという気持ちだけ。以前、リーバイスさんと仕事をしたときに、織り機の都合で糸が飛んでしまって捨てられるデニム生地を使い、サイズも色落ちもバラバラな、一点ものの「古着みたいなジーンズ」を作った成功体験がありました。その延長で、「革でも同じことができるのでは?」と。ただ、少し話がずれますが、僕自身は「着込んで味を出していく」みたいなことは、実を言うとあまり好きじゃないんです。
──古着好きの尾花さんが「着込んでいく味は好きじゃ無い」のは意外です。
自分自身に味が出ちゃっているからこれ以上何かを足さなくていいかなって(笑)。それに、僕は古着をリスペクトしているので、古着を超えることは絶対にできないと思っています。だから“古着っぽいもの”は作らない。古着の要素はあっても、古着には絶対にないものを作る、ということだけはぶれないようにしています。


ちなみに、今日持ってきたルシファーライダースは、2008年頃に再販されたもの。今回のために、わざわざヤフオクで買い戻しました(笑)。再販品なので、B品の革は使っていません。2002年に発売された初期モデルだと、前身頃に傷が入っていたり、剥がれたりしていました。
──出品者は手に渡った人がルシファーライダースを作った張本人だと知ったら驚くでしょうね(笑)。
さすがに気を遣って「N.ハリウッド 尾花大輔」という名前では落札しませんでした(笑)。N.ハリウッドでは「コレクションを出せばなんでも売れてしまう」という時代があって、ブランドのアーカイヴが少ないんですよね。当時は若かったし、現金化もしたかったから。
──編集部でもルシファーライダースは「取り合いだった」と聞きます。
うちで働いてくれているスタッフ全員に聞いても誰も持っていなかったですからね。

尾花「出回ってるルシファーライダースは、なぜかSサイズばかりだったんだよ。だから着るにはちょっと小さいなあ」
──久々に現物を見てどうですか?
我ながら、今見ても恥ずかしくないアイテムですね。昔作ったものを見ると恥ずかしく感じるものもあるんだけど、これに関していえば「単純にかっこいいな」と思える数少ないアイテムです。

──ファスナーの歯がところどころ抜けているデザインが特徴的です。
古着のジャケットで歯が抜けちゃっているものがあって、それをデザインにしたら格好いいんじゃないか、と。ただ、このジャケットではYKKの高級ラインである「エクセラ」というファスナーを使っていて、“高級”であるから丈夫で全く抜けない(笑)。手を血まみれにしてペンチで引っこ抜いていましたね。当時の生産チームは本当に大変だったと思います。でも、安いファスナーを使わなかったことで、このジャケットに高級感が出たのは間違いない。
尾花大輔と革のはなし
──デザイナーとして、革と合成皮革をどのように考えていますか。
大前提、革に限らず僕はナイロンや綿、革を特別視せず、必要に応じて使い分けるスタンスです。例えば、厚手のカウレザーを使ったライダースジャケットは、革でなければ出せない存在感があるため作っていますが、それ以外は無理に革を使うことはありません。その上で、僕が言えるのは「合成皮革と革にはそれぞれ一長一短がある」ということ。僕は個人としては、手入れが簡単で縫製工場の制約も少ない合成皮革の方がデザインの自由度が高く、扱いやすいと感じています。ただ、二次加工が進んで「ライトな仕上げで伸縮性もある気になる革」も出てきました。

N.ハリウッドから展開されている牛革を使用した靴
──では、革を使いたくなる時はどんなアイテムに対して?
革にはやはり独特の高級感や風合いがあるので、バッグや靴、ベルトなどの小物には欠かせません。特に顕著なのはベルトですね。耐久性の面で圧倒的な差をつけて革に軍配があがります。更にいえば、革の切りっぱなしの断面(コバ)の美しさは合成皮革では再現が難しいし、使い込んだ時の質感は革に及びません。

N.ハリウッドから展開されているレザーベルトを着用している尾花
──長いキャリアの中で、革に対する自身の価値観や業界の捉え方はどのように変化してきた感じていますか?
恥ずかしながら最近まで「革の99%が食肉の副産物」だと知りませんでした。というのも、そこまで調べたことがなかったんです。むしろ、「そこまで調べないといけないなら、触らないほうがいいのかな」「使うとしても小物ぐらいにしておこうか」くらいに思っていました。
──海外でコレクション発表をする中で、国内とは異なる革の価値観の違いを感じる瞬間があった?
実際にバッシングを受けたことはないですけど、海外の価値観には宗教的・人種的なものが複合されているので大変ではあります。自分の信念として「美しい」と思っているものと、バイヤーや買ってくれる人の信念がずれる時があるんですよね。だから、例えば「レザーアイテムを展開するなんて、動物を殺しているんですか?」とメディアなどで攻撃された時に「食肉の副産物」ということを知らないから閉口してしまうし、たとえ知っていたとしてもヴィーガンの人にそれを言われたら何も言えなくなっちゃう。そもそも「そんなことを言い出したら服を大量に作って在庫を残していること自体が環境破壊じゃないんですか?」と、どんどん極端な結論付けしかできなくなってしまう。そういう状況に対して、僕らができることは「とにかく過剰在庫を作らないこと」。それしかないと思うんです。その点では、加工に手間と時間がかかるレザーアイテムは大量生産が難しく、過剰在庫を残しにくいメリットもあります。丁寧に少量で、良いものを作れるという意味では、良い素材なんですよね。

──デザイナーとして、レザーアイテム、ひいては国産の革の価値をもっと知ってもらうために、どんな動きを期待していますか?
一番手っ取り早いのは、「この革は99%食肉の副産物です」ということを証明するようなタグを団体として作ってもらうことだと思います。そのタグを革と一緒に納品してくれることで、ブランド側だけではなく業界として発信していける。QRコードを付けて、詳しいレポートが読めるようになっていれば、もっと伝わるのではないでしょうか。もし作るなら、僕がデザインしますよ。
連載目次|あの人と、革の話
・ファッションディレクター 栗野宏文のレザー愛用品
・ファッションデザイナー 尾花大輔のレザー愛用品
・スタイリスト 仙波レナのレザー愛用品(10/20公開)
・芸人 みなみかわのレザー愛用品(10/21公開)
・音楽プロデューサー 藤原ヒロシのレザー愛用品(10/22公開)
■w/leather –革と生きる、という選択。–
期間:2025年11月1日(土)〜11月3日(月)
時間:11:00〜21:00(最終日は18:00まで)
会場:PBOX(ピーボックス)
所在地:東京都渋谷区宇田川町 15-1渋谷パルコ 10F
入場料:無料
主催:一般社団法人 日本皮革産業連合会「Thinking Leather Action」
「Thinking Leather Action」は皮革・革製品のサステナビリティに関する様々な誤解を解消し、消費者に正しい知識の理解促進をしていくために、日本皮革産業連合会が2021年に立ち上げたプロジェクトです。
Photographer:Ito Asuka
text&edit:Furukata Asuka(FASHIONSNAP)
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