あらゆる産業界がSDGs(持続可能な開発目標)に向かって本格的に動き出している。繊維・ファッション業界も国・地域によってスピード感に差はあるものの経営の大きな方向性はサステイナビリティー(持続可能性)の追求だ。その経営姿勢や、具体的な取り組みの進捗(しんちょく)、成果を社会に対して明確に示すためにもトレーサビリティー(履歴管理)の必要性がこれまで以上に高まっている。
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〝必要コスト〟へ
SDGsは事業活動と直結している。そのため、遅かれ早かれサステイナビリティーを証明することはビジネス上の必要条件になりつつあるのではないだろうか。「欧米のアパレルブランドや小売業との取引では、自然環境や労働者に配慮して作られた素材、製品が当たり前のように求められる」(素材メーカーや商社)傾向が強い。
その素材、製品が本当に自然環境、労働者に配慮されて作られた物なのか証明することも求められる。証明する手段の一つとして様々な国際認証が存在するが、こうした認証を得て、さらにその認証資格を更新していくにはコストがかかる。アパレル市況が低調に推移する日本では、そのコストを前に二の足を踏む企業が多数を占める。一方、〝必要コスト〟と捉えて取得に動く企業も増えてきた。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の広がりからもわかるように、トレーサビリティーを明確に示すことが事業活動のサステイナビリティーを証明することになる。それが企業価値になり、ステークホルダーとの関係性に強く影響されるようになってきたからだろう。
例えば、繊維製品の環境認証「ブルーサイン」を取得する動きは昨今、日本の素材メーカー、商社でも見られる。日本企業とはいえ、欧米企業などを相手にグローバルな事業活動を行う川上企業にとってはサステイナビリティーであることの証明が取引における重要な項目になっているためだ。
そのほか、取得件数が急増している認証の一つに「メイド・イン・グリーン」がある。繊維製品の安全性を証明する国際規格「エコテックス」のトレーサビリティーを証明する同規格の最高峰ラベル。19年7月~20年6月の取得件数は世界で2808件。前年同期比2.2倍。日本ではミドリ安全のユニフォームが初の事例。このほど、青山商事もビジネスシャツ(3900円)で取得し、販売を始めた。このように、日本国内での事業活動が中心のアパレルメーカーや小売業者でもトレーサビリティーまで示すことができる物作りに踏み込み始めている。
メーカーの特権
「私たちは物の差別化ではなく、物の作り方、トレーサビリティーで差別化し、SDGsに対応する」というのはシキボウの清原幹夫社長。「安心・安全な原料の使用と生産工程を経て生地を作ったことを証明できるのは我々メーカーの特権。それが価値になり、ビジネスチャンスになる」と強調する。
衣類用繊維の約3割を占めるといわれる綿のトレーサビリティーに関心を持つ企業も増えそうな出来事が話題になっている。主要な超長綿の一つ、新疆綿が新疆ウイグル自治区の人権問題を背景に敬遠されるようになっているほか、昨秋にオーガニックコットンの主要産地であるインドでオーガニックコットン認証詐称が発覚した問題で、綿のトレーサビリティーへの関心が一層高まると考えられる。
国内企業では例えば、主要な綿紡績の企業が重点商材として扱う米綿「コットンUSA」は、持続可能な栽培によって作られる綿花と言われている。これまではそのサステイナビリティーを証明する基準がなく、第三者によるデータ検証を実施されてこなかったが、米綿業界は昨年、米綿のサステイナビリティーを実証するプログラム「U.S.コットン・トラスト・プロトコル」を策定。トレーサビリティーによって価値を証明しようと動いている。豊島はトレーサビリティーができるオーガニックコットン「トゥルーコットン」の訴求に力を入れるなど、商社も信頼できる調達先の開拓、取り組みを強化する動きが目立ってきた。
グローバルSPA(製造小売業)などを除けば、トレーサビリティーに対価を支払う動きはほんの一部だろう。とはいえ、「SDGs」が学校教育の場やマスメディアを通じ、消費者レベルまで、世代を問わず啓蒙(けいもう)しようという流れが鮮明になっていることから、大きな潮流になっていくことは間違いないはず。環境や社会に配慮した物作りをどこまで追求するか。それは各社の企業理念や経営の状況によるだろうが、自分たちが売っている物の正体、そのサプライチェーンの実態は作り手、売り手として把握しておくことが最低限必要な時代になってきたのだろう。
小堀真嗣=本社編集部素材・商社担当
(繊研新聞本紙21年3月29日付)
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