matohu 2019-20年秋冬コレクション

Mugita Shunichi

モードノオト2019.03.22

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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matohu 2019-20年秋冬コレクション

 作り手固有の創作世界を更に濃密にするためだろう。シーズンを跨ぎ、同じ手法、同じ主題を採り上げ、同じ技巧を積み重ね、注意深く加筆しながら、その世界観に恰幅を与えるブランドが少なくない。この傾向はただのマンネリ化とは違う、作り手の意図的な仕掛けなのである。今回の「マトフ」も、前回(2019年春夏)と同じく、青森県に創作の題材を求めた。「手のひらの旅」と題した連作の二回目となる今回を「雪の恵み」とした。雪国の抒情的な風土、峻烈な気候に育まれた伝統工芸の魅力に憑かれ、作り手は凍てつく冬の青森を再訪した。伝統工芸とは、刺し子や津軽塗などの手仕事である。

 今回もロードムービーが制作され、プレゼンテーションと会場にて上映された。創作の下敷きとなる神秘的な自然の景色を作り手の五感が受け止め、伝統工芸が生み出される現場を彼等自身が訪れると云う内容だった。真っ新な雪に覆われた林、天に聳える太い幹、前景に倒れた樹。総てに雪が白々と積もっている。剥き出しの樹肌と雪、湖に降る氷雨、泥雪と地肌...。その殆どが二色で統一された風景は、一種の抽象画とも受け取れる程、見事な構図によるリズム感の溢れた出た冬模様。自然の中には、未だ手入らずの、誰の手垢にも汚されていない、そう云う美の天地がある筈と、得心させる景色。沈黙した世界が奏でる自然の諧調が作り手の創作の琴線を鳴らしたのだ。そして、こうした自然が磨いてくれた伝統工芸の素朴さが服に滋味を与えている。手仕事の素朴さと云うが、技も、心も、伝統の束縛にしっかりと縛られて、伝統の水を呑み、伝統の火に焼かれて、鍛錬された表現技巧であるからこそ、時を越えて歳月を生き延びる強靭さや鑑賞の眼の風雪にも堪えしのぎ抜く稟性が備わるのだ。

matohu 2019-20年秋冬コレクション

 時と云った。そう、時について思った。酒を呑んではいるが、頭は普段に比して少しくハッキリしているから、酩酊する前に書いておきたい。雪に閉ざされた映像より、私は「時間」や「記憶」と云う霊感を受けた。たとえば、詩は、小説とは違って、その一篇の中に日常的な時間を持たない。とりわけ抒情詩は、叙事詩とは違って、その傾向が強い。多くの場合、そこでは時間の概念は無視されている。よしんばあったとて、それは記憶的な時間であり、記憶の中では、時計の針は必ずしも易々と進んでいくものではない。我々が詩を読む時、そこに時間が存在しないことによって(時間に代わる)別の時間、即ち、内的持続と云ったものを直観することが出来る。この種の詩は、時間を欠くことによって、そこに無限の時間を溢れさせ、内的持続が即ち永遠であるような錯覚を読み手に与えることにもなる。

matohu 19-20年秋冬コレクション
matohu 2019-20年秋冬コレクション

 今回の「マトフ」の作品もまた、無時間の世界である。そこには(無色と云う意味ではない)透明な永遠が息衝いている。それは、象徴詩に於ける無時間と云っても良いが、しかし、それは永遠ではない。流れて行く時間の中の一瞬が定着されるのではなく、無時間と云う一つの状態が何時迄も持続する印象なのだ。隅々にまでが、同じ緊張に保たれた今回の作品群は、全篇に於いて無時間の世界を濃く感じさせたのである。更に、風景、風土に根差した色柄もまさに記憶的であり、実はこうした景色そのものが、たいそう人間的だと云うことを最後に付け加えておきたい。(文責 麥田俊一)

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