Mugita Shunichi

モードノオト第四夜

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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煙草と酒の臭いを毒のように毛穴から滲ませながら、「ヨシオクボ(yoshio kubo)」の開始を待っていると、隣席にFashionsnap.com編集部の高村美緒さんがいらっしゃった。度し難いこの私に、それでも温かい激励の声を掛けてくださる。この連載がどうにか続けてこられたのは、かの編集部のご厚意と、心ある読者のおかげである。駄法螺(だぼら)が、しばしなりと一服の清涼剤代わりのお役に立てば幸い、売文稼業冥利に尽きると云うものである。今夜も震える指が、それでも懸命にキーボードを弾(はじ)いている。

 

ちょっとした洒落を効果あらしめる、ひと呼吸置いてから「あッかんべェー」と嘯(うそぶ)かの如く、「yoshio kubo」の裏切りが心地良い。ショーに特筆すべきニュースはないが、テーラード、スポーツ、ミリタリー、マリン、パターンで見せる柄の切り替えと云った久保嘉男のイディオムをちりばめ、そこに骨董趣味(服のあちらこちらにVINTAGEの文字が見受けられる)を纏わせている。会場には蛸壺のようなシャンデリアと流木のオブジェが陳列してあり、時代がかった航海図のスカーフプリントに潮の香りが漂う。作り手の複雑怪奇な思考回路がそのまま、コラージュの手法に反映されているのだろう。この男のデザイン的脳内を理解するのは並大抵ではない。作り手の久保自身がいちばん似合いそうなスタイルをずらりと並べているが、血が騒ぐメッセージがない。どうしてしまったのか。

yoshiokubo-backstage-20151014_088.jpg>>yoshio kubo 2016年春夏コレクション

さて、四日目で気になったのは「ハナエ モリ マニュスクリ(Hanae Mori manuscrit)」の天津憂の動向である。所謂、作品はきちんと商品になるのだろうか。ドレスメーカー志向の天津は端(はな)より、東京では比較的困難なマーケットへのコミットメントの強い意志を示してきたわけで、いまもなお試練は続いている。天井から鍾乳石のようなオブジェがぶら下がった会場は、乳白色のリノリウムが敷かれた、まるで人工の鍾乳洞のような空間。天津は、水の流れ、鉱物やミネラル、楽園に咲き乱れる花々、そこで飛び交う蝶をモチーフにした幽玄の世界を描いた。繊細な透ける生地で仕立てた冒頭のグループは、水面(みなも)に漂う乳白色の靄(もや)の如し。羽衣のような薄物にフリルやラッフルを飾った作品は清流の細波のイメージに重なり、結晶や鉱物を思わせるプリントは大振りのクリスタルへと、その姿を昇華される。終盤の華やいだ花々のコラージュ柄が、ミネラルカラーとクールな対照をなしていた。服地の表情豊かな輝きに比して、デザインの原型はブランドの本質を過(あやま)たず突いていたかどうか些か疑問は残る。確かに物語は伝わってきた。収め方が巧いだけに、と云うか、破綻の少ない作であれば即、及第と云う、甘な採点で満足してしまうわけにはいかぬところに、このブランドを背負って立つ難しさがあるのだろう。贅肉がなくしなやかで、簡潔にして要を得た作品を期待したい、と云うのは少しく手厳しいだろうか。(文責/麥田俊一)

HanaeMori-2016ss-20151015_018.jpg

>>Hanae Mori manuscrit 2016年春夏コレクション

【短期連載】
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モードノオト第二夜
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麥田俊一

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