Mugita Shunichi

モードノオト2018.10.15

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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IHNNの2019年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP.COM
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「あんたが呑んでいないところを見たことは一度もないわねぇ」。「わたしは呑んでいて恰度いいんさ」。「そんなことをして身体に良いわけがないじゃないの」。「いいものなんか何もないよ」...「それがあんたなの?」...「わたしはそのどちらでもないよ」。私はやり返した。「だから呑んでいるんさ」...。こうしたエグい酒場では御法度な、相も変わらぬ愚昧な会話を続けていた。場末のバーのマダムに、ひとの道理を諭されることほど鬱陶しいものはない。が、ついと足が向いてしまい、気が付けば、軋みの強いドアを押し開け、紫煙の渦に今夜も漂っている。尻のポケットに入れた封筒のシワを伸ばし、メモを書き付けようとするのだが、はて、何を書こうか。アルコールでメートルを上げて、一体どう書こうというのか?恨みがましく、日程表を幾度も眺めてはみるものの、心躍るようなショーが見当たらぬのは(「ジェニーファックス」は別として)安酒が私を誘惑し、私を盲(めしい)させているからだろうか。Amazon Fashion "AT TOKYO"とて、端より色物の催事と勝手に承知しているから、これはこれ、華々しく執り行なわれことだろうよと、予定調和の域を出ない客寄せに過ぎない。今回ほど、こちらのモチベーション(気合い)が薄いシーズンもない。おまけに、空は、鼠色の顔料でも塗り潰したよう。気が滅入る1日だった。

IHNN 2019年春夏コレクション

小降りの雨。会場に咲くビニール傘の花。周囲より酒臭いと揶揄されるも、もとより平気の平左。何故、悪い?本降りになればいい、と心中で毒吐きながら、屋外に並べられたパイプ椅子に座り、貧乏揺すりの態で「イン」の開始を待っていた。

未だ対面の機会はないが、以前よりデザイナーのイン・チソン(印 致聖)の服作りには惹かれていた。彼は、野性と洗練、粋と頑迷、都会と田舎、反抗と包容力のように、相反する特質を巧く持ち得ている。巧くとは、言葉の綾で、寧ろ、作法(さくほう)は不恰好で生々しい。この生な魅力が持ち味になっていると思う。このパンクな感覚が、ブランドの旬を感じさせるのだ。パンクと形容したが、パンクロックのコスチュームプレーや叛逆の精神を押し出すデザインと早合点してもらっては困る。いつもながらの奇抜な色がもたらす衝撃に加えて、キッパリと性差の壁を取り払う彼の流儀は、自由な精神に裏打ちされていて、彼の創作のコアにある、紙ヤスリを掛けたようなざらざらとした質感を、敢えてパンク的と形容したのであって、本人にすれば心外な喩えかも知れない。そうだなぁ、崩れた調和が新たな調和を生み出す的な、メビウスの環式の服作りと評するならば褒め過ぎだろうか。

IHNN 2019年春夏コレクション

ブランド開始は2014年だと聞く。丁度一年前に、初めてモデルを使ったプレゼンテーションを発表。男性性と女性性、繊細さと大胆さ、天然繊維と人工的な資材、透ける服地と光沢感のある生地、直線と曲線...背反する要素が作品群を縦横に行き交い、混在するエレメントをひとつのスタイルに定着させようと試みていた。そして今回、そぼ降る雨をも味方に付けて、初めてのキャットウォークを披露。あのときのテンションを発展させているようだ。記憶に残る服、緊張感のある服をこれからも追い求めて欲しい。期待している。

さて、明日は悩殺爆弾に言及してみたい。ところであんた、パンティーの紐に、そもそも何人くらいボーイフレンドをぶる下げているんかね?(文責/麥田俊一)

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