Mitsuhiro Minami

大量生産システムに支えられている受注生産

南 充浩

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー

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今の世の中は、各分野が高度に細分化しているから、全体像は見えにくい。

どうしても自分の携わっている分野のみしか知覚できない。

以前にも書いたが、もう何年も前のことになるが、その頃は、国内の生地産地に今よりも焦点が当たっていた頃だった。

当方も小規模な独立系デザイナーと知り合ったが、どうにも観念が先行しがちな人が多い印象だった。

国産ブームみたいなのもあって「生地産地を守ろう」みたいな主張を掲げる場合が多かったのだが、実際のところ、生地産地はそんな小規模ブランドで守ることは不可能に近い。

生地産地自体は、中国やアセアンの工場に比べると小規模だとはいえ、独立系の小規模デザイナーが使うような生地の量ではとても仕事が回らない。

当方が見聞きした範囲でいうと、産地の工場としては3反とか5反くらいは買ってほしいが、ブランド側は1反くらいしか買えないということが多かった。

1反50メートルで、服の用尺が平均2メートルとして1反25着しか作れない。しかし、小規模ブランドは販売力がないので、1反潰すのがやっとで、下手をすると1反未満しか使わないという場合もあった。

あれから5年以上は経過しているが、多くのブランドの状況はさして変わっていないだろう。

はっきりというと、1反とか5反程度の発注では産地は到底守れない。逆に産地は衰えたとはいえ、もっと大口の注文が支えており、その隙間で小規模ブランドは対応してもらっているというのが現実であり、産地を守るどころか「産地に守られている」のが実態である。

これは国内縫製工場についても同じで、縫製工場も1型25枚程度の縫製ではとてもじゃないが支えられない。減っているとはいえ、いまだに年間1億点くらいは国内縫製されていると考えられるから、各工場ともに1型50枚くらいはミニマムロットとして必要になる。

1型25枚程度の縫製なんていうのは、大口の縫製の隙間で対応しているのが実情である。

同じ独立系デザイナーでもベテランはこの事実をわかっていることが多いが、若手や中堅は理解していないことが当時は多かった。そんな彼らもそろそろ中堅からベテランと呼ばれる年数になっているが、相変わらず進歩の無い人も少なくない。

最近のエシカルブームの盛り上がりによる受注生産グループにもこれと似たようなにおいを感じてしまうのは、当方がひねくれているからだろうか。

洋服の廃棄問題がにわかにクローズアップされてから、それを回避する方法として受注生産を唱える人が増えた。もちろん、それなりに有効な手段だとは思うから、それで採算が取れるならやればいいと思う。

しかし、その受注生産グループの中には、「過度にイシキタカイ」系も少なからず混じっており、そういう「イシキタカイ系」が声高に「大量生産は絶対悪」と唱えることには違和感しか感じない。

恐らく、彼らの頭の中には服の生産背景に関する知識はほとんどないのだろうと、その言動を見ていると類推される。

「大量生産」を完全に否定するなら、イシキタカイ系の人が唱えるような受注生産すら存続ができないというのが実情である。

とくに、短納期の受注生産なんていうのは大量生産システムに支えられている。

なぜなら、短納期で受注生産するためには、生地、副資材(ボタン、ファスナー、芯地、ホック、リボン、テープ、リベットなど)、それにミシン糸が常に備蓄されている必要があるからである。

例えば、生地だけでいうと、注文を受けてから生地を生産していたのでは、最低でも生地ができるまで3カ月くらいはかかってしまう。

おわかりだろうか。あらかじめ生地がストックされているから短納期の受注生産が可能になるのである。

しかも副資材は生地よりも機械部品に近い感じがあるから、もっと大量生産されて備蓄されている。

ファスナーは圧倒的シェアでYKKの大量生産に支えられている。ボタンもリベットもそれぞれ大手メーカーの大量生産によって支えられており、その備蓄があるから短納期での受注生産が可能だし、修理やお直しにもすぐに対応ができる。

また多くの人が忘れがちだが服を縫製するためにはミシン糸が不可欠だが、このミシン糸も大手が大量生産していて備蓄されているから常にいつでも縫製することが可能なのである。

一般的には知られていないが、肌着・靴下で著名なグンゼは実はミシン糸の大手メーカーでもある。

受注生産、とくに短納期の受注生産は大量生産に歯止めをかけるどころか、「大量生産に支えられている」というのが実態といえる。

だから当方は、受注生産ブランドが今までの生産システムをガラリと変える切り札だとはまったく思っておらず、数あるブランドの中の一つのそういう「グループ」だと見ている。

それは例えば、アメカジ、ミリタリー、フェミニンなどのブランドグループと当方からすれば同列にしか見えない。

もちろん、受注生産ブランドを否定するつもりはまったくない。しかしそれは、メンズスーツに既製服ブランドとオーダーブランドがそれぞれ存在する程度の住み分けでしかないと思っている。ブランドの売り方の一つとして受注生産という選択肢があるというに過ぎない。

それをわかって取り組んでいる受注生産ブランドは非常に常識的で共感できるが、声高に大量生産を絶対悪視する受注生産ブランドには失笑を禁じ得ない。

南 充浩

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