Mugita Shunichi

モードノオト2017.10.18

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 いつもの伝で、トンカツを喰い、数本の冷酒を以て自らの莫迦さ加減を言祝ぎ、火照るような気持のままこの稿のネタ繰りを終えて帰宅。いま原稿を書いている。深更の分厚いトンカツは、少しく嬉しいことがあった折の、自分へのささやかな贈り物なのだ。自分のさもしさを吐露した一昨日の日乗について、今日、数名の同業者より、ご意見を頂いた。「あのエピソードは本当のこと?」。皆一様に揶揄してくる。「ええ、実話ですよ。自慢出来ないですけれどね」。「まるで私小説の世界だねぇ」と云う言葉の裏には「いい歳こいて軟派もねぇだろうよ」との冷笑が明々白々に貼り付いている。だがしかし、この手の嘲笑をもろに浴びてしまう自分自身が、どういうものか晴れがましくも思えてしまうのだから始末に負えない。人様に知られたくない自分の恥部を曝け出すことで心が軽くなると云うか...なんと云うか...ただ告白したいだけなのかも知れない。或は、ただマゾヒストもどきに、話をまたぞろ言挙(ことあ)げして、我が身に突き立てたナイフの切っ先を自分の手で捩り回してみたいだけかも知れない。頭のタガに弛みがあることを自覚しながら、これでいいものかなぁ、と募る疑心を酒で洗い流していたのだった。

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 偶然にも今日はチャイナジャケットを着ていた。「上海」と云う今回の「ミントデザインズ(mintdesigns)」の主題を意識したつもりはまったくなかったが、かのプレゼンテーション会場(路面店mintdesigns AOYAMA)に足を踏み入れて、たまさかの重複に気が付いた私は、少しく照れくさくもあり、ひょっとして業界ズレしたひとに見えはしないかと、意味なくも自意識過剰となった自分をクールダウンさせるべく、周囲にやたら快活に話し掛けるなぞして開始時間までの間を保たせたのだった。

 新作の公開シューティングの形式で発表した今回は、上述したように中国趣味を創作の俎上によこたえている。西洋人のエキゾチシズムを満たす美術工芸品が着眼である。四世紀中頃の元代に景徳鎮窯で誕生した青花磁器、中国三大刺繍のひとつとして知られている中国広東省東部の町、汕頭(すわとう)発祥の汕頭刺繍、淡路(あわじ)結びを使った伝統的な手芸のチャイナノット(淡路玉)や旗袍(チーパオ)などの題材は、まさに中国で古来より発展継承されてきた往時の日常生活の必需品。いわば歴としたプロダクトデザインの範疇である。時代を越えて歳月を生き延びる強靭さ、鑑賞の眼の風雪にも堪え凌ぎ抜いてきた稟性(ひんせい)に秀でた数々の品々。かのデザイナーデュオのこうした着眼点にもブランドの特性がしっかりと見て取れよう。たとえば、拡大されたチャイナノットの連続模様、青花磁器の複雑な線描画、汕頭刺繍の図案などの展開は、色柄の遊びを得手とするブランドの真骨頂でもある。実際の淡路玉はベルトやボタン、シューズの装飾にアイコニックな存在として繰り返し使われている。青花磁器の絵模様や汕頭刺繍のハンカチーフ柄は、刺繍や織りではなく、樹脂を使用した立体的なプリントで描かれている。藍色のコバルト顔料で複雑な模様を絵付けした青花磁器に見られる柄は、中国とイスラム世界の盛んな文化交流から生まれただけにエキゾチックな芳香がひときわ強く、古来より礼装のひとつとされてきた汕頭刺繍のハンカチーフは、そのままパネル柄の図案モチーフとし使っている。また、今回はミントちゃん(ドール柄)が復活。詰襟が凛々しいアオザイのような長着の、身頃の横を深く割ったスリットからミントちゃんが覗いていたり、背景を透けさせたドール柄も見受ける。この透かし模様も汕頭刺繍の切り抜き刺繍にヒントを得たのだろう。敢えて身体の線を意識させない重ね着は、旗袍やマンダリンガウンの持つ本来の艶かしさに代わるユルさと軽さ(プリーツもキーアイテム)を描出している。いつものように今回の緻密な線描画の下絵も、勝井北斗はナイフ片手の切り絵で制作したのだろうか。もしそうであれば、腱鞘炎にならなかったかしら。要らぬ心配はともかく、細部に至るまでブランドの流儀に裏打ちされた作品群だった。(文責/麥田俊一)

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>>mintdesigns 2018春夏コレクション

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