128年の伝統を誇る、創業1893年のドイツの高級ジュエリーマニュファクトリー、ウェレンドルフ。最高級の素材を使った、熟練のゴールドスミス(金職人)が生み出す芸術性の高いジュエリーは、知る人ぞ知る存在です。去る2月15日にウェレンドルフ・ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任したばかりの蓮田玉緒さんに、早速キャリアインタビューを行いました。外資ラグジュアリーブランドの業界歴26年の蓮田さんが、4代続くファミリービジネスを貫くドイツの老舗ジュエラーを選んだ入社理由や、現当主のクリストフ・ウェレンドルフ社長とのハートウォーミングな交流など、ブランドの魅力を紐解きながら、蓮田さんが目指す今後のビジョンを伺いました。
蓮田 玉緒(はすだ たまお)さん
ウェレンドルフ・ジャパン株式会社 代表取締役社長
複数の世界的なファッションブランドで、ストアディレクター、ディストリクトマネージャー、リテールディレクターを歴任し、延べ1万人以上のスタッフとの関わり合いや各部署との横断的マネジメントを経験。また、グローバルな経営企画にも携わり、多くのプロジェクトを成功に導く。26年以上にわたるラグジュアリー業界でのキャリアを生かし、ウェレンドルフ・ジャパンのさらなる発展を目指す。
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-ウェレンドルフ・ジャパンの社長に就任されて2週間(取材時)。まずは、これまでのご自身のキャリアについて教えてください。
ウェレンドルフに入る前は、ラグジュアリーのファッション業界に26年間おりました。最初のイタリアブランドではファッションの基本を学び、その後に入社したフランスブランドでは19年間、大規模なブランドビジネスを学びました。今回、ウェレンドルフとご縁があり入社に至りましたが、オーナーファミリーと共にこのブランドを大切に育てていきたいと考えています。
-これまで蓮田さんが関わってきたブランドとは取扱商品や環境に大きな差がありますが、ウェレンドルフ入社の決め手は何だったのでしょうか?
ウェレンドルフが掲げる等身大の理念や、ブランドを大切にする愛情に溢れる姿勢に共感しました。それらは、逆を言えばビッグブランドではなかなか実現の難しいものです。ブランドを一緒に守っていくという想いを共有して、ウェレンドルフ・ジャパンでリーダーシップを発揮していきたいと思いました。入社が決定した時に、当主のクリストフから「Welcome to Wellendorff family(ウェレンドルフ・ファミリーへようこそ)」という温かい言葉を贈ってもらい、私もファミリーの一員となったと実感できました。
-「ウェレンドルフ・ファミリーにようこそ」という言葉に込められた意味は何だと思いますか?
ウェレンドルフが目指すのは、素材の価値を遥かに超えた100年以上の伝統を呼び起こす「真の価値」をもつジュエリーです。その価値とは、熟練職人の崇高な手仕事、格別の着け心地のよさ、人生に歓びをもたらす美しい輝き…などを指し、それらを体現してきました。「ウェレンドルフ・ファミリーへようこそ」という言葉は、4代続くファミリーが1世紀以上にわたって大切にしてきた「真の価値」やヘリテージに共感して共に歩みましょう、という意味だと私なりに解釈しました。そしてクリストフが、スタッフも自分たちの大切なファミリーと捉えているからこそ、出てきた言葉だと感じました。
-ウェレンドルフのファミリービジネスの魅力はどこにあるのでしょうか?
創業者から4代目となる現在は、兄のクリストフが経営に、弟のゲオルクがもの作りの現場に携わっています。今も一緒に出社して帰宅するほどで、行き帰りに共に歩く30分がふたりにとってベストなコミュニケーションの時間だと口を揃えます。クリストフは、愛のある物語からジュエリーを発想するクリエイティビティの持ち主で、そのアイディアや想いを職人肌のゲオルクが受け継いで、実際にジュエリーとして形にしていくという流れがあります。ウェレンドルフのモットーは「FROM LOVE. THE BEST.」日本語では「愛を込めて最高のジュエリーを作り上げる」という意味になります。家族だからこそ成しえる揺るぎないコンビネーションを始め、家族の生活がチームスピリットと密接な関係にあって、理想的なチームワークが機能しています。これこそが、ウェレンドルフの原点だと感じています。
-蓮田さんの入社の際の企業研修を、クリストフ社長自らが担当されたそうですね。
コロナ禍入社のためドイツに行くことが叶わなかったのですが、オンラインでの研修が行われました。まず始めに、ウェレンドルフの本社に併設されるミュージアムで、クリストフ自らが案内する形で、ブランドの歴史をひとつひとつ丁寧に説明してくれました。また、ウェレンドルフのガイドラインとも言うべき「真の価値」を、問答式の対話を通して伝えてくれました。トレーニングを受けた後に自分の中で反芻して浮かんだのが「真善美」という言葉でした。ウェレンドルフの究極的な価値観とまさに重なり合うものです。「真」という偽りのなさ、「善」という道徳的な正しさ、そして「美」。職人が最高の素材を用いて作り出すジュエリーの芸術性はもちろんのこと、ウェレンドルフには、共に働くチームメンバーとの絆の美しさもあると感じています。
-ほかのジュエラーでは聞かない、ウェレンドルフ独自の「生涯保証」というサービスについて教えてください。
ウェレンドルフのジュエリーご購入時に付帯されるサービスで、ジュエリーに入った「W」の刻印は、その証です。世界中の直営店で無償で修理、またサイズ直しにも対応します。フルエタニティでもサイズ直しは可能ですし、場合によってはまったく新しいものに作り変えてしまうほどの調整になることもありますが、お客様にご了承いただいたうえで、対応させていただきます。高い技術力から生まれる自信とプライドが成しえる、お客様とウェレンドルフの信頼を表したサービスといえます。先代、先々代の時代に購入されたウェレンドルフのジュエリーも保証されます。ご自身のジュエリーをお嬢さま、お孫さまへと世代を超えて最高の状態で受け継いでいただくことができます。愛を込めて作り出したジュエリーを受け取ってくださったお客さまもまた、ウェレンドルフのファミリーとなっていただきたいという気持ちの表れです。
-ウェレンドルフのジュエリーは、身につける人の一部となるようなパーソナルなものだと感じました。
本当にそのとおりでして、なので、コンペティターは多くありますけれども、単純な比較は難しいかもしれません。それこそが、他社との決定的な違いであり、ウェレンドルフの真の価値でもあるからです。
ウェレンドルフのジュエリーを知る方は、「着けていないみたい」と口を揃えておっしゃってくださいます。メインの素材は18金のゴールドですが、特殊な技術で、非常にしなやかな着け心地のジュエリーに仕上げています。たとえば、この『EMBRACE ME(エンブレイス ミー)』は新作のブレスレットなのですが、ウェレンドルフが17年もの歳月をかけて開発した「伸縮性のあるゴールド」を使っていて、通常の18金ゴールドと比較して倍の柔軟性を誇ります。名前の示すとおり、抱きしめられるような着け心地のしなやかなブレスレットです。ドイツ・プフォルツハイムにあるウェレンドルフのマニュファクトリーには熟練のゴールドスミス(金職人)がおよそ70名いますが、この『エンブレイス ミー』の1日の生産数は約35個。このように製作に時間を要するジュエリーばかりなので、ウェレンドルフでは受注生産が基本です。出来上がりまでに平均して2〜3か月のお時間を頂戴してお作りしています。
-ファッション/ジュエリー業界の他社とウェレンドルフの違いは、ほかにもありますか?
ウェレンドルフ・ジャパンに入社して今までの会社とは明らかに違うと感じたことのひとつに、本社との近い距離感というものがあります。まだまだ小さなブランドだということも、もちろんありますけれども、オーナーのクリストフ・ウェレンドルフとの距離が非常に近く、密接にコミュニケーションをとれる環境が整っています。週に1回、オフィスメンバーと共に、各店のスタッフも代表がひとりずつ出席する本社とジャパンチームのミーティングがありまして、そもそも、このこと自体も珍しいのですが、本国の社長が日本のブティックスタッフの名前をすべて知っているという(笑) また、スタッフ全員がお客さまとの出会いに関するドキュメントを毎日ドイツに送っていて、クリストフを始め、私自身もどのようなお客さまが店舗にいらっしゃって、どのような会話をしたのかを知ることができます。
ウェレンドルフは日本だけではなく世界各国で展開していますが、クリストフは毎週、全店のお客様の動向を把握しています。本国のオーナー社長とダイレクトにコミュニケーションが取れるとことに感激しているお店のスタッフも少なくありません。私自身、前職、前々職と外資のラグジュアリーブランドにおりましたが、そこではまったく考えにくかった環境がウェレンドルフにはあります。
-従業員と本社の距離感の近さに加えて、日本のお客さまと本社の距離感においても、他社にはない親密さがありますか?
現在はコロナ禍で叶いませんが、それまではクリストフが来日するたびにイベントを実施して、自らお客さまひとりひとりにご挨拶して、接客も行うほどだと聞いています。また、クリストフの手書きのシーズナルレターをお客さまに直接送らせていただくこともあります。本社の社長が誰よりも細やかな配慮を率先して行っていることも、ファミリービジネスが続いている理由だと感じています。
-入社時、ウェレンドルフ・ジャパンのメンバーにはどのような就任メッセージを伝えましたか?
まず、このコロナ禍の時代に、皆さんと歩みを共にすることには大きな意味があると感じていると伝えました。昨年1年間で様々な価値感が激変し、自分にとって一番大切なモノやコトは何なのかと誰もが考えさせられました。生き方を問われる時代に求められるのは、ウェレンドルフのジュエリーのような、研ぎ澄まされた本物であること、そしてウェレンドルフの接客は、究極のコト体験の提供になり得るということも。ジュエリーと体験価値を共に最高のものとしてお届けすることこそ、お客さまのウェレンドルフとの旅を更に快適で魅力的にすることであり、これから私たちがチャレンジしていきたいミッションであると伝えました。
-最後に、社長就任の抱負をお聞かせください。
ウェレンドルフの真の価値をより多くの方々に知っていただきたいです。ウェレンドルフは、お客様自身が幸せ、成功、愛を感じるその瞬間に彩りを添えるために、128年間、最高のジュエリーを創り続けているブランドです。ただ、闇雲に店舗を増やして売り上げを拡大していくというのは私たちの手法ではありません。やはりウェレンドルフのジュエリーは“わかる方にはわかる”ではないですけれども、私たち自身も非常に大切にしているものなので、量産は決してしない考えは不変です。
社会に出たときからずっとブランド運営に携わってきましたが、毎年、常にやらなければならなかったことは事業の拡大と売上の拡張でした。ビジネスである以上、これらが重要な使命であることは変わりませんが、同時にビジネスの原点に立ち返って、ブランドを大事に育てること、じっくりとお客さまに向き合うことを、ウェレンドルフでは重きをおいて丁寧に取り組んでいきたいと考えています。
Text: Hatsuki Shimomura
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