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【連載】日本のレザーを世界へ-TAAKK森川拓野- 第1話:国内有数の産地・姫路たつの探訪

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【連載】日本のレザーを世界へ-TAAKK森川拓野- 第1話:国内有数の産地・姫路たつの探訪

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 日本のものづくりを世界に向けて発信する全3回の連載がスタート。国内生産のレザーを用いたアイテムを製作し、ファッションの本場 ヨーロッパで発表するプロジェクトに起用されたのは、パリファッションウィークの公式スケジュールで発表を続けるファッションブランド「ターク(TAAKK)」のデザイナーである森川拓野。連載第1弾である本稿では、森川が素材選定のため国内有数のレザー産地である姫路・たつのを巡る。

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 熟練の職人たちが作り出す多様な革の中から、自身のクリエイションに最も適した素材を選び出す。伝統的な製法から革新的な加工まで、様々な表情を持つレザーと対峙し、その特性を見極める選定プロセスに密着して見えてきたのは、ファッションの最前線で挑戦を続ける森川の飽くなき探究心と、レザーの奥深さだった。

森川 拓野

Takuya Morikawa

1982年秋田県出身。文化服装学院卒業後にイッセイミヤケに入社。「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」と「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」で企画デザインを担当した後、2013年春夏シーズンに自身がデザイナーを務めるブランド である「ターク(TAAKK)」を立ち上げた。2019年10月、「FASHION PRIZE OF TOKYO 2020」を受賞し、2020年1月、初めてパリでショーを開催。2023年春夏コレクションでは、ブランドとして初となるウィメンズコレクションを展開した。

革の聖地 姫路・たつのへ

国産皮革の7割を占める一大産地 姫路・たつのとは?

 一括りにされることが多い姫路・たつのレザーとは、兵庫県姫路市とたつの市にまたがる「西播地域」を中心に製造される革の総称。現在、国内で生産される天然皮革の約7割を占める一大産地である。諸説あるものの日本での皮なめしの発祥は弥生時代で、戦争による軍事用品の需要が高まった明治時代を境に盛んになったと言われているが、姫路・たつの地域は牛を多く育てていたこと、皮を乾かしやすい大きな石があったこと、川の水が皮革を作るのに適した水質だったこと、瀬戸内海が近く、皮を鞣すために大量に使用する良質な塩が取れる環境だったことなどの地理的優位性から、国内屈指の産地としての地位を確立した。

工場の写真

 元来、流れている河川の水質の違いから姫路レザーはしっかりとした質感、たつのレザーは柔らかい質感といったそれぞれの特徴があった。現在では、双方の特徴を持つ革を鞣す事業者が産地内に共存していることで「ウェアから小物まで幅広いアイテムに使える質の高い牛革」というのが姫路・たつのレザーの大まかな特徴となっている。

リアルレザーは本当に反サステナブルなのか

 動物愛護や環境保護の観点から、リアルレザーの利用に対して否定的な声が上がることは少なくなく、代替素材の進化も目覚ましい。しかし、そもそも皮革製品がどのように生産されているのかについて、正確な理解が浸透しているとは言い難い現状もある。日本では、皮革として利用される牛や豚の皮は、食用の副産物として得られるものを99%以上活用している。もしこれらの皮を利用しなければ、食肉の残滓として大量の廃棄物が出ることになる。

レザーの写真

 リアルレザーは排水処理や化学物質排出の観点で環境負荷が高いという意見もあるが、現代の皮革産業はこうした懸念に対し、水質汚濁防止法はもとより、国内の環境基準等を遵守するとともに、LWG(Leather Working Group)認証など国際的な取り組みを通じて環境負荷の低減を目指している。LWGは、ブランド、サプライヤー、タンナーなどが協力して2005年に設立した国際的な非営利団体。LWG認証では、水の使用量、エネルギー消費量、廃棄物管理、化学物質の使用と管理、排水処理、労働環境など、多岐にわたる項目で厳しい基準を設けており、これらをクリアしたタンナーのみが同認証を取得できる仕組みだ。現在、多くの有名ブランドやアパレル企業がLWGに加盟し、認証を受けたタンナーからのみレザーを調達する動きが国際的に拡大しており、世界中のタンナーはLWG認証取得と維持のために多大な手間と費用をかけている。こうした厳しい要件をクリアし、認証を維持しているタンナーが国際的に増加傾向にあることは注視すべき点であろう。

工場の写真


 今回のプロジェクトでは、「ターク」デザイナーの森川が「未来を見据えたレザー」を求め、国内の一大産地である姫路・たつのを訪問。多くのタンナーを巡り、レザー生産のリアルに触れた。森川はどんなインスピレーションを得て、自身のクリエイションに落とし込んでいくのか。

地域を代表する9つのタンナー巡り 森川の眼が捉えたもの

タンナーを巡る森川デザイナー

キモトレザーワークス

タンナーを巡る森川デザイナー

三昌

 タークでレザーを用いたアイテムを提案するのはほぼ初めてだという。山陽、三昌、新喜皮革、金俊製革所、モリヨシ、キモトレザーワークス、松岡皮革、キタヤ、エルヴェ化成といった、姫路・たつの地域を代表するバリエーション豊かな9つのタンナーを、デザイナーの森川が実際に巡り、鞣し方法や工程など、職人にさまざま話を聞いた。「レザー作りの現場は美しい」と感銘を受けつつも、序盤では「どんなものを作ろうかな」と初めての取り組みに迷いを見せる場面もあった。

レザー画像
レザー画像
レザー画像
レザー画像

新喜皮革

 レザーといえば牛革をイメージしがちだが、実際にははさまざまな動物の革がレザー製品に使われており、それぞれ革ごとの特徴がある。有名なのは、新喜皮革が強みとしている馬革だ。特に馬の臀部(お尻)から採れるコードバンは「革のダイヤモンド」の異名を持ち、経年変化で生まれる美しいツヤからシューズや財布などに使われる。そのほかには豚や鹿、馴染みがないところでは鯉やマグロなど魚の革もある。森川はどの革が自分のイメージに最も近いのか、直接触れながら熟考を重ねる。

レザー画像
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レザー画像
レザー画像
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山陽

 森川は数多くのレザーに触れる中で、特に質感が好みの革を複数ピックアップ。チョイスしたレザーの共通項は硬すぎず、ナチュラルな質感であること。「イレギュラーシュリンク」と呼ばれる鞣す前に縮ませることで独特な風合いを表現した牛革や、生後6ヶ月以内の子牛から採れる「カーフレザー」など、「男らしさがありつつも柔らかく、コレクションに馴染むレザー」を吟味した。

人物画像

三昌

人物画像

エルヴェ化成

 タンナー巡りを通して森川の脳裏に浮かんできた1つのアイデアは、リボンや帯状の素材を縫い付けて装飾する「テープ刺繍」だ。テープ刺繍はこれまで森川が数多く発表してきた得意なディテールの一つだが、これをレザーで行うという。傷や色ムラなどがある革は「B品」と呼ばれ、買い手がつきにくい問題があるが、テープ刺繍であれば細くテープ上にしたレザーを使うのでB品でも気にせず利用でき、こうした課題へのアンサーとなりうる。もちろん現時点ではあくまでアイデアの一つで「どうなるか分からない」と森川は笑うが、姫路・たつののタンナー巡りを通して、当初ぼやけていたプロジェクトの輪郭が徐々にシャープになってきた。

工場巡りを振り返って

⎯⎯今回のプロジェクトで声がかかった時の率直な気持ちを教えてください。

 最初にこのプロジェクトのお話をいただいた時、「難易度が高い」と思いました。正直、それだけでしたね。それでもこのプロジェクトをお受けしたのは、ブランドを今よりもっと成長させたいと思ったからです。やはりレザーという素材があった方がブランドとしての見せ方の幅は広がりますし、パリで継続的にコレクションを発表するようになり、そういった挑戦をしていきたいタイミングでもありました。

⎯⎯3日間のタンナー巡りを終えて。

 正直なところ工場自体に大きな驚きはありませんでした。以前、別のブランドで革小物を作った際に見学した経験があったからです。一方で、これまでレザーという素材を深く扱ってこなかった人間なので、職人さんたちとの「共通言語」を持ち合わせていないという課題は痛感しました。生地の機屋さんとなら専門的な話もできますが、レザーに関してはそれができません。ここについてはこれから研究が必要ですね。

人物画像

デザイナー 森川拓野

⎯⎯ブランドにとっても、森川さんにとっても新たな挑戦ですね。

 この3日間、ずっと自問自答していたのは、「タークの強みはどこにあるのか」ということです。単純にレザー自体が良いというだけでは、これまでレザーを扱ってきたブランドと勝負できません。どうやって自分たちのエッセンスを加え、オリジナリティのある服を作るのか。それに尽きると思います。

⎯⎯現在考えているデザインの方向性について教えてください。

 アンドロジナスなものにするというよりは、もう少し無骨で男らしい、造形的なものに興味があります。ただ、その塩梅はまだ決まっていません。僕自身レザーの魅力についてまだまだ勉強中の身ですが、今回お会いしたタンナーの皆さんの熱量には心を動かされました。一枚のレザーに、自分が思っていたよりもずっと多くの手間や職人さんの想いが詰まっている。それに応えられるような服を作りたいですし、自分自身も楽しみながら製作にあたりたいです。更に言えば一度きりで終わるのではなく、継続して産地に貢献できることが理想。数ヶ月後、自分の今の想像を遥かに超えるものが生まれるのを期待しています。

photography: Masahiro Muramatsu | text & edit: Taichi Murata, producer: Ryota Tsuji(FASHIONSNAP)

最終更新日:

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