Mugita Shunichi

モードノオト2017.03.23

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 酒を呑まないひとには酒呑みの気持は判らない、など云う気はもとよりないし、そんな物云いは、女にハードボイルドが判らないと云うのと同様、独りよがりの暴言だろう。そもそも酒呑みの心情なぞと云うものは、傍からはどうでもいい代物だ。が、しかしである。「馬は馬連れ」と云うこともある。もしかしたら、関わり得ない何かがあるのかも知れぬ。今宵の酒のアテは女である。と云っても、なにも女性を侍らせて呑んでいるわけではない。そんな身分でもない。先程の「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」のショーに登場したアマゾネスたちに思いを寄せているのだ。その一杯はまさに胃の腑に沁みわたった。そこで私は、もう一人の自分を素面にさせるより、残りの自分が酔っぱらってしまうほうが余程簡単そうに思えたが、そうなってしまうのは如何なものかと思い直して帰路に就いた。こうして余韻が去らぬうちに書いているのだった。

 今回の「アキコアオキ」に衝撃を覚えた。ショーの冒頭に据えたネオンピンクの啓示は、口の真ん中に命中した拳固のように、私を心の底から震撼させた。外連味を少々利かせた、悪趣味と綺麗の境界を曖昧にした始まりだった。緊張が弥増す会場。未開の奥地に眠る排他的な部族の冒し難い強さ、異国の農婦の素朴な逞しさ、中世の甲冑を想起させるプロテクションの着想、身体を拘束する高貴な肌着...これらはすべてが、勇猛な女性像を描出するための題材となっている。作り手本人に確認したわけではないから、飽く迄もこれは私感に過ぎない。もそっと近寄るならば、猛々しい女だけではなく、そこにエロスを滲ませているのだ。身体や服の形を整えるためのファンデーションに着想しながら、人工的なプロポーションのための補整ではなく、服と身体の間の微妙な隙間を敢えて意識させるためのモチーフとして借用しているから、描出される形はどれも歪に変容している。こうした、鳥渡見た限りでは、稚拙なパターンメーキングともとれる違和感のある形は、勿論、按配された産物。けだし未熟さが露呈しようとも、現段階では、さして問題視すべきではないだろう。実戦を繰り返すことで経験値は上がるものだから。

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 そして、もうひとつのポイントはエロスの描出である。伝統的な紳士服地で仕立てた鎧のような服の合間から、大胆に素肌を覗かせる意匠が奏功している。再三にわたり、鎧だの逞しさだの、とかく強さばかりを強調する形容を繰り返してきたが、ギャザーで膨らませた袖、どこまでも長いプリーツ、引き伸ばされた袖、素肌が透いて見える生地、左右前後の均衡を崩したデザインなどでも判るが、軽やかに揺れ、ときに妖艶な秋波を送ってくる服だから、なにも硬質な文体だけではない。これはまぁ、男の作り手には到底見せられぬ官能だろうな、と独り悦に入っている次第である。

>>AKIKOAOKI 2017-18年秋冬コレクション

 かのブランドの前回のショーについて私は他所でこう書いている。少々長くなるが引用しておくと、...(前回のショーは)女性性の強調とも、強い女性像の追求とも、或はコスチュームに対するコンプレックスともとれる。最近は俄に、プロポーションが演出され過ぎる嫌いがある。あまりにも誇張され過ぎ、誰もがそれを追従して、服そのものが少し置いてけぼりにされているような気がしてならない。もっと義務のない自由さがあっても良いのではないだろうか。たとえば、身体の線を見せると云うことは、見世物にすることとは違う。挑発とも異なる。よしんば、今回(前回のショーのこと)の狙いが挑発や強さに軸足を置いていたのであれば、それに向けて純度を高めて欲しかった...云々。ずぶろくの下卑た懸念も、どうやら杞憂だったようである。(文責/麥田俊一)

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