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鈴木会長が辞任したセブン&アイホールディングスは改革に向かうのか?

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セブン&アイHDの鈴木敏文会長の辞任は、内外に大きな波紋を広げた。仕事で顔を合わせるファッション業界人でさえ、「メディアが書いている辞任理由は本当なのか」と、疑う人間が少なくない。

そんなやり取りから何日か過ぎた5月はじめ、日経ビジネスが9日号で以下のような記事を掲載した。「ヨーカ堂100億円在庫買い取り要請が頓挫 セブン鈴木会長、伊藤家との確執に新事実」。読者の眼を引くタイトル付けは経済誌の十八番だが、問題はその内容である。ファッション業界からすれば、「それはないだろう」と思えるからだ。

記事は、「...業績悪化の要因は衣料品などの過剰在庫だ。損失を抑えながら大量の売れ残りを処理できないか。ヨーカ堂の会長兼CEOも兼務する鈴木会長は「奇策」に打って出る」と、あまりに虫の良すぎる要請を取り上げた。

続けて「100億円規模の在庫を伊藤名誉会長らの私財で買い取ってもらい、その衣料を海外などへ寄付する──。関係者によると、鈴木会長から支援を依頼する書簡を、同氏側近が伊藤家へと持って行った。だが反応は鈴木会長側の想定外のものだった。伊藤家の資産管理を担う伊藤名誉会長の長女、山本尚子氏などが怒り、拒否されたという」と、奇策の意図とその顛末まで書いている。

さらに「この在庫処理案の結末と会見での発言はぴったりと平仄が合う」と、続ける。つまり、記事は辻褄が合うとまで断言しているのだ。

結局、在庫買い取りが実現しなかったわけだから、辞任の真相がどうなのかはよくわからない。でも、ファッション業界的に見れば、そこまでの衣料品在庫を抱えたことの方が問題と言わざるを得ない。

というか、セブン&アイのGMS改革の一つには、「量販店の衣料品をどうするか」も含まれていたはず。この課題は会長退任のはるか前から懸案事項になっていたわけで、それに道筋を付けられなかった経営陣の責任は重い。鈴木元会長ですらコンビニでは次々と新機軸を打ち出し軌道に乗せたが、GMS改革では道半ばだったのだから、創業家に頼るというのはどうなのか。自らの経営力の無さを露呈するようなものだ。

そもそも、量販店の衣料品については、いろんな課題が山積だった。一般に売れない要因はバブル崩壊以降、ユニクロなどの低価格帯の業態が幅を利かせ、量販系の衣料品は求められなくなってきたと言われるが、それが主たる要因ではない。

それよりはるか前から、GMSの並ぶ衣料品には黄色信号が灯っていたのだ。量販のビジネスモデルは大量仕入れやセルフサービスによるコスト圧縮で、商品価格を下げて販売するもの。だから、NBのグロサリーなどが安く買えると、お客は店に足を運ぶのだ。

ところが、衣料品は下着や靴下などの一部を除き、NBと言っても百貨店などに並ぶ物とは明らかに異なる。ブランド衣料もあることはあるが、すでに旬を過ぎたものやファッションに敏感な層は受け付けないものばかりだ。

レディスではトレンドを意識した商品も扱っているが、全体的に後追い企画でしかない。どこかの人気ブランドを適当にパクってはみたものの、原価率を照らし合わせると、素材やティテールを削ぎ落とさざるを得ないから、完成度は下がってしまう。

それにローコストオペレーションでVMDがワンボディ、ハンギング&畳みが主体になるため、商品を訴求する力が無く、お客の購買意欲をかき立てない。つまり、ビジネスモデル上でトレンド商品はそぐわないのに、扱っていること自体が問題なのだ。

メンズのスーツやジャケット&パンツ、シャツもPBを加えて販売してはいるものの、何が売りなのかわからない。「このクオリティでこの価格です」と、POPには書かれているが、紳士服量販店やツープライスストアと、比べると明らかに見劣りする。エスカレーター脇では、商社などと共同で開発した価格訴求の商品を催事的に販売するが、これとて誰に向って何を訴えたいのかがハッキリしない。

シンプルなベーシックアイテムや日常衣料に特化して、ユニクロや無印良品を超えるようなクオリティを提供すれば、少しは市場の掘り起こしができたのかもしれない。しかし、それには全く挑戦しようとはしない。商社ともども社内に本気になれる人材がいないということか。どうしても商品を値引きして売る発想から抜けきれないのだから、どうしようもない。

フロア全体を見渡しても、商品はだだっ広い売場に並べられ、期末が近づくと20%OFFのマークダウン、セールになると50%OFF、クリアランスではさらにレジで◯%オフと割引して売り減らそうというだけ。バイヤーは在庫の消化というより、キャッシュフローに貢献すればくらいの考えでしかないのかと、呆れてしまう。

もともと比較的値ごろ感のある商品を揃えられるのだから、プロパーで売るための価値を高めないことが非常に問題なわけだ。今のお客は衣料品を購入する場合、価格、デザイン、素材(色柄)、機能のどれか一つが揃うだけでは、決して商品を購入しない。買う目的とそれらいくつかの条件が合致して始めて、買い物スイッチが入るのだ。それはGMSで衣料品を買う場合も変わらないはず。 購入する価値が大して無い商品に対し、割引だけに反応するお客がどれほどいるのかを、経営サイドは全くわかっていないのではないか。

鈴木元会長はセブン&アイの経営を司る中で、経営理念に「変化対応と絶対的価値の追求」を掲げて来た。その薫陶を受けた各事業会社のトップはそれぞれPDCAという教科書通りにやってきたはずだろうが、GMS、こと衣料品については、改革どころか、何も手を付けられなかったと言うことである。

イトーヨーカ堂の衣料品はまず、お客や市場の変化に対応できていないのは明らかだ。そして、「量販店の衣料品はここまで商品を提供できるんです」と、胸を張って絶対的な価値を追求するようなこともできていない。

伊勢丹のカリスマバイヤーと呼ばれた故藤巻幸夫氏を取締役兼セブン&アイ生活デザイン研究所社長に迎え衣料品改革に取り組んだ時期もあった。しかし、百貨店出身者にとって量販店の商品づくり、ターゲット、マーケットはかなり違ったようで、軌道に載せるとまでは行かなかった。

そもそも、藤巻氏はすでにある商品を見極めたり、メーカーと一緒に商品の付加価値の高めるプラス志向のものづくりのはできても、量販店のように最初に原価率、コスト、荒利益率で判断する引き算の商品づくりには馴染まなかったのかもしれない。

業態では無店舗のネット通販が人気を博し、価格ではカテゴリーキラーやファストファッションが台頭し、システムではSPAやAMSが高消化、高回転に貢献している。こうした業態や仕組みは衣料品のマーケットを大きく変えてしまった。なのに、イトーヨーカ堂はそうした変化に全く対応できていないのである。

売場を見れば、中途半端なトレンド商品、デザインもクオリティも今一のPB、先行企業の二番煎じに過ぎない機能性衣料、不良在庫を値引きで売り減らすしかない旧態依然とした販売スタイル等々。絶対的な価値の追求なんてほど遠い有り様だ。

鈴木元会長は衣料品の過剰在庫について「マーケティングもできていないのに、大量に作ったからだ」と、他人事のように説明している。また、イートーヨーカ堂とそごう・西武の共同開発衣料「リミテッドエディション IYコラボ」のワイシャツも、 初年度で数万枚の販売を担当者らは想定していたが、「機会ロス撲滅」という方針が強まり、計画は60万枚に膨れ上がったという。

そもそもスーパーと百貨店とではお客が求めるニーズが違うわけで、共同開発の意図がわからないし、機会ロスを云々する前に売れる商品をどこまで開発できたのかは疑わしい。大量の売れ残りが何よりの証拠だ。それらに対応できる人材がいないとイトーヨーカ堂の関係者は話しているようだが、人材育成ができないのはトップの責任でもあるのだ。

こうした結果、ますます不良在庫を抱える状況に陥ったのは当然だろう。それを創業家の奉仕精神に頼って買い取ってもらおうなど、耳を疑うばかりの愚策としか言いようがない。これが会長辞任の理由かどうかはさておき、GMS、衣料品改革に手が付けられなかったことは、経営陣の無能さの一端を示すのは間違いだろう。

新任の井坂隆一社長は、「各事業会社のトップがそれぞれの会社をどのようにしていきたいか、対話の中で計画を立て、執行できるか確認しながら経営を進めていく...」「イトーヨーカ堂の立て直しには鈴木流を踏襲し、仮説検証しながら再定義していく...」と、表明している。

ただ、期待したコラボ商品もそれほど売れてはいないと聞く。ファッション業界ではこれまでの経緯から、「誰がやってもGMSの衣料品は変わらんよ」と言われている。生え抜きの経営陣にとっては、悔しくはないだろうか。

筆者はイトーヨーカ堂にはネガティブなイメージは持っていない。シンプルなデザインのシャツやパンツで、白、生成り、黒、紺のような色目の商品が、ユニクロや無印良品を超えるようなクオリティで提供してくれるなら、購入する。価格は1~2割程度高くても全然構わない。そもそも量販店にブランドは求めないから、PBで十分だ。

そんな商品が今の市場にはない。セブン&アイほどのグループ規模があれば十分開発できると思うのだが、いかがだろうか。いい加減、商社丸投げの商品開発から脱却し、マーケットとマーチャンダイジングの基本に立ち返ることが改革の第一歩ではないかと思う。ぜひとも改革の意思を見せていただきたい。

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