ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今回はユナイテッドアローズの藤原義昭氏が登場。新卒で入社したコメ兵でEC事業の立ち上げに関わり、その後、デジタルマーケティング、情報システム部門を合わせた部署のマネージャーとして活躍した。2021年からは日本のセレクトショップのリーティングカンパニーであるユナイテッドアローズで、CDO(最高デジタル責任者)として同社のDXを推進している。今回はブランドコンサルティング企業 H-7 HOUSE(エイチセブンハウス)の代表である堀 弘人氏が、アパレル業界のDX化に必要なことについて、藤原さんのこれまでの経験を伺いながら、深堀りしていく。
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藤原 義昭さん/株式会社ユナイテッドアローズ/執行役員
愛知県名古屋市生まれ。1999年にコメ兵へ入社。同社でEC(電子商取引)事業を立ち上げ、販売や物流、マーケティングの変革を牽引。2010年、新設されたWEB事業部(IT事業部の前身)の部長に就任し、ウェブ事業やデジタルマーケティング、社内システムを統括。2021年4月、ユナイテッドアローズの執行役員CDO DX推進センター担当本部長 兼 同デジタルマーケティング部 部長に就任。
堀 弘人さん/H-7HOUSE合同会社 CEO/ブランドコンサルタント。
米系広告代理店でキャリアをスタートさせ、アディダス、リーバイス、ナイキ、LVMHなど世界的に業界をリードする数々の外資系ブランドでマーケターとして要職で活躍したのちに、大手日系企業 楽天の国際部門にて戦略プロジェクトをプロジェクトリーダーとして率いてきた。2021年、自身の経験を国内外企業の活性に役立てたいとブランドコンサルティング会社H-7HOUSEを設立。メディアNESTBOWLのブランドディレクターも務めている。
「みんなと違うことをやりたい」小さな逆張りからキャリアをスタート
―まずは藤原さんのこれまでの経歴について、お伺いできますか?
学生の時からセレクトショップでずっとアルバイトをしていました。その時は、“洋服は趣味で、仕事にするものではないな”と感じていました。新卒では1999年にリユースの会社であるコメ兵に入社しましたが、最初に「みんなと違うことをやろう」と思ったんですね。つねに、小さな逆張りをするのが好きなので。
―小さな逆張りとは?
みんなと違うことをやって、目立ちたいという思いがあったんですけれど、大きな逆張りをボンとやるのは勇気がないので(笑)。実際にお店に出たのは、3か月でした。その頃、社内でECを始める話が出ていて。まだネット通販と言っていた時代だったんですけれど、上司が「パソコンに詳しい人がいたら教えてほしい」と言っていたので、“これはチャンスだ”と思ったんです。パソコンも持っていなかったんですけれど、「僕、できます」と手を上げたところ、「じゃあ、やってほしい」と言われて、帰りに24万円のパソコンを24回払いで買いました(笑)。
そこからすでにあった楽天市場に参入し、その後に自社ECを立ち上げるというプロジェクトを推進しました。かつ、私は宝石の部署にいたので、宝石のECを立ち上げたんです。もちろん自分ではコードも何も書けないので、ベンダーさんを探してきたのですが。それが入社2年目の時です。ECがバーッと伸びていき、さらに事業部がいくつかあったので、他の事業部も「ECをやりたい」という話になり、時計や着物といった7つの事業部のサイトを作り上げました。
そうこうしているうちに、次第に会社の中の広告宣伝もデジタル化をしていって。マーケティング全体を見ることになり、マーケティングの業界に入っていったんです。そうするとデジタルだけではなく、テレビCMや雑誌といったあたりまでトータルに任せてもらうようになって。世の中にある事例を勉強しながら自社に取り込んでいき、組織を大きくしていきました。
さらに2010年ごろから顧客データの重要性が語られるようになりました。Webマーケティングだけをやるのではなく、データ周りにもっと手をかけなくてはいけないと思い、情報システム部門も任せてもらうようになったんです。情報システム部門、EC、マーケティングの部門をすべて合体させて部署を作っていきました。
結局、今の会社でも同じことをやっています。コメ兵にいる時に、デジタルとIT、ECの三つを組み合わせると、ビジネスができるんだなというフォーマットのようなものが自分の中でできたので。ITというのは、情シスですね。基幹システムといったあたりも全部見ていて。キャリアの中で、それを経験したことは結構大きかったのかもしれないです。
―マーケティングはマーケティング、ITはIT、売上は営業のように区分して、それぞれの部門が主張をしがちなところを、10年前くらいから一気通貫して、1つに統合していかれたんですね。特にファッションやラグジュアリーの業界においては、今なおできていない企業が多いような気がしますが、そこにいち早く気づいたきっかけはありましたか?
気づいたというよりも、必要だと思われるパーツをかき集めていったら、そうなったんですよね。今、「こことここがコミュニケーションを取らない」みたいな話で困っている人がいっぱいいますが、それは裏返すと全部くっつけたらいいじゃないか、という話だと思うんです。会社の中の論理があるので、できない人も多いかもしれないですけど、重要なのは首尾一貫してやらなきゃいけない。なぜならお客様は一人なので、いろいろな方向からお客様にコミュニケーションをとってもダメだと思います。
―前職時代の10年前に、DX、オムニチャネル化を行って、今、2020年代で同じフレームワークを実行しようということなんですが、当時と比べて大きく変化したことは何でしょうか?
消費者の動向としては、スマホになったことが大きな変化です。オムニチャネルからOMOみたいな時代になってくる中で、どちらかというとお客様の方が半歩も一歩も先に進んでる状態を、企業は今、追いかけている状態でしょう。だけどお客様を追い越して、すごいテクノロジーをいきなり見せつけたところで、お客様はどうやって使ったらいいのか分からない。だからそれもダメだと思うんですよ。
また、圧倒的にテクノロジーが非常に安価になったこと。マーケティング系のシステムは、今、非常に安くて1/100くらいの金額です。だから比較的失敗はできると思っているんです。ダメだったらやめればいい。でもお店を1つ立てて、ダメだったら1か月後にやめます、はできないわけですよね。デジタル化することによって、失敗する速度がかなり早く安価にできるようになったと思うので、改善が早くできるようになったと思います。
Microsoftをすべて削除し、社内からブーイング。皆がハッピーになるために実行したこと
―失敗が生きるという考え方は、社会人ではなかなか持ちにくいですけれども、企業の役員クラスがそういうマインドセットを持っていると、おそらく社員の方々も動きやすくなっていったと思います。ご自身のチームに対しては、それを伝えてらっしゃいますか?
「失敗してもいいよ」とは言ってないですけど、どちらかというと任せる方が好きなので。そこにアサインされている人は、理由があるはずなんです。だったらその人がちゃんと働ける環境とか、働けるツールといったものをあげて、自由にやってもらった方が一番いい。でも、ものすごい大きな失敗をやってもらうと困るので、そこはマネジメントだと思います。そういった大小のマネジメントを、マネジメント層の人は行うべきでしょう。
―ご自身の大きな失敗は?
大きなギャンブルをしないようにしているので、大きな失敗をしたことはあまりないと思います。1か100か勝負に出ると、失敗した時に大きいじゃないですか。でも3とか5の失敗なら、それはチャレンジじゃないですか。だから失敗のうちに入らないと思っているんです。でも100の失敗は、チャレンジではありませんから。
―私は以前、自分の我流で会社を変えようとしてしまって、強い軋轢を生んだ経験があります。部下の方に任せるという発想は若い頃にはなくて、自分のやり方でやりたかったという思いだったので、藤原さんの考え方に感銘を受けました。
大きな手綱は持つけれど、細かにやると自分も疲れるし飽きてしまうので、それはやらないようにしています。どちらかというと、自分よりも上の人を変えていくことの方が良いと思います。でも“無理矢理やる”こともありますね。無理矢理やるというのは、「こうやってください」とお願いすることではなく、ある程度、外堀をハイスピードで埋めていくなど、方法はいろいろあると思うんです。たとえば、社員をそういう環境に置くというのも1つでしょう。
実は前職でエクセルを廃止した経験があります。もちろん法務や対外的に使う人たちには残したんですけど、Excelから全部クラウド化にして。Microsoftを全部削除したんですよ。中にはすごく複雑なマクロを組んでいる人もいて、反発も来ました。しかしとにかく一気にやらないと、ITはトランスフォーメーションしないので。それはやりましたね。
―それは全部ですか!?
そうです。並行稼働すると、どうしても変なルールができたりして、生産性が絶対に上がらないんです。
―反発があった場合、どう対処するのでしょうか?
意外と人間は考えるじゃないですか。そうすると前提条件を決められれば、その中で仕事をするはずだと思っているんです。前職でも、「うちの会社よりも規模が何百倍も大きな会社で、これしか使ってない。その会社の生産性が上がっているわけだから、うちが特別なんてことは、絶対にない。生産性が高いところに合わせよう」という話をしました。
アパレルはマーケティングができていない業界!?
―現在、ユナイテッドアローズで活躍されていらっしゃいますが、今の仕事に就いたきっかけは?
“ユナイテッドアローズに入りたい”と思ったのは、圧倒的な認知があったからです。前職で困ったのは、認知を上げなければならないミッションがあったので、一番お金がかかった。認知が資産の会社なんて、すごいじゃないですか。かつイメージもいいですし。
日本のアパレル企業は外資系と違って、マーケティングをほとんどやってないと思います。マーケティングという考え方とITやデジタルを入れることによって、復活させられるのではないか?と自分で勝手に仮説を立ててたんですよ。その中で認知が圧倒的にない会社でやると、そこにコストをかけなければいけないので、復活まで時間かかると思っているんです。そこを飛ばして先のことができる、と分かって選びました。
あとはセレクトショップ業界のリーディングカンパニーなので、ユナイテッドアローズ社でDXができなかったら、たぶん日本の会社でDXできる会社はないでしょう。業界のリーディングカンパニーはその業界を引っ張っていく責任もあると思っているので、それを果たせる会社だと思って入社しました。
ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店
―主にこれが外資と比べてできていない、と感じられることは何でしょう?
日本は“お客様のために”と言葉では言っていますが、行動が間違っている気がするんですね。“お客様のために”は横文字にするとマーケティングじゃないですか。要はマーケティングができていない業界だと思っていて。売上を見ていても、「カットソーが何枚売れました」とか「どこどこのお店は、これくらいの売上になりました」と言うんですけれど、「お客様がどれくらい増えました」という会話は、どこもほとんどやらないんです。「お客様が増えました」ということは、「何を売ったか」ではないんです。買っていただいたお客様が増えたということは、お客様に対して提供する価値が認められたということですよね。それをインストールしていくんです。
「自分たちのお客様は何人いますか?」と聞いて、答えられる人はあまりいないと思うんです。私は入社して半年間ぐらいリサーチを細かく行い、何人ぐらいのお客様がいて、何人ぐらいの方に認知いただいて、どれぐらい自分たちはリーチして、どれぐらい買っていただいて、年に何回ぐらい購入されているか?ということを、すべて調べたんです。そうするとだいたいのお客様像が分かってきます。
「売ろう」ではなく「どうやってお客様に買っていただくか」を考える
―4月以降、会社にもたらそうとしている新しい試みがあれば教えていただけますか?
まず、顧客接点をすべて統合していくことが重要だと思うんです。広告を出すことも、最後にCRMでお客様とコミュニケーションするというところも顧客接点ですが、実は部署ごとに分断していて。まず横ぐしを通して、一人のお客様に対して一気通貫してコミュニケーションをしっかり取ります。コミュニケーションをしっかりとるというのは、ブランドのアイデンティティや、ブランドの体験といったところをすべて同じにしないといけないわけです。首尾一貫したお客様に対しての想い・哲学を持ちながらも、顧客の接点は全部統合して行って、お客様に提供できるようにしていきます。
―ファッション業界、セレクトショップ業界の中でユナイテッドアローズさんの一番の輝きは、どのような点だと思いますか?
ユナイテッドアローズの強みは、目に見えるものが少ないことです。入社する前から、“何となくこうだろうな”という仮説はあったんですけれど、入社してやはりそうだなと思ったことがあります。たとえば品質に対するこだわりは、ECの面だけ見ていたら分からない。たとえばボタンダウンのシャツを買って洗濯を10回すると、やはり違うわけですよ。そこが品質に表れるんです。
あとは接客の良さですね。つかず離れずとか、いろいろなキーワードがあるんですけど、その良さはお店に行かないと体験できないわけじゃないですか。買ったことのないお客様に伝えるのが、非常に難しい。だからお店で体験してもらうことが重要だと思っていて。おそらくECの企業になることはないと思いますし、店舗とリアルの接点をどのように使うか。またデジタルに来ていただいた時に、どう体験してもらうかといった設計は、しっかりやるべきだと思っています。
―私は20、30代の時に、二子玉川のユナイテッドアローズでずっとスーツの仕立てをお願いしていました。その時の接客経験が心に残っていて。その上質な店舗の体験を、どうECに持ってくるか。これはなかなか至難の業のような気がするんですけれど、どのようにお考えでしょうか?
ECでお客様が体験したいことと店舗で体験したいことは、まったく違うと思っています。あと我々の場合はその店舗の実体験みたいなものを感じていただきたいので、たとえECで買っていても見ていても、「店舗に来てください」というコミュニケーションをしっかりやるわけですね。
たとえばEC上で出ているものを、“店舗で試着できます”といった仕掛けは重要だと思っています。なぜならそこで店舗体験ができるので。データでも出ているのですが、ECで買い続ける人よりも、店舗を何回か使う人の方が絶対的にロイヤルティは高いんですよね。店舗だとスタッフの人と話をして、納得のいく買い物ができるじゃないですか。ECは20年くらいやっていますが、ECだけで買うと、納得のいく買い物にはやはり事足りていないような気がしているんです。
―まずはこの数字を見るべきだ、みたいなものがあれば、アドバイスとしてお願いします。
ショップの方であれば、自分が所属しているお店のお客様のデータでしょう。さきほどの二子玉川のお話もそうなんですけれど、お店はその土地に根差すものなので、二子玉川にはユナイテッドアローズで買っていただける可能性のあるお客様は、何人いるのかということは、まず知っておいた方がいいですよね。“二子玉川のお店の周辺駅に住んでいらっしゃる方の中で、ファッションに興味があり、かつこういうテイストに興味のある人は、何人くらいいるんだろう?”と想像した方がいいと思います。そのうち何人ぐらいが、年間でお客様として来店をしていて、何人ぐらい買っていただけるのかは、割り算すれば何パーセントかが出てきます。
“そのパーセントをどうやったら増やすことができるんだろう?”と考えると、やはり売るのではなくて、どうやって買っていただくか、だと思うんです。“どういう接客をしたら、お客さまに買っていただけるのだろう?”とか、どういうお店作りをしたら買っていただけるのかを想像することは、ターゲットをしっかり見て、マーケティングをしてるのと同じことなんですよね。だからマーケッターだけがマーケティングをしているわけではありません。普通に業務をやったら、必ずそうやっているわけですけれど、そこにロジックを加えることによって、自分のやることは正しいか正しくないか、といったものが見えてくると思います。
知識の源泉は、自ら体験して得られる一次情報
―藤原さんの豊富な知識の源泉はどこにあるのでしょうか?
もっとも大事なのは一次情報だと考えます。まずは自分で体験する。誰かに話を聞くとしても、やはり一次情報をどうやって集めるか、だと思っているんです。もちろん加工されたメディアの情報なども、普通の人よりは目を通していると思うんですけれど。たとえば流行っているものだったら、直接見に行ったり、流行っている食べ物だったら、実際に食べに行ったりとか。そういうことが知識の源泉である気がします。
―最近、試したものは何でしょうか?
試してみて好きになったのは、サウナです。流行り始めた2年ぐらい前に、「久しぶりに行ってみよう」と思って訪れてみたら、流行る理由がよく分かった。ブームの意味を考えたりするのが好きなんですよね。
―休日の過ごし方を教えてください。
プライベートサウナを契約していて、ほぼ2日に1回くらいのペースで行きます。プライベートサウナだと本を持ち込めるんですけれど、実際に読むとすごく分かるなと思って。集中できるんでしょうね。それで「普段、ものを考えることって、本当にしていないんだな」と思ったんですよね。哲学書の入門書を読んで、これは今の世の中に当てはめると、こういうことだなとインプットしながらアウトプットを1人でずっとやり続けています。
―藤原さんのマイルールはありますか?
中国の故事成語の「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉が好きです。頑張って大きな集団のしっぽになるぐらいだったら、少し下のところでどうやって戦うかをいつも考えているんです。それはレベルの低いところにいるわけではなくて、戦うところを変えればいい、と思っているんですね。あるマーケットだったら、一つ上の段階のしっぽなんだけれども、考え方を変えて“このマーケットで戦うんだったら、もしかしたらトップでいけるのかな”といったところを、どうやって選んで行くかです。
たとえば前職のリユース業界は5,000億ぐらいのマーケットです。何兆円といった規模ではなくニッチのマーケットではありますが、トップをどうやって走るかをつねに考えていました。現職でも同じです。アパレル業界の中だと、占有率は1%くらいですが、セレクトショップ業界でどう生きていくかなのだと思います。もしも“感度がいい人が買う洋服屋さん”というマーケットを見つけるのだったら、そこはトップでいることができると思うんですよ。だからどうやってそのマーケットを選ぶか、といったことが一つあります。
二つ目は、どうやって組織に貢献するかという考え方が好き、ということ。会議に出て一言もしゃべらない人は、貢献力が0だと思うんですよ。だから何かの場に出たり集団に入った時に、どうやって貢献したらいいのかを考えます。最終的にアウトプットが出て、結果が出るのが一番の近道だと思っているので。何かを取りに行くというよりも、その場やその組織に対して、どう貢献するかだと思います。
取材:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba
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