Mugita Shunichi

モードノオト2018.03.22

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 空を見上げた。午前中の鬱陶しさは消え、何処までも青い空だ。雲ひとつない。見ているとそのまま身体ごと持ち上げられて吸い込まれてしまいそうな気になる。一羽の鳥が、右に左にバランスを取りながら風に逆らって浮かんでいる。空の青さに溶け込んでしまいたい気分を、躍起になって振り払いながら現実を直視した。未だ、ショーの会場から会場への移動が骨身に沁みる年齢ではないはずなのだが、東京コレクションも四日目を迎え(これはちと様子が違うわい)妙な身体の重さが疎ましいし、連夜に及ぶ痛飲僻を呪い倒したくもなってくる。(そろそろあれだなぁ、肉でもがぶりつくか)本日最後の取材を終え、端より今夜は強い酒は控えるつもりで、脇目も振らず(一昨夜に寄った)マダムの店に直行したのである。止り木にもボックス席にも客は皆無。その僥倖に巡り会った私は、ステーキに和風だし(顆粒)の効いた具なしナポリタンの添え物と瓶麦酒を一本を誂えた。滅多なことでは夜更けにフライパンを使いたがらないマダムは渋々厨房に向かって行った。隣にシゲさん(常連客)でも居合せようものなら、「いいですなぁ、厚切りのステーキなんぞは。聞いただけで目方が増えたような気がしまさぁ」なぞ軽口をたたいただろうが、ジュウジュウと美味しそうに焼けるフライパンの音と香ばしい匂いしか、いまの私の思考を邪魔立てするモノはない。このうらぶれたマダムの店に寄ったのは、ふと郷愁に駆られたからだ。肉を噛み締めながら、エキサイティングだった1970年代の「東京ボンバーズ」の思い出に浸りたかったがためである。

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 「ジーヴィジーヴィ(G.V.G.V.)」のショーは、東京ドーム ローラースケートアリーナ(都内最大級の屋内ローラースケート場)が会場だった。会場に向かう道すがら、私は往時のローラーゲームについて甘な郷愁に駆られていた。作り手のマグの胸中を去来したのが何であったかは定かではない。しかし、オプアート、サイケデリック、騙し絵的なジオメトリック、市松模様、マーブル柄、エコファーのリュクスな風合い、エナメルのビザールな質感、カーティス・メイフィールドばりのメローなR&Bの選曲、そしてローラースケートのリンク...とくれば、まさしく1960代後半から70年代の気分である。ローラーゲームなぞ云っても、若い世代にはピンとこないだろう。米国で誕生したこのエンターテインメントは、ローラースケートを履いて行なう二チーム対抗のゲームで、五名で構成されたチームの得点権利者が相手選手を何人抜き去ったかで勝敗を競うルールだ。選手同士の小突き合いやタックルは当たり前。お約束の、プロレスの如く殴る蹴るや頻繁に繰り広げられる反則行為が売りの白熱的なゲームで、日本では1970年代前半より東京12チャンネル(現在のテレビ東京)が試合を独占的に実況中継していた。「東京ボンバーズ」は、日本人と日系人の男女で構成した花形チームだった。

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 会場を見渡せば、一周100mはあろうかと云うリンクに敷かれた動線を粛々と歩くモデルの姿を見守るひと、ひと、ひと...前回、久方ぶりにショーを再開したブランドだが、その人気ぶりは健在であった。弱みは過去に対するノスタルジアそのものであり、そのために頻繁に、ひとは非生産的になることがある。重要なのは、それぞれの時代をその特性に合わせて同調し直していくことだ。(私みたく)古いやり方をいつも懐かしがるひとの過ちは、このあたりを把握出来ないために起こるのである。一方、現代のことだけを評価して、過去を忌み嫌うのは、あまりにも浅薄と云えよう。要は、新旧織り交ぜての「ほどよさ」こそ、面白味を生み出す妙味なのだ。

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 ポップで、ときにケバケバしいほど強い色柄のスペックは、このブランドの作品に頻出するお馴染みのモチーフである。錯視的効果を持つ幾何学模様が服を埋め尽くし、そこには万華鏡を覗いた折に感じるワクワクした気分が満ちている。クールで抑制の効いた色柄、ボンデージの味付けや官能的な着こなし、スポーツやストリート、ときに甘く切ない装飾...コレクション全体にマグの如才ないアレンジが効いている。こうした柔軟な妙味があるから、このブランドは安全地帯に居られるのだろう。この弾力性を失って欲しくはない。(文責/麥田俊一)

>>G.V.G.V. 18年秋冬コレクション


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