Mugita Shunichi

モードノオト2017.03.22

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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 いつ眠りに就いたのかは定かではなかった。午前零時を少し回ったあたりだろうか、ドッと疲労が襲ってきて、服を脱いでベッドに潜り込もうとしていると、判然としない何かが空中をユラユラ舞っているような気がした。これはみんな安酒が見せる夢なのだと、自分に云い聞かせてみた。眼を開けてみると、その得体の知れないモノの正体は、コンビニエンスストアのビニール袋だった。シワシワの袋が、汗ばんだ顔に貼り付いていたのだ。泥酔した私が自分の枕で寝ていることと同じくらいの権利は、その薄っぺらなビニール袋にだってあることを知らされたのは、何気なく眼を床に転じたときだった。せいぜい、ふたくちがとこ飲んだだけの、残りの液体は泡を立てながら、床の上で缶とワルツを踊っていた。深夜のささやかなる舞踏会を催すために、自分はわざわざこの袋を手に提げて帰宅したのだろうか。しかし実際は、そんなふうに思うまえに、もう眼は覚めており、心は千々に乱れ、あてどのない環をグルグル回っていた。ジンの、いまだ支配下に置かれたままの私の頭は、ザラザラと錆ついた感じで、雑巾を取りに風呂場に行こうともせず、少しの間なすすべもなく、横になっているのだった。パソコンが水害を免れていたのを物怪の幸いに、この稿を書き続けようと、寝床の上で胡座座りをした。「ディスカバード(DISCOVERED)」のショーで聴いたエレクトロニカの記憶が心に溜まった澱を撹拌してくれた。数時間前に遡ると...。

 会場の床には、敷き詰められた朽ち葉を覆うようにメタリックに染めた落葉が撒かれている。枯れ落ちた木の葉と無機質の印象は、デザインの土台に据えた普段着の見馴れた感覚と、創作の内燃機関の燃料となった挑発的で剥き出しの狂気を抑えつける緩衝材のようでもある。モデルは、何かに憑かれたように舞台を駆け抜けていく。狂気と云ったが、勿論、常軌を失ったデザインではなく、カットアップのイメージを更新しながら、クラシカルな主題を荒々しくコラージュする創作は、寧ろ誠実さと温もり、或る種の規則性が感じられた。

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 パンクやオルタナティブなロック、グランジやアシッドハウス、そしてダブ...。服は音のイメージを手放そうとはしない。そもそも音と蜜月時代にある服は、ひとつのイメージを纏うことで、本来の音の意味を捨て去り、次第に時代の流行が追い着き、更新と変換の濾過装置を繰り返し経ることで表層のスタイルとして変容を遂げてきた。各時代の音を、そのまま着るわけにはいかないからだが、そのイメージは反復され増殖を続けて止まない。今回の「ディスカバード」は、まるで堰を切ったように饒舌な語り口だった。しかし、攻撃的に見える重層構造の服は、作り手の生真面目な資質に確と裏打ちされている。挑発すればするほど、その本質が服に滲み出るのである。これをナイーブと云ってしまうと少しく曖昧になるだろうから、敢えて律儀さと形容しておく。それは、小数点以下の数字が無限に続く回答ではなく、スパッと割り切れる感覚に似ている。いくらユースカルチャーにドップリ浸ろうが、真面目さをもって鳴るブランドである。(文責/麥田俊一)

>>DISCOVERED 2017秋冬コレクション

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