新型コロナウイルス感染症が世界を一変させた。国内外の繊維、アパレル企業が苦しんでおり、商社の繊維事業は踏ん張りどころを迎えている。顧客の大半が苦戦し〝困り事〟が増えている今こそ出番だ。日本を含め世界の多くの国が感染拡大を恐れ国を閉ざす。グローバルな人の動きが制限され「海外出張できない」状態が当面続く。海外拠点を軸に、物作りや調達、販売などで商社の幅広いネットワークが生きる。またデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など顧客1社では進めにくい案件も商社が投資し、プラットフォームを提供することで大きく前進できることがある。商社の役割や機能が改めて必要とされている。
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(大阪編集部素材・商社担当 高田淳史)
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■需要に素早く対応
コロナ禍で海外拠点が生きている。蝶理は国内の需要に対し、中国でマスクやアイソレーションガウンなどを生産、供給した。「誰も中国に行けない中、拠点を活用して素早く供給網を築き、国内に供給するなどは商社ならではの動き」と先濵一夫社長。今後「世界で新しいニーズが生まれ、新たな取引先と新たな関係が始まる。海外に拠点を持つ強さが生きる」と商社の役割、ビジネスチャンスが広がると見る。八木通商の八木雄三社長は「顧客が簡単に海外出張できなくなった。拠点を生かし、優れた商品やブランドを買い付けたり、紹介する機能が再び求められる」と顧客のニーズを聞きながらインポート事業を拡充する。
海外現法の活用は、各社が力を入れる海外での販売強化に欠かせない。今後期待されるのは他社商材も含めた市場開拓だ。生地輸出などはこの間、各メーカーが仏プルミエール・ヴィジョンといった海外素材見本市に出展し、販売を強めてきた。しかし海外出張や商談がままならない中、戦略を変更せざるを得ない。商社自身が海外事業を成長の柱と位置付け、コロナ禍で急務になった。欧米市場に限らず、中国や東南アジアなどの市場成長をどう取り込むかは、商社の成長の条件でもある。先進国、新興国問わず商社ネットワークを生かし、海外販売を強める手は有効だ。
物作りの面では、素材からの一貫の製品事業が取引先の成長を支える。田村駒の植木博行社長は、「取引先の経営者と話し込み、成長を支えるのが商社の役割。生地売りだけでなく、製品までの一貫のビジネスが主となり、そうした取り組みを実現する金融機能を商社が担っている」と役割は増しているという。
■〝当たり前〟を変える
商社は、環境配慮型素材の広がりに大きな役割を果たせる。コロナの影響で衣料品の販売不振、低価格需要が続けば、一時的には環境に配慮した取り組みや商材拡大の動きは鈍化するかもしれない。しかしサステイナブル(持続可能な)活動を進める世界の大きな潮流は変わらないはず。むしろコロナ禍を機に、抗ウイルス、抗菌機能を付与した環境配慮型素材に注目が集まる。商社がサステイナブル素材の扱いを増やす取り組みはボリューム面で非常に意味がある。帝人フロンティアは、「素材からエコにこだわる」と30年度までにリサイクルポリエステルの活用など全体の半分以上を再生原料から作ることなどを環境戦略として掲げた。価格低減にも取り組み、「再生原料使いでいいですよね」と顧客に働きかけ、再生原料使用を〝当たり前〟にして大きく進める。
デジタル技術を活用し、産業や事業のあり方を変えるDXへの投資、転換も鍵だ。アパレル業界は中小企業が多く、しかもコロナ禍でDXに投資できる企業は限られる。商社が投資してプラットフォームを作り、それを顧客に提供、デジタル化を進めることで無駄を省き、新たな価値を生む事業モデルに転換することが求められる。試験反や衣料製品サンプルを3D画像に置き換え、サンプル作りの手間やコスト、時間を短縮する取り組みが海外で先行、国内でも三菱商事ファッションや三井物産アイ・ファッション、ヤギなどで取り組みが進む。他産業では、デジタル化が遅れ、市場の変化に対応できない企業の淘汰(とうた)が進む。デジタル化が遅れているアパレル産業を支援し、収益が出せる事業モデルに転換できるかは自社だけでなく、業界にとっても喫緊の課題だ。コロナ禍で商社が果たす役割や機能、ニーズは刻々と変化する。企業により発揮できる強さや独自性は異なり、それが差別化につながる。ローコストオペレーションを競い続けても、低成長の中で収益の拡大は見込めない。
大阪編集部素材・商社担当 高田淳史
(繊研新聞本紙20年8月24日付)
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