Mugita Shunichi

「モードノオト」月曜日

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 時間が午前零時に近くなると無性にジンが欲しくなる私は、風雨をついて、また歩き出した。先程の冷酒が覿面に効いている。歩き出してはみたものの、またつまずいて、漸く立ち上がると、酔っ払いが毎度世の中を呪うような調子で「畜生め、クソ野郎」と、悪態をついて、いつもの酒場に辷りこんだ。客は、泥酔して正体もなく止り木で居眠りしている若い女と、そのすぐ横に座っているデブの中年男だけ。介抱すると見せて、相手の隙になんとかつけ入ろうとする出歯亀根性が、かのリーマンの脂ぎったバーコード(勿論、頭のこと)から透けて見える。バーコードかぁ、つくつづく今日は縁があるなぁ。ジンを舐めながら先程のミントデザインズのショーをつらつら慮ってみたのだった。

 単調に続くリズムは、昭和のゲーセンで鳴り響いていた懐かしい電子音のようである。プリントや織りで表現された柄は、往時のTVゲームを彷彿させるが、マトリックス型の二次元コードや、縞模様の一次元コードを模したデジタル暗号のようなものだった。大きな真四角のプレキシグラスと錬鉄のフレームを組み合わせた舞台は、差詰め巨大なスキャナーと云ったところか。決められた方向に歩き舞台上を交差するモデルは、自ら纏ったQRコードやバーコードをレジスターでスキャンしているような、そんな仮構の世界が膨らんでくる。すべてはイマジネーションなのだ。デジタル調のモザイクや矢鱈縞は、その特性からすると非常に几帳面で気難しい嫌いがなきにしもあらずだが、ほっこりとした毛皮の温かみやトレンチコートと云った普段使いに馴染んで、随分とアンティーム(親密)な雰囲気である。フューチャーとか近未来的なぞの惹句が飛び交うのがこの場合の定石であろうが、最早斯様なフレーズは懐古的に過ぎないと作り手は百も承知。とにかく遊んでいる。玩具に夢中になる、頑是無い童心に近い領域で遊んでいる。毛皮や皮革にフェイクを使い、毛皮に似せたモヘアを差し込み、ピニールの人工的な風合いで変化をつけるあたりは、作り手の得手とする対照の妙を味方につけた作法。シャーリングとタックを使ったフリルやフラウンスの装飾が普段よりも頻繁に繰り返されるが、スキャナーでは読み取り不可能ながらも、これとて立派な遊びの要素。そもそも、撓んだ布の魅力を数値に置き換えるなぞ野暮の骨頂である。デジタルな記号情報、飛び出す絵本のようなモアレ調の花柄、女の子の横顔のマトリックス、グリッドやランダムな幾何学柄、透明ビニールのワッペン...。カラーブロッキングや骨太の縞模様が続き、ショーは漸次、ポストモダンへの傾斜を深めていく。デジタルとアナログを交配したような、それでいてアナクロニズム的な意匠が今様なのであろう。作り手の巧さが伺えるものの、予定調和を破る新機軸を期待して止まぬ。わたしみたような下衆で幼稚な駄文連発のジャーナリストに大した効果も望めぬであろうところは、自分で十全に承知もしているのだが、横紙破りのミントデザインズをどうで見てみたいのだ。ジンのペースが上がる。そして、かのバーコード男は諦めたのか、いつしかいなくなっていた。(文責/麥田俊一)

mintdesigns 2016-17年秋冬コレクション

麥田俊一

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