
「東京ファッション・ウィーク」をベースにビジネスを成長させているデザイナーは少ない。ウィメンズブランドではさらに少数派で、年商1億円の壁を超えているブランドは希少な存在といえるだろう。ファッションショーを行わず、展示会でバイヤーのニーズを掴むブランドが多数派の東京にあって、一人のデザイナーがファッション・ウィークを介しての成功体験を実践しようとしている。
16日にショーを行った「チノ(CINOH)」は、現時点でユナイテッドアローズやエストネーション、ビームス、バーニーズ ニューヨーク、ベイクルーズなど55アカウント(取引口座)を有し、順調に取引店舗数を増やしてきた。その一方で、商品がドメスティックブランドやリアルクローズ売り場で扱われてきたことから、茅野誉之デザイナーは「このままでは世界で通用しない」と感じ、ブランディングを練り直してきた経緯がある。東京ファッション・ウィークでのショーをPRやブランディングの場として捉え、高品質の素材を使いながらアイテムの完成度を高めてきた。

今季はクリーンなフレンチシックを軸に、一部でパールの装飾を施したコレクションを披露。ウォーキングで揺れるバスクシャツ、ヴィンテージ風のバルカラーコート、高密度ツイルを採用したシルキーな光沢シャツは美しい仕上がり。フランス国旗をモチーフにした鮮やかなトリコロールドレスは、絞り染めのような独特の風合いだった。ショーの前に、2020年春夏シーズンの展示会を終え、バイヤーの買い付けも順調だったと聞く。店頭での消化率も高く、有力セレクトショップが買い付けのバジェットを減らす厳しい状況でも「チノ」は力強い成長を続けている。
また、海外の主要取引国だった中国の卸先を解消し、こちらも戦略の見直しを実施している。茅野デザイナーは「ピーク時で13件のアカウントがあり、中国での取引店舗数は20店舗前後だった。しかし、ミセスに強い地方都市のセレクトショップや顧客のファッション感度がブランドのテイストに合わないこともあった」と明かす。そこで「北京や上海の有力店と取引を広げながら、地方に拡大するイメージ。レーンクロフォードやジョイス、I.T.といった店舗に置いても戦えるだけのクリエーションとプライス設定を深耕する。インターナショナルデザイナーのカテゴリーで勝負できるようにしたい」とする。中国での取引を解消する際、周囲から「驚かれた」と笑う茅野デザイナーだが、こうした潔さもビジネスの成長には不可欠なのかも知れない。
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