ZOZOの中国現地法人の厳盛日CEO
ZOZOが2019年12月にサービスインした「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」の中国版ZOZOTOWN「ZOZO」が、中国市場で攻勢をかけている。「ZOZO」は、日本版に出店するブランドの中国市場の開拓をサポートする越境ECで、サービスインからわずか1年ほどで出店ショップ数はすでに300を超えている。ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、越境ECを利用した貿易額は2035年には中国の貿易全体の5割を占めると予測しており、コロナ禍でインバウンド需要が見込めなくなった日本のアパレル企業が「ZOZO」に期待を寄せている。一方で、2019年に「アマゾン(amazon)」が中国市場からの撤退を表明するなど、生き馬の目を抜くかのような市場でもある。
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その中国市場で陣頭指揮を執るのがZOZOの中国現地法人である上海走走信息科技公司(Shanghai ZOZO Co., Ltd.)の厳盛日(げんせいにち)CEOだ。「ZOZO」の強みは、物流や電子決済システム、カスタマーサポートなど、全てのインフラが整っていることだ。さらに、KOLやKOCとのネットワークを強化し、日本のファッション文化を積極的に中国で発信している。「中国市場には大きな可能性があります」と厳氏は語る。日本のファッションECの先駆者である「ゾゾタウン」が、中国でどのような成長を描いているのか、その戦略や展望について厳氏とブランドEC事業本部中国推進ブロック ブロック長の後藤諒平氏に話を聞いた。
「ZOZO」は日本のファッション文化を楽しんでもらうための存在でありたい
SEVENTIE TWO(以下、SVT):2019年に中国に再進出しました。中国市場の可能性をどのように捉えていましたか。厳盛日(以下、厳):ZOZOが中国に初めて進出したのは2011年ですが、2013年に一度撤退しており、今回は再進出になります。再進出にあたって決定的な違いは市場の変化でした。日本市場はこの10年間、規模や動向にさほど変化はありませんでしたが、中国は逆で市場が大きく変化しました。2018年に行った事前調査では、20~30代の中国人の消費力がはっきりと伸びていることがわかり、特に消費者ニーズが拡大しました。中国政府が越境ECに対する優遇政策を実施した時でもありましたので、こうしたことをトータルに考えて今が再進出するチャンスだと思いました。
確かに、初めて「ゾゾタウン」を中国で展開した時は、未熟な部分が多かったことは事実です。今回の再進出にあたっては、まず「ZOZO」のインフラを拡充させる努力をしました。アプリのUIやUXだけではなく、物流や決済システム、カスタマーサポートや商品の追跡など、ほぼエラーゼロのレベルにまで整備することができました。現在は約50名のチーム体制で運営しており、広大な中国市場でも注文から1週間以内に商品が到着します。
SVT:日本のブランドにとっても勝機はありますか。厳:中国市場は、日本から見て100パーセント理解するのは難しい市場だと思っています。僕は中国人ですが、それでも中国の市場を把握するのは難しい。ですから、机上の議論ではなく小まめにいろいろ試しながら、ユーザーと一体感を持ちながら進めるスピード感がとても重要だと思います。ブランド側と「ZOZO」が一緒にそういう感度で進めれば、日本のブランドは中国で大きな力を発揮できると思っています。
ZOZOには、日本のブランドと一緒に日本のファッションを盛り上げていくというミッションがあります。今回の再進出では「ZOZO」を打ち出すのではなく、日本のブランドやファッション文化を打ち出しています。「ZOZO」というプラットフォームをきっかけに、日本のブランドが中国市場で大きく成長することは僕らとしては願ったり叶ったりです。
後藤諒平(以下、後藤):日本のブランドへの新型コロウイルス感染症による打撃は非常に大きいです。インバウンド需要がなくなったことも影響しています。「ZOZO」は今だからこそ、日本のブランドと一緒に日本のファッション業界を盛り上げていきたいと思っています。世界が落ち着きを取り戻した時、「ZOZO」が日本のファッション文化を楽しんでもらうための火種のような存在になっていたいと思っています。
“ファッションを楽しむ場”を提供することで、中国市場で独自性を発揮していく
SVT:「ゾゾタウン」はファッションECの先駆者ではありますが、中国にはすでに「Tモール(天猫)」や「タオバオ(淘宝)」といった巨大なECプラットフォームが存在しています。そういったなかでどのような独自性を打ち出していきますか。厳:中国EC市場はレッドオーシャンだと言う方も多いですが、私はそうは思いません。そもそも「Tモール」や「タオバオ」「ジンドン(京東)」は単なるECプラットフォームとは異なり、ひとつの社会のような存在だと思っています。そういった巨大なプラットフォームには当然、あらゆる商品が揃っていますが、中国人の消費力とファッション感度が上がるにつれて、より領域を絞ったECへのニーズが高まっています。
例えば、ストリート系ファッションを取り扱う「ポイズン(得物、旧名は毒)」やファッション好きな10代向けの「モグ(蘑菇街)」が急成長しています。一方、「ZOZO」は単に中国でものを売っているのではなく、ファッションを楽しむ場を提供する“ファッションメディアEC”です。そういった意味で確立されているモールは今のところありません。こうした独自性を発揮していることが中国市場での成長に繋がっていると思います。
SVT:2019年12月のローンチ時は177ショップが出店しました。現在はどれくらいでしょうか。後藤:現在は300を超えるショップが出店しています。「ZOZO」に大きなポテンシャルを感じていただいているようです。別注商品の展開やクーポンの実施など、さまざまな施策をご一緒しています。日本のブランドにとって「ZOZO」に出店する最大のメリットは、中国市場への参入障壁の低さです。中国でのマーケティングやリサーチ、電子決済、物流含めすべてを単独で行うことはハードルが非常に高いです。「ZOZO」は、こういったことの全てをカバーしています。
SVT:中国という非常に複雑な市場に日本のブランドが単独で参入するのはとてもリスキーですが、「ZOZO」と連携することで負担軽減やリスク回避になるわけですね。厳:中国市場に興味はあっても参入には不安があるというのが、みなさんの共通認識ではないでしょうか。「ZOZO」には、中国での配送や通関登録など一連のフルフィルメント業務が全て整っています。カスタマーサポート業務も完備していますから、ブランド側がやる必要はありません。さらに、日本には物流センター「ゾゾベース(ZOZOBASE)」があるため在庫リスクもありません。ほとんどリスクなしに中国に進出できるわけです。私たちは、ブランド側の不安を取り除くためにインフラを整備してきましたし、ブランド側はなんの心配もなく中国進出に取り組んでいただけます。
後藤:例えばですが、日本のブランドが中国で商標取得に関してコストと時間をかけて調査を行うことは難しいところがあります。中国では先取制のため、商標をすでに取得されていたら取り返すことは非常に難しく、労力もかかります。こうしたことから、今後取り組んでいきたいサポートのひとつとして商標取得関連のものも検討していきたいと思っており、中国におけるブランド認知度の向上に貢献したいと思っています。
SVT:ソフト面でのソリューションについてはいかがでしょうか。厳:変化が早い中国市場で、トレンドをいち早くキャッチし、フィードバックしていくことも「ZOZO」の役割です。SNSでの仕掛けなどは、「ZOZO」が先頭に立ってやりますが、ブランド認知を上げるための施策や必要なコンテンツのアドバイスは、日本の後藤チームと連携しながらフィードバックしています。また、KOLやKOCとのネットワークや各プラットフォーマーとの連携を強化しており、ブランドの魅力をより中国的に中国人ユーザーに伝えることが徐々にできてきていると思います。長期的視点に立って、落ち着いて中国人に受け入れてもらえる環境を作る意味でもメリットを提供できると思います。
SVT:日本ではコスメ専門モール「ゾゾコスメ」を3月18日にローンチしました。「ZOZO」で化粧品を取り扱う予定はありますか。厳:まだ明確に決まってはいませんが、今後検討していく可能性はあります。中国独自の薬事法など、考慮するポイントが結構多いので、手法も含めてかなり時間をかけて検討しないといけないことがあります。
ZOZOが考える中国で通用するブランドとは?世界に通用するグローバルブランドとは?
SVT:日本のブランドに対する中国人の意識や興味についてはどのように捉えていますか。厳:「ZOZO」には、「ビームス(BEAMS)」や「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」「ソフ(SOPH.)」といったブランドに詳しいユーザーがいて、SNSで着こなし方などを投稿しています。ただ、一般的には日本のブランドに対する認知はそれほどないと思います。特定のブランドではなく、日本のブランドがおしゃれであるとか、着心地がいいといったざっくりとした印象を持っている程度です。ですから、「ZOZO」としてはブランド1社の戦いではなく、日本のファッション文化を携えて一緒に戦うべきだという考えをもっています。
SVT:中国で通用するブランドについてはどのように捉えていますか。厳:まず、商品や品質が良いのは当然ですが、ターゲティングがどこまで正確かがすごく重要だと思います。日本のブランドが中国に進出する場合、1級都市、2級都市の20~30代をターゲットとしてまず設定すると思います。しかし、彼らのライフスタイルをどこまで把握しているのか、例えば彼らがどういう携帯電話を使っていて、どういうタイミングでファッション情報を入手しているか、そういったことまで理解する必要があります。その上で、彼らのなかで議論になるような仕掛けができるかどうかが大事です。そういったことを理解して、そこで初めてKOLやKOCの使い方の議論になるべきです。その分析や戦略がないまま先行してKOLや広告に予算を投下してもなんの効果も得られないのは当然です。
SVT:では、世界に通用するブランドの定義はどのように考えていますか。また、「ゾゾタウン」がグローバルブランドになるためにはなにが必要でしょうか。厳:すごく難しい質問ですね(笑)。変わらないなにかが明確にあって、変わる時代や場所に合わせてコミュニケーションが取れるブランドが世界に通用するのではないかと思います。ZOZOで用いていた「Be Unique, Be Equal.」というメッセージは、国や場所によって伝え方が違ってきます。「ZOZO」の場合で言うと、この「Be Unique, Be Equal.」というメッセージを伝えることができればグローバルブランドになれるのではないかと思います。
日本のブランドと一緒に日本のファッション文化を盛り上げていきたい
SVT:コロナ禍を経て中国のファッション業界にはどのような変化がありましたか。厳:日本ではリアル店舗が影響を受けて、人の流れがECに移るなど動向に変化がありました。しかし、実は中国は一時的な影響しかありませんでした。中国は昨年6月ごろから普段通りの生活に戻っています。これは肌感覚ですが、コロナ前と比較して、上海などではリアル店舗が活性化している気もします。若者の間で、実際に店舗に行って買い物の過程を楽しむことがトレンドの流れとしてあるようです。上海は駅がたくさん増設され、それに合わせて駅ビルも建設されました。そうした駅ビルにファッション系のショップが次々出店していて、そうしたこともコロナ後の中国市場の特徴だと思います。
SVT:中国人の興味がドメスティックブランドに移っているようなこともありますか。厳:確かにそういった状況はあります。コロナの影響で日本への旅行ができないため、自然とドメスティックブランドに流れていった感じです。ですから、ユーザー本位で興味が移行しているわけではありません。ただ、僕としては、日本ブランドへの興味がなくなったのではなく、そもそもドメスティックブランドなのか、日本のブランドなのかを気にしてないユーザーたちが多くいると考えています。ドメスティックブランドのものづくりは世界レベルに追いついていますから、センスやデザイン、理念が面白くなっていけば、それこそ本当に日本ブランドも中国ブランドも、あんまり関係なくなるのではないでしょうか。
SVT:ZOZOは中国人スタッフの離職率がとても低いようです。厳:中国にオフィスを立ち上げからこの2年間で辞めたメンバーはほぼいません。ZOZOに共感してくれているからだと思います。いわゆる「社員研修」みたいなものは特にやっていません。ZOZO社の昔からの企業文化として、“楽しく働く”という考えがあります。僕もZOZOに入社する際にいいなと思いましたし、実際にZOZO社はスタッフが楽しみながら創ったサービスの数々で業績を伸ばしてきました。そのことを定期的にいろいろな場で共有しています。細やかなコミュニケーションは重視していますが、コントロールはなるべく減らして現場に任せます。楽しく働くということを実感してもらいたいので、上司から言われたからやるという状況はなるべくなくす努力をしています。
SVT:中国市場で戦っていくためのインフラ、戦略、そして人材が揃っているわけですね。厳:仰る通りです。とはいえ、日本のブランドの協力なしでは「ZOZO」はなにもできません。中国市場の可能性は非常に大きいと僕は思っています。日本のブランドと一緒に日本のファッション文化を盛り上げていきたい気持ちがとても強く、この思いをぜひ多くの方と共有できればと思っています。
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