
Image by: FASHIONSNAP

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これまでの幾度かのブームを経て、幅広い年代から安定した支持を集めるようになったヴィンテージ古着。とはいえ、どういったジャンルやアイテムに人気になるかは、その時々によって変化している。現在人気があるのはどんなジャンルの古着か。今後注目を集めるのはどのようなヴィンテージか。11月に横浜で開催されたヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET vol.7」で、ヴィンテージ古着人気の最前線を調査した。
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2025年秋の人気ヴィンテージアウターは?
今回、「VCM VINTAGE MARKET vol.7」の取材を行った11月2日の横浜は、最高気温が18.8度、最低気温が13度。長く続いた夏がようやく終わって涼しい季節が訪れたこともあり、アウターを着用した来場者が多かった。

「VCM VINTAGE MARKET vol.7」会場の様子
そのなかでも目立っていたのが、デニムジャケットだ。近年は「リーバイス(Levi’s®)」を中心としたヴィンテージデニムジャケットの人気が高まっており、特に希少な個体は1000万円以上の価格で取り引きされることもある。今回のイベントでもそれと同等のヴィンテージデニムジャケットが売れたという。会場でも、デニムジャケットの着用者層は年齢・性別を問わず拡大しており、10代から60代まで幅広い年齢層からの支持を得ていた。



「VCM VINTAGE MARKET vol.7」の会場の様子
ヴィンテージTシャツ人気に変化の兆しアリ
今年4月に開催された「VCM VINTAGE MARKET vol.6」のイベント当日の最高気温は23.3℃と、夏日一歩手前だった。この頃は人気テレビ番組が特集するなどしてヴィンテージTシャツの人気が一般層まで拡大していたこともあり、ヴィンテージTシャツを着用する来場者が非常に多かった。その中でも目立っていたのが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(RED HOT CHILI PEPPERS )やニルヴァーナ(Nirvana)などの、大きい版で派手な色のプリントがあしらわれた主張の強いデザインのロックバンドTシャツだ。




2024年6月の「VCM VINTAGE MARKET vol.6」の会場の様子
また、バンドTシャツと同じように、カラフルな色合いが目を引くアニメTシャツを着用する来場者も多かった。ヴィンテージTシャツに強いショップの客入りも盛況で、入店規制をするショップもあり、売れ行きも良かったという。


2024年6月の「VCM VINTAGE MARKET vol.6」の様子
今回は、前述したように気温が大幅に低下したため、Tシャツ1枚で会場を歩く来場者は少なくなっていたものの、ヴィンテージTシャツをインナーに着用するなどしてコーディネートのポイントとする例は多かった。だが、人気のモチーフには変化があるようで、前回主流だったロック系のバンドTシャツの着用者は減少したように感じられた。


「VCM VINTAGE MARKET vol.7」の会場の様子
売れるJ-POP Tシャツの条件
現在、どういったヴィンテージTシャツが人気なのか。ヴィンテージTシャツを専門的に扱う「着ままにTshirt」のオーナー 松尾士氏によると、アニメTやムービーTの人気は引き続き高いものの、客が興味を持つモチーフの幅が広がっているという。同店が今回のイベントで打ち出していたジャンルのひとつが、1990年代のJ-POP Tシャツだ。筆者はイベント初日、開場してから約3時間後に同店を訪れたが、今年でデビュー52年を迎える日本のベテランロックバンド「ジ・アルフィー(THE ALFEE)」のTシャツはオープン後早々に売れたという。また、1990年代のJ-POP Tシャツのなかで知名度が高い、槇原敬之のTシャツは、入荷してもすぐに売れてしまうという。


hide Tシャツはタイ製のブートレグ
人気を集めるJ-POPTシャツの条件として松尾氏が挙げるのが米国製ボディだ。1990年代のJ-POP Tシャツは、「ヘインズ(Hanes)」や「フルーツ オブ ザ ルーム(FRUIT OF THE LOOM)」、「ブロッカム(BROCKUM)」などの、ヴィンテージTシャツとして人気の高いブランドの米国製ボディが用いられているものがあり、こういった個体は価格も高くなるという。逆に、生地が薄いものが多い日本製のボディは、ファッション観点での評価は低くなるそうだ。

1990年代の小泉今日子のTシャツボディは米国製のヘインズ
若者がヴィンテージに惹かれる理由
今回のイベントで特によく目にしたのが、1950年代を中心とする古い年代のヴィンテージ古着に身を包んだ若者だ。友人同士3人で連れ立って会場に現れた若者たちに話を聞いた。

ヴィンテージ古着を好きな理由を訪ねてみると、まず挙がったのは「経年変化によるフェード感」。これまでヴィンテージ愛好家の間では、着用感がない個体が基本的に珍重されてきた。その頂点が、未使用のまま保管されていたデッドストックだったが、近年その価値観に変化が生まれているのだ。インディゴデニムの色落ちなどは以前から高い評価を得ていたが、最近は着用や日焼けによって生まれたフェード(色褪せ)に対する評価が急激に高まっている。フェードはこれまで、ネガティブな要素とされることが多かった。だが、近年はフェードを「ヴィンテージならではの個性」と捉える価値観が広がっており、「良いフェード」のアイテムには高い価格がつけられるようになっている。


彼らがヴィンテージを好む理由としてもうひとつ挙げたのが「今では作ることができないアイテムに惹かれる」という要素だった。彼らが身につけていたのは、手仕事による凝った刺繍が特徴のブルゾンや、ヴィンテージ特有の長いリブが目を引くスウェットなどだ。



若者たちがヴィンテージに惹かれる理由について、供給側である古着屋オーナーに話を聞いた。齋藤綾馬氏が東京・高円寺で運営する古着屋「ダート・ヴィンテージ・クロージング(DIRT Vintage Clothing)」では、齋藤氏が愛好する1950年代のヴィンテージを数多く取り扱っており、20代を中心とする若者から強い支持を受けているという。自身も20代である齋藤氏は、若者たちが1950年代のヴィンテージ古着に惹かれる理由を「見た目のインパクトが大きいからでは」と分析する。

「ダート・ヴィンテージ・クロージング」オーナー 齋藤綾馬氏
1950年代のヴィンテージは、他の年代のヴィンテージにはない個性的なデザインのものが多い。同店では、オンブレチェックシャツやアニマル柄のオープンカラーシャツ、独特の色柄のアウターなどが若者たちによく売れるという。

オンブレチェックシャツ

アニマル柄オープンカラーシャツ

総柄ブルゾン
1950年代のヴィンテージが「特別」な理由
ではなぜ、1950年代のヴィンテージに個性的なデザインのものが多いのだろうか。ヴィンテージ古着の歴史はアメリカの歴史とほぼ同義だが、1950年代は第二次世界大戦後の好景気を受けてアメリカが経済的、文化的に大きく躍動した時代だったために、この時代ならではのヴィンテージが数多く生まれたのだ。
オープンカラーシャツは、エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)に代表されるロカビリーカルチャーの影響を受けて1950年代当時拡大した。そのデザインにアニマル柄などの特徴的な柄や派手な色、大胆な配色切り替えなどが採用されたのは、この頃に本格化した若者消費を応えるためだったと考えられる。また、1950年代のアメリカでは、アパレルの生産技術が大幅に向上した。オンブレチェックは柄がグラデーションになっているために染色の難易度が高いが、この頃の技術の向上により生産数が増大した。1950年代前半はウール素材のギャバジン生地が、後半はレーヨンやアセテート、ナイロンの化学繊維の生産が拡大するなどして、生地のバリエーションも増えた。さらに、ミシンの高機能化により、装飾的なステッチが可能になり、凝ったデザインを取り入れたアイテムも多く作られるようになった。若者たちはこのような、この時代ならではのデザイン・雰囲気のヴィンテージに惹かれていると思われる。

オンブレチェックシャツ

特徴的なステッチが施されたウエスタンジャケット
2020年頃に訪れた古着ブームは一旦沈静化したものの、ブームをきっかけにヴィンテージに「ハマる」若者の数は増えていると、多くの古着関係者が語っている。手に取りやすい価格でそれなりにオシャレに見える服は巷に溢れているが、それに満足できない若者たちは、唯一無二の服を求めている。その欲求を満たす存在のひとつが、1950年代のヴィンテージ古着が持つ独自の個性なのだろう。今後、どういったヴィンテージが若者たちの心を捉えるのか。引き続き、注視していきたい。
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