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"駄菓子屋とギャラリーの間"のような実験的スペース「same gallery」とは?

"駄菓子屋とギャラリーの間"のような実験的スペース「same gallery」とは?

ACROSS編集部
ACROSS

「盗めるアート展」で話題になった荏原のギャラリーは、 “駄菓子屋とギャラリーの間”のような実験的なスペース。

2020年7月9日〜10日未明にかけて開催され、SNS上のみならず、『文春オンライン』や『ハフポスト』といったさまざまな媒体にも取り上げられた「盗めるアート展」をめぐる狂騒曲はいまでも記憶に新しい。

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ユニークなタイトルのその展覧会は、10名の作家のアート作品を展示したギャラリーを24時間無人の状態で開放し、来場者はぞれぞれ作品を1点だけ“盗める”、そしてそのようすを監視カメラで記録し続ける、というもの(になるはず)だった。

ところがいざ蓋を開けてみると、9日の22時頃からギャラリーの前には200~300人ほどの来場者が集まり、周辺整備のために警察が出動して交通整備する事態に。そしてオープン予定の24時を迎える前に、来場者の1人がギャラリー内に脚を踏み入れたのを嚆矢に人々が殺到。わずか1分ほどのうちに作品はすべて“盗まれて”しまった。

レセプションパーティーにて「盗めるアート展」出展者の加賀美健さんらと談笑するオーナーの長谷川踏太さん。

夜が近づくにつれ大盛況となったレセプションパーティー。

渋谷スクランブル交差点のハロウィンのようになった荏原の住宅地!

会場となったのは、品川区荏原の「same gallery」。2020年3月にオープンした同ギャラリーのオーナーの1人である長谷川踏太さんに、「盗めるアート展」について振り返ってもらい、そもそもギャラリーをオープンしたことについてなど、改めてお話をうかがった。

「事前にSNSとかで結構話題にはなっていたので、始まってすぐものがなくなるのは予想してました。でも、駅から結構遠い場所だったし、終電がなくなる時間からスタートすることでハードルを上げたつもりだったので、まさかあんなにたくさんの人が集まるとは思いませんでしたね。本当はものがなくなった後もしばらくギャラリーを開けておいて、各作品のあったところに“盗まれました”みたいな張り紙を貼ってクロージングパーティーとかをやる予定だったんです…」(長谷川さん)。

オープン前のギャラリーは緊迫感が漂っていた。

作品を盗めなかった人々も、せっかく来たからと記念写真などを行なうなど、会場の外は大盛り上がり。来場者のなかには、『名探偵コナン』に登場する犯人(真っ黒な人影)や戦隊ものなどのコスプレに身を包んだ人もおり、まるで渋谷のハロウィンのよう状況だったそうだ。

「とりあえず盛り上がってるから来たという人も多かった。ネタみたいなことなんでしょうね。行っただけで印になるみたいな。もちろんほんとにアートが好きな人も来ていますし、なかにはレセプションで見た絵を複製して偽物とすり替えよう、とか考えていた人もいたらしくて。ほんとはそういうのがあったらよりおもしろかったのかなとは思います」(長谷川さん)。

ちなみに参加アーティストは、伊藤ガビン、エキソニモ、加賀美財団コレクション、五味彬、中村譲二、平野正子(skydiving magazine)、村田実莉(skydiving magazine)、やんツー、Merge Majordan、Naoki “SAND” Yamamotoの10名(すべて敬称略)。若い人とキャリアの長い人のバランスをとりつつ、企画の段階でおもしろがってくれそうな人に声をかけたほか、なかにはチラシを見てやりたいと言ってくれた人もいた。有名無名よりも活動の内容が展覧会にマッチしているかを重視したという。

レセプションパーティー開始前、すべての作品が揃った写真はいまとなっては貴重。

メルカリにあふれた「盗めるアート展」のタグ

当日のたいへんな騒ぎもさることながら、展覧会終了直後に“盗まれた”作品の多くがフリマアプリの「メルカリ」に出品されたことを含めて完結したといえるかもしれない。たとえば加賀美さんのコピー用紙の作品をさらにコピーしたものには1枚3,000円、村田実莉さんのクレジットカードを模した作品には1万円ほどの値が付いた。またそれだけでなく、本展に関係ないのに売っている絵にタグをつける人、「盗めるアート展のことを考えながら描いた絵」を制作する人、そして、「盗めるアート展を盗みました」というようなコンセプトで多くの絵を出品する人などが現れた。もちろん長谷川さんも展示品が転売されることは想定していたというが、タグのように付加価値として広まるとは思ってもみなかったという。

「アート作品の価値って相対的。実際にメルカリとかで適正価格がついていく感じはおもしろかったですね。バカ高くしても売れないから、売りたい人はだんだん値段落とすし。もともとアートの価値って何だろうということをずっと考えているんですが、こんな風な広がり方をするんだっていうことは、やってみなきゃわからなかったですね。座って考えてるだけじゃ。」(長谷川さん)。

そんな光景を目の当たりにした長谷川さんは、メルカリに本展のタグがついた出品物を買い占めることにしたという。購入したものはまるで鑑識のように、証拠品を入れるジップロックのような袋に1点ずつ保存。将来的にはそれをそのまま「盗めるアート展の周辺展」のような形で展示することも考えているそうだ。

盗まれる前の村田さんの作品。

盗まれる前の加賀美さんの作品。

逆転の発想から始動きした「same gallery」アイデアはデザイン集団Tomatoの唯一の日本人メンバーならでは?

実は長谷川さんは、Underworldなどが所属することでも知られているイギリスのデザイン集団Tomato(トマト)に所属する唯一の日本人メンバー。高校卒業後RCA(ロイヤルカレッジオブアート)に留学し、卒業後はいったん帰国してSONYに所属。3年後にロンドンに戻ってTomatoとして10年ほど活動した後ふたたび東京に戻り、Widen+Kennedyのクリエイティブディレクターとして活躍したという経歴の持ち主だ。

オーナーの長谷川さん。

「same gallery」をオープンしたのは、長谷川さんがWiden+Kennedy時代に知り合った写真家の嶌村吉祥丸さんと、仕事場兼ギャラリーにできるような場所を一緒に借りたいねと話していたのがきっかけだったそうだ。2019年の末に物件が決まり、改装作業を経て2020年3月7日にオープン。そのオープニングイベントは、初日限りの「bring your own art party」。来場者が各自所持しているアート作品を会場に持っていき、壁に飾り、その作品についてほかの来場者と話をするという、これまた非常にユニークな企画で、延べ100名ほどが来場した。

「もっとアートとのいろんな付き合い方があってもいいよね、というか、もっとアートを見せ合う場があってもいいんじゃないかって。アート作品を買ってもかける壁がなくて仕舞ったままの人とか多いと思うんですよ。だからみんなで「こういうの持ってる!」みたいなのを、遊戯王カードみたいに持ち歩いてバトルとかできたらおもしろいんじゃないかなと」(長谷川さん)。

なんとこの企画、オープニングイベントはやりたいが飾るものがないという問題から構想されたもの。そして「盗めるアート展」もまた、ギャラリーを常に開けておくことによる人的コストを節約するにはどうするかという問題が構想のヒントになったという。

「盗めるアート展」当日、ギャラリーに設置されていた監視カメラ。

また、ギャラリーを荏原に構えたのは、渋谷や青山のような一等地を選んでしまうと、高い家賃を払ってギャラリーを回すという経済活動の側面がより強くなり、自由度がなくなってしまうのを避けるためだそう。経済的な側面をいちど取っ払い、何か実験的なことができる場にしたかったのだという。

「やっぱり経済の要素が強まると競争になってくる。競争が強まれば強まるほどいいものができるというアプローチではない場所で、なんかおもしろいアイディアや現象が出てくるのではないかと思ったので、なるべく経済的には自立した場所でやりたかったんです。最近アートとビジネスを結びつけるみたいな動きが高まっていますけど、その真逆のアプローチがしたかった。新自由主義みたいな風に競争で買ったもん勝ち、やったもん勝ち、みたいなことだけになると、文化的には脆弱になっちゃう。談志の「文明には文化を守る義務がある」という言葉がぼくの永遠のテーマで、そういうことを考えながらやっています」(長谷川さん)。

イメージはウォーホルの“ファクトリー”、実際は “駄菓子屋とギャラリーの間”のような存在?

ギャラリーは嶌村さんの撮影スタジオとして使われることもあれば、動画の編集作業などを行う作業部屋的な使われ方も。ほかにもクローズドなトークイベントの開催など、ギャラリーというだけでなく、さまざまなことができる場という性格が強い。そんなスタンスを“駄菓子屋とギャラリーの中間”だと話す長谷川さん。王道の現代美術に乗り込みたい、ということでもなく、毎日の生活になじむアートを、ということでもなく、「こういうことをやってみたい」と思いついたら軽やかに実行できるような場所を持っていたかったのだと話す。

イメージはウォーホルがやっていた“ファクトリー”だそう。ちなみに旧tomatoのソーホーのスタジオも似たような雰囲気があり、1階がギャラリーで、2~4階が仕事場。いちばん上の階の奥の方にはUnderworldの部屋があったそうだ。長谷川さんと嶌村さんを中心としてギャラリーに集まるのも、さまざまなジャンルで活躍するアーティストたちだ。世代的にも長谷川さんと嶌村さんを両端に、その間にいろんな世代。それぞれの微妙に異なる問題意識や思考を活かして、ひとつのギャラリーの中に複数のチャンネルがあるというのが理想だという。

「特にアート界のこれをどうこうしたいみたいな考えはないんです。美術に興味がある人だけでなく、いろんな人がアートからの問題提起についてもっと考えたり興味を持ったりする仕掛けというか、そういうことをやっていきたいですね。そういう志向のプロセスって、自分の生活の価値観とかに下りてくることだと思うので。人の役に立とうなんて思っていませんが、結果そうなれば嬉しいですね」(長谷川さん)。

ギャラリーの上の階で動画の編集作業などが行われているそう。

ギャラリーでは今後も似たようなスタンスで、継続的にさまざまな展示の開催を予定。ちなみに2020年10月15日~25日には、「for animals, by humans」という展示を開催。嶌村さんのほか、ファッションブランドyushokobayashiのデザイナー小林裕翔さんなども参加した展示で、売り上げの全額を動物愛護団体に寄付するというものだった。また直近の12月11日〜20日には、2020年5月に立ち上がったオンライン上のデータ書店「TRANS BOOKS DOWNLOADs」がリアル店舗を期間限定でオープン。紙に出力されたテキストや写真のデータを会場にて展示した。

TRANS BOOKSの萩原俊矢さん。長谷川さんとはロンドン時代からの知り合いだという。

2021年はコロナ禍で溜まった“クリエイティブ怨”がパーッと弾けるような企画を!

「年末にかけて新型コロナの状況が、また悪化してきました。ギャラリーのように、場をメインでやっている所はどこも苦しいことと思います。そんな中でも、知恵とアイディアを振り絞って、いろいろなおもしろい試みをいろいろなな人がやっているのを見ると、人間ってすごいなと思いました。いろんなものが無理やりオンラインにならざるを得ない状況で、改めて感じるリアルの情報量の密度とか、デジタルの質感とか、普段感じないようなことを感じることができた1年でした。そんなコロナ禍の中での自粛やステイホームで、たくさんの人の、クリエイティブ怨が溜まってきていると思うのでそれがパーッと弾けるような企画をsame galleryでもやっていきたいと思いますし、早くこんなことを言っていてもいい状況になって欲しいです」(長谷川さん)。

【取材・文:大西智裕(『ACROSS』編集部)】

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