Mugita Shunichi

モードノオト2018.03.21

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 三月の声を聞けば、木々の梢からハラハラと冬を振り落としてくれ、中旬を過ぎれば、いまや桜の盛りを待つのみとなるところだが、晴れた一日で春が立ったとの感銘には程遠い厳寒が続く毎日。今日は午前中より、綿毛のように柔らかな雪がちらつき、渋谷界隈の大気は空一面の真っ白なカーテンに閉ざされた。小生意気な、あたりを払うような水っぽい綿雪が、地面に落ちるそばから消えてしまい、「どうだい、驚いたかい」と云っているようで小憎らしい限りだ。華やかなネオンサインに彩られた夜の伊勢佐木町界隈も、さすがに十一時を過ぎると人通りが疎らになる。粋を競うショーウインドーの明かりも消えて、やがて小一時間も経てば、バーやキャバレーから吐き出された酔客の影を弔うように、静寂の夜のなかに沈んでしまう。いまやこの街の夜の幕引きは早い。況してや、氷雨混じりの突風に吹かれ、女房子供が恋しくなった男たちは、終電車に遅れまいとして家路を急ぎ、まだ呑み足りぬ野郎どもは、さらに隘路に脚を伸ばして更けゆく夜を惜しむのだ。それがもう少し羽振りのいい奴ならば、口説き落とした女を連れて安宿にしけ込む算段にもなろう。だが、よろめくように酒場を出た私は何処へ行くのか...貧乏が沁み着いた電信柱を避けて京浜急行の高架橋下の暗い道を往く私の影は、目標を得て歩く者の足取りではなかった...と、いつもの伝で云えば、この私もご多分に洩れず、悴(かじ)けた心のショボい中年男を演じてもいるのだが、しかし今宵の私は、ちと様子が違う。服の色気にあてられ、鳥渡した高揚感に満ちているもの。奮発して乗り込んだタクシーの揺れも心地好いのだ。

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 贅沢とはこのことなのだなぁ。先程の「ヨウヘイオオノ」のコレクションは絶妙な間合に満ちていた。七人のモデルに服を着せたインスタレーション(合計十四体)は素晴らしかった。キャリアの薄いところにもってきて、舞台映えする服を強く意識したがために、正直これまでの二回のショーは、ブランドの根幹をなすプロダクトデザインの如き潔さが過剰なアイデアで稀釈されてしまったように思う。ブランドの未来図を俯瞰するなら、進化の過程での変貌は道理にも適っていようが、2015-16年秋冬シーズンより開始した若いブランドである。「いつショーをやるのか」「次もショーをやるのか」なぞの周囲の雑音に惑わされることなく、いまは自分の個性を深化させ、実像をしっかり結ぶ時期だと思っている(ショー形式が相応しくないと短絡しないで欲しい)。

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 カーテンの襞、壁紙のようなクラシカルな柄や織物、真っ新なデニム生地、椅子の肘掛けのような滑らかな曲線、座り心地のいいソファーの落ち着いた形...日乗の生活に根差した題材に着眼した装飾が、前述のプロダクトデザインと云う言葉を連想させるが、うわべのそれ(服が表層的にプロダクトデザインに見える)だけではない。たとえば家電製品や自動車などの工業製品に、夢のある形を与える生産デザイン(プロダクトデザイン)を服作りにおいて実践することが、大野陽平の目指すところだ。彼の服には、仕立ての職人技を以て縛り付けられた重厚感とは異なる、敢えて申せば「軽やか」「無機質」「硬質感」などの形容詞が当て嵌まる。大野は今回、服の形は女性の身体に歩み寄ると思えば、ときにはそれを裏切ることで、表外のプロポーションを描出している。信頼した素材を惜しまず、ギリギリまで引き算を施して、超然として、余分なモノをすべて削ぎ落しつつも、装飾に富んだ創意と飾り気のないデザインとの間の境界線を意図して曖昧にした服は、こうも潔く見えるものかと得心させられたのだった。「無機質」「硬質感」と述べたが、誤解のないように声を大にして云っておくと、ときに艶めかしくシナを作るモデルの表情に、これまでの彼の服には薄かった女の色気が見え隠れしていて、この変貌ぶりが、実は今回の大きな収穫だと思っている。

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 色気との間合を詰めてきたのは、今日は大野だけではない。「パーミニット」の半澤慶樹の服は、前回のデビューショーに比して「作品」から「「洋服」を意識した創作を心掛けている。色気と云う観点では、大野と比較することは出来ぬが、元来、意図するところが違うので、そもそも比べること自体、意味のないことだ。過度に誇張された形から、意識して現実的な服の形へとシフトしている。こうした日常の服への傾斜を深めようとする試みに、半澤の成長が窺えよう。面白いことは無類に面白いのだが、モデルが脱いだ後の服には、女の体温が感じられぬと云うこれまでの創作を省みた結果、今回がある。とは云え、ジャケットやコートの袖付けを思い切り前に振ることで見えてくる量感、パターンに妙味を効かせた独自の立体表現には爽快な驚きがある。未だにやたらと無意味なビッグシルエットを眼にする今季にあって(日本人離れしたと形容するのはおかしなものだが)デビュー四回目、それも二回目のショーにして、試行錯誤の布捌きで見せ切る大胆な形には溜飲が下がる思いだ。今回は、作り手のエゴの強さを少しく抑え、緻密な作業工程をこれ見よがしに当て付けることもない。いや寧ろ、「あまり時間をかけずに」と云う意を重ねたブランド名が象徴する、半澤の特性である良い意味での「軽さ」が奏功しているのだろう。(文責/麥田俊一)

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