Mugita Shunichi

モードノオト2018.03.19

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 開始当初「モードノオトの日乗」と題した東京コレクション期間限定の集中連載も、はや五年目を迎える。取材用の帳面、「ノートブック」と「音(オト)」を掛け合わせ、標題の「ノオト」としたのは、そもそも他所で開始した連載(短命だったが)の折だった。どうでも冴え冴え澄み切ったとはいかぬまでも、憚(はばか)り乍ら、精一杯に濁りを排した目線を以て、服の作り手が奏でる音を抄(すく)いとってみたいなぞの、往時の所信表明には、それなりの自負が寡しはあったのかも知れぬ。とあれ、青臭さ全開の私的な日乗の如き断篇をボツにもせず、採って頂いている編集部のご厚情と、読者の方々の叱咤激励を賜り感謝に堪えない次第。酒飲みの戯言に、どうぞ今季もお付き合い願いたい。

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 今日の「ミツル オカザキ」や「マメ」なぞで感じたのだが(いずれも今季、初めてショーを発表した)、所謂ショー映えする服(後者)と、そうでない服(前者)の違いをまざまざと見せつけられ、改めてショーの功罪に思いを巡らしながら...いまは(平生のバーではなく)陋居で焼酎を呑みこの稿のネタ繰りをしている。深更だと云うのに、JBLのモニターが、ポール・チェンバースのドスの効いたベース音を吐き出している。社会人一年目に給金を貯めてやっと手にした憧れの機種である。新品で、このシリーズのウッド仕様は多分、いまは入手困難なはずだ。プリメーンアンプは、以前煙を吐き出して買い替えたりして、いまのが三代目。しかしスピーカーは、同程度に使い込んでいるにも拘らず、いまだに現役である。たぶん、いまのアンプよりも長持ちするのだろう。いや、私が死ぬころになっても、まだまだ充分使える状態にあるのでないだろうか。別にスピーカーと張り合おうとは思わないけれど。

 石を眺めながらちびりちびり焼酎をやる。JBLの上には、一等お気に入りの水石(すいせき)を飾っている。北海道産の石だ。野暮天のくせして、私には水石を愛でる趣味がある。盆栽好きの父と、つげ義春の影響もあり、何処までも根が暗い私の質にピツタリの趣味だ。素人のくせして品評会や即売会に脚を運び購めてみたり、下手の横好きで、方々の山河でひろってきたり、大小のうぶ石が無造作にゴロッと床に転がっている。山形石や滝石、抽象石なぞと、ほうけたように、勝手に想を膨らませてみる。河原の石ころに「景」を想うのである。部屋に独り、知らぬひとに見とられる気遣いもない。この時間が私は好きだ。石には宇宙の全課程が凝縮されている。

htra_18aw_m01_01.jpgハトラ(HATRA)2018-19年秋冬コレクション photo by Gael Delhaye(JUBILEE)

 今日「ハトラ」の展示会で長見佳祐と話していたら、石の話題になった。今季のコレクションの着想のひとつに、仏の社会学者ロジェ・カイヨワの書物を挙げている。私はその方面には不案内だが(貧弱ではあるが)私も石を幾つか所蔵している。石の話になると長っ尻になってしまうと思い、私の趣味については長見には敢えて黙っていた。傍からすれば、近未来やデジタルなぞと形容されるのだろうが、長見の服は娑婆世界に叩き付けた理想郷のような感覚に根差している、と常々私は勝手に思っている。蟻の歩みのように歯痒い速度ではあるが、彼の服は「洋服」の領域に向け前進している。エレガンスと云ってしまうと興醒めだが、前回より、服に女が見え隠れし始めたからだ。有機的な曲線、左右の均衡を崩した形、爛れた皮膚のような凹凸、蠢く微生物のような勾玉模様、細胞質や神経繊維の断面のようなレース柄...人体解剖学的な世界観が愉快だ。子供の頃、壊れたミニカーや錆びた螺子釘、路傍の石や機械の部品なぞの小さなガラクタをこっそり箱の中に蒐集することで、えも言われぬ快感を味わった経験は誰しも持っているはずだ。日常的な実用性を拒み、そのモノ自体がエンサイクロペディア的な、自立した宇宙を形成する世界に惹かれたことがあるだろう。彼はそんな世界に、憧れにも似た考察を加えているのだ。ややもすると輪郭が曖昧に見えがちな服だが、服地や細部へのこだわりには妥協がない。そこには、恰もガラクタを蒐集する少年の無垢な意識が凝縮されているかのようだ。(文責/麥田俊一)

【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト】
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【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト〈18年秋冬〉】
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モードノオト2018.03.21
モードノオト2018.03.22
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