
長年、使い込んでいるからこそ、本音で語れる“革のリアル”がある。今回、FASHIONSNAPでは、皮革・革製品などのサステナビリティを発信していくプロジェクト「Thinking Leather Action」とコラボレーションを実施。ファッションの第一線で活躍する人々のレザー愛用品を紹介し、購入のきっかけや愛用歴、そこから広がる“レザー愛”、使い込むからこそ見えるレザーの奥深さなど、日々の暮らしや仕事をともにする「w/leather(ウィズ レザー)」を掘り下げます。連載 第3回はスタイリストの仙波レナさん。独自の審美眼でファッション好きを魅了する彼女のスタイリング術から垣間見える革の魅力。
目次
「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」のレザーブーツ

──いつご購入されたものですか?
買った場所も思い出せないほど昔。たしか20代の頃に買ったので、30年ぐらい前かな。
──ハイヒールのイメージがある仙波さんからプラットフォームブーツが出てくるのは意外でした。
おっしゃる通り、私は基本的にヒールが好きで、スニーカーもあまり履きません。ただ、ロングドレスを着る時などに、たまにこういうワークブーツを合わせます。いわゆるワークブーツ系の靴を買ったのは、このアンの靴が初めてでした。
──ヒール好きの仙波さんを惹きつけた、このレザーブーツの魅力は?
シルエットですね。とにかく形が綺麗で、ごつすぎず、繊細すぎない。足首の部分が細くて長いので、ぴったりフィットして足が細く、長く見えます。普通のワークブーツはもっと履き口が太くてメンズライクになりがちですが、これは絶妙なバランス。ロングスカートと合わせてもエレンガントになりすぎず、程よい無骨さを与えてくれます。これを買ったことで、スタイリングの幅がすごく増えた実感がありますね。

何足かこういう靴を買ったんですけど、結局これが一番良くて。捨てられずに残っています。というのも、今となっては、このレザーの褪せた感じが出せないんですよ。
──新品で似たようなブーツを買ったとしても、このブーツのように「使い込まれたレザーの質感」を出すためには30年かかりますもんね(笑)。
そうなんですよね。何度もソールのお直しをしました(笑)。履き込んだレザーの柔らかさやしなやかさもありますし、ジッパーの剥げも無骨さに味を出してくれています。


「ミュウミュウ(MIU MIU)」のジャケット

──こちらもかなり使い込まれているように見えます。
仕事でブランドの古着を探していて、新木場にある週末しかやっていないヴィンテージショップ「ベイアパートメント(BAY Apt.)」に行った時に買いました。あまりにも素敵で、撮影に使うものを探しに行ったのに、自分のものを購入してしまいました(笑)。
──ー見、ミュウミュウのものだとわからないですね。
詳しい年代まではわからないんですが、これは2008年春夏シーズンを最後に展開を終了した「ミュウミュウ」のメンズコレクションのものです。

──メンズならではの無骨さがあります。
レザーの良さって、新品のピカピカよりも、使い古して自分の体に馴染んでいく感じが魅力だと思っているんですが、このアイテムも男の人が雑に着ていたのか「日に当たるところずっと置いていたのかな?」と思わせるような色焼けがあって。この褪せた感じが逆に可愛いな、と。着てきた人の生き方が見た瞬間に分かっちゃうというか。その雑さも逆にかっこよく見えるのが、布帛との違いだと思います。

──布帛とレザーの「着古し」の違いについて、もう少し詳しく伺えますか?
特に女性はその問題に直面すると思うんですが、布帛は染みができたりするとどうしても「汚い」という風に見えちゃう。私としては「この人はこれをずっと着込んで、使い古して、愛着があるんだな」というのが垣間見えるのがレザーの良さで、それはある種の「デザイン」ですよね。

──こちらはスエードのジャケットですが、スエードという素材をどう捉えていますか?
比較対象としてまずはレザーを例にあげますが、レザーの魅力は光沢感にあります。例えば、モノクロの撮影であったらグッと高級感が出たり、強さが出たり、独特な質感がすごく効果的になります。スエードはレザーの強さはありつつも、より体に沿う感じや、体に馴染む湿った重さを写真からも感じやすいですよね。ダメージの出方も、色が褪せたり、少し毛羽立った感じが分かりやすく味になります。レザーでは「ハードすぎるな」と感じる時も、スエードでれば光を吸収してくれるので、強さの中に柔らかさも表現できる。両方かっこいいんですけど、そのかっこよさの種類がちょっと違うなと思っています。
「タカヒロミヤシタザソロイスト.(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.)」のレザースカート

──ウィメンズアイテムでありながらパンツスーツのような男らしさを思わせるシルエットです。
2023年秋冬コレクションのショーを見た瞬間に「欲しい」と思って購入したものです。そのショーでは、ほぼ全てのルックにおいてメンズモデルがスカートを着用していたんですよね。手に入れたのは2年ほど前ですが使用頻度が高く、思い入れがあるアイテムの一つです。

パターンの作り方だと思うんですけど、タイトすぎず、フレアすぎず、絶妙なシルエットは「さすが、ソロイスト.」の一言。レザーのロングスカートは主張が強くなりがちなんですが、これはさらっと普通に着られます。すごく薄くて軽いレザーで、スリットも深くて歩きやすい。夏はタンクトップ、冬は厚手のニットに合わせて、本当に年中着ていますね。
──レザーは使い込むほど個性が出る素材ですが、ご自身のアイテムに滲み出たストーリーはありますか?
仕事柄、服が傷ついたり汚れたりすることがあるんですけど、レザーはあまり気にせずにいられます。ヒールで踏んじゃったり、エスカレーターに巻き込まれて跡がついちゃったり(笑)。でも「それも味かな」と思ってそのままにしています。布帛だとただの汚れに見えてしまうかもしれない傷も、レザーだと「まあ、いいんじゃない」と思える。だから私にとっては、逆にすごく使いやすい素材です。

仙波「多分、ヒールで踏んじゃったんだと思うんですけど、こういう跡もそのままにしています」
──レザーアイテムをスタイリングに投入する時のコツなどはありますか?
一概には言えないですが、個人的には、トップスよりもボトムスのほうがコーディネートは作りやすい気がしますね。レザーアイテムは、ライダースから入る方が多いと思うんですけど、トップスの印象は顔周りにすぐ現れるので、鏡をみた自分が目に入ってきた時に「何か違うかも」と感じやすい。でもボトムスなら、面積は大きいですが、そこまで気負わずに取り入れられて、印象はすごく変わるのでおすすめです。でも一番は、自分が好きな質感のレザーを選ぶことかな。
──仙波さんご自身がレザーでコーディネートを組む時のポイントは何ですか?
例えば今日のタンクトップも、これがリブ素材なのかレザーなのかで全く見え方が違いますよね。レザーを着る時は、素材の強さを意識して、「もうちょっとピリッとさせたい」「このコーディネートに強さやエッジが欲しい」という時に使うことが多いです。
「キジマ タカユキ(KIJIMA TAKAYUKI)」のベレー帽

──仙波さんといえば、かきあげヘアか無造作なお団子ヘアだったので帽子のセレクトは意外でした。
「帽子といえば、キジマタカユキ」というくらい、一度被った人を虜にしますよね。おっしゃる通り、帽子を被ることは私にとってちょっと照れくさいことなのですが、ご縁があって木島さんの展示会に伺うようになって。このレザーベレー帽は、質感が自分のキャラクターやスタイリングにすっと入ってきてくれて購入にいたりました。これがもしフェルト素材だと、自分のキャラとは違うと思って買わなかったと思いますね。

──質感、と言う話がありましたが具体的には?
全てが綺麗なレザーだとメンズライクすぎて“コスプレ感”が出てしまうと思うんですが、これはパンチングレザー。小さな穴が遠目だとドットのように見えて可愛らしさも残してくれる。レザーであることで「ザ・可愛い」にはならず、今までの自分にない雰囲気を出しつつも、外れすぎていない。その塩梅がちょうどいいなと思って使っています。


「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のスクエアバッグ

──相当使い込まれていますね。
このバッグが流行り出す少し前、6年ぐらい前に買いました。当時は毎日使っていましたね。


正直、私、バッグにあまり愛着がないんです。コーディネートによってバッグを変えるという感覚があまりなくて、アクセサリーをつけっぱなしにするように「どの服でもこれ」みたいに使っていたら、この仕上がりになりました。
──ここまで使い込まれているギャルソンのスクエアバッグを街中で持っている人はなかなか見かけませんし、茶芯を使っているって初めて知りました(笑)。
ね、ゴールドの塗装が剥がれて茶芯が見えてる(笑)。仕事柄、雑に置いたり、犬を飼ってることもあって噛まれたりしましたが、それも気にしてない。ちょっとしたシミもそのままでいいかな、と。


仙波レナと革のはなし
──仙波さんから「スタイリストとしてレザーの魅力を語るなら複数のアイテムを出しながらお話ししたい」という要望を受けました。改めて、革という素材をどのように見ていますか?
素材の存在感がすごく大きい。撮影の仕事では、ライティング(光)で素材がどう見えるかがすごく重要になります。特にジュエリーの撮影だと「そのジュエリーをどう見せたいか」という時に、服の素材感が大事。そんな時、レザーを使うと、それだけでエレガントなジュエリーにパンキッシュな雰囲気を与えてくれる効果がある。スタイリングの世界観や枠組みを定めてくれるような、すごく明確で力のある素材だと思います。

──長いキャリアの中で、レザーに対する価値観や捉え方が変わった瞬間はありましたか?
いわゆる、レザーを模したヴィーガン素材に批判はないですし、私も持っています。ただ、とあるヴィーガン素材を用いたロングブーツを買った時の経験は大きかったですね。すごく気に入って大事に履いていたんですが、購入して2年も経たないうちに表面がペリペリと剥がれてきてしまった。気にいっていたから「もう履けないんだ」とすごく悲しかったんです。その時に、本物のレザーとの大きな違いを身をもって感じました。それ以来、よっぽど気に入ったもの以外は、“フェイク”は買っていません。今ある本物のファーやレザーを長く大事に着ることの方が、私にとってはサステナブルだと考えているから。

──最後に、レザーの魅力とは?
やっぱり、独特な風合いですよね。布にはない、レザーならではの魅力。ファッションにおいては「レザーだから出せる魅力」「シルクだから出せる魅力」というものがあって、だからこそ生まれるデザインがあると思います。素材とデザインは密接で、撮影で「どう見せるか」を生業にしている私にとって、革という存在は必要不可欠です。
連載目次|あの人と、革の話
・ファッションディレクター 栗野宏文のレザー愛用品
・ファッションデザイナー 尾花大輔のレザー愛用品
・スタイリスト 仙波レナのレザー愛用品
・芸人 みなみかわのレザー愛用品
・音楽プロデューサー 藤原ヒロシのレザー愛用品(10/22公開)
■w/leather –革と生きる、という選択。–
期間:2025年11月1日(土)〜11月3日(月)
時間:11:00〜21:00(最終日は18:00まで)
会場:PBOX(ピーボックス)
所在地:東京都渋谷区宇田川町 15-1渋谷パルコ 10F
入場料:無料
主催:一般社団法人 日本皮革産業連合会「Thinking Leather Action」
「Thinking Leather Action」は皮革・革製品のサステナビリティに関する様々な誤解を解消し、消費者に正しい知識の理解促進をしていくために、日本皮革産業連合会が2021年に立ち上げたプロジェクトです。
Photographer:Ito Asuka
text&edit:Furukata Asuka(FASHIONSNAP)
最終更新日:
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