一昨年、「まとふ(matohu)」の表参道店で、不思議な"うつわ"を体験しました。それは、一人ひとりのうつわに景色を作るというもので、五感を研ぎ澄ませ、自分自身を見つめ直すような体験でした。うつわの制作と参加型のライブイベントを手がけているのは、作家のTAKAGI KAORUさん。そして今回、新たに用意されたのは"道具"。4月のある夜に開催された、特別なライブイベントをレポートします。

前回と同じく、店内では「まとふ」デザイナーの堀畑裕之さんと関口真希子さんの2人が迎えてくれました。新作の2015年春夏コレクションならぶ店内の中央には白木のテーブルが用意され、8つの包みが置かれています。
参加者はまず、荷物を全て預け、裏庭のクスノキの周りに集まりました。表参道の喧騒から離れ、雨粒によって鮮やかさが増した新緑が、神聖な気持ちにさせてくれます。
心をリセットし、両手を清めたら、穏やかな気持ちで再び店内へ。用意された席に着くと、不思議な会のはじまりです。
案内役を務めるTAKAGI KAORUさんに導かれ、まずは店内奥のスペースに並ぶ、たくさんの"道具"から好きなものを1つ選びます。
"道具"といっても、それらは一つ一つが全く異なる色と形をしていて、オブジェのよう。
再び席につき、それぞれの目の前にある包みを開きます。
中に入っていたのは、丸みを帯びた陶器の箱。蓋を開けると、乳白色の練り切りが入っています。
事前に、参加者はある"持ち物"を持参するようにと言われていました。それは、「ある出来事とその景色」。それを思い出して頭の中に描き、そして練り切りを使って表現していきます。
小さな瓶がまわってきました。それぞれ違った香りの香水瓶です。蓋を開けて、「ある出来事とその景色」にピッタリの香りがあったら、それを手のひらに数滴垂らし、そして練り切りに練り込みます。
いくつかの小器が運ばれてきました。色粉が入っていて、それらを少しずつ練り込みながら、頭の中の「ある出来事とその景色」を、2つの形に表します。
ここで使うのが、最初に選んだ"道具"。
まずはその形を眺めて、それを自由に使いながら、練り切りを作ります。
完成したら、ひとつの練り切りは、箱の中へ。もうひとつは、展示皿の上へ。
最後に「菓名」をつけて、お皿に添えます。
ここでTAKAGI KAORUさんが、"道具"について話してくれました。
道具とは、「生を資け道に順うの具」。つまり、人の生を資け、人が道に従って生きるために必要な具が道具である、という意味で、それぞれの人生という道で必要なもの。
TAKAGI KAORUさんは、それらの道具を「内在するアクセサリー」と捉えて、自分自身の中にある"道具"が動けば、景色が変えられる。そして旅が始められる。と説きます。
その言葉を胸に、今回参加した8人の練り切りを鑑賞して、それらの景色について語り合いながら、作った練り切りを食しました。
ここでひとつ、あることに気づきました。不思議なことに、なぜかみな、最初に選んだ"道具"と作った練り切りの形が似ていたのです。
"道具"によって景色がかわる。自分自身が持っている"道具"で、人生も変えられる。
そんなことに気付かされた、不思議な一夜でした。
>>道具と向き合うTAKAGI KAORUのアート体験 まとふ表参道で開催
<前回のレポート>
■まとふ表参道で五感を刺激する「うつわ」体験