ジュエリーパーツメーカー大手の光・彩は、山梨県甲斐市の本社工場で、SDGs(持続可能な開発目標)/ESGL(環境、社会、ガバナンス、生命・生活に秀でた企業への投資促進)に即した、サステイナブル(持続可能)な工場運営に力を入れている。この間の取り組みが実り、昨年11月には、日本の総合ジュエリーパーツメーカーでは初となる「責任あるジュエリー協議会」(RJC)によるRJC認証を取得した。リサイクル地金専用ラインの確立、紛争鉱物の排除など、ジュエリーパーツメーカーならではの取り組みで、「ジュエリー作りを通じてより良き世界を創る」をモットーに、業界を底支えする。
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光・彩は1955年に創業。ジュエリーパーツ事業とジュエリー事業を2本柱に据える。22年1月期売上高29億8900万円(前年比41.3%増)。一昨年こそコロナ禍の影響を受けたが、この間、右肩上がりで成長を続けている。
本社ビルの2、3階を占める延べ床面積約2300平方メートルの本社工場では正社員75人を含む約120人が従事し、ジュエリーパーツ部門では約1万2000種類、年間1000万点を生産する。なかでも、つまみやすいピアス用シリコンキャッチや、イヤカフ見えするピアスなど、機能性を持たせた耳周り関連パーツが受注を伸ばす。ジュエリー部門では、ブライダルを中心とした鍛造リングを年間約3万点生産する。
加えて、この間力を入れているのが、SDGs/ESGLへの取り組みだ。「製品を身につけるユーザー、当社の取引先、従業員、私たちの子孫、そして地球環境にとって、フェアなものづくりをすることを大切にしたい」と深沢栄治社長。こうした動きに敏感になったきっかけの一つが、10年以上前から徹底する製品の低アレルゲン化だ。ニッケル、クロム、カドミウム、コバルト、鉛、水銀の6物質を有害物質として指定し、使用する地金からも製造工程からも完全に排除している。仕入れ時に分析機で再度チェックするほか、仕入れ元業者とも覚書をかわし社内に入らない仕組みを取っている。アレルギー対応製品への消費者の需要に応えると共に、製品研磨の際、粉じんを吸い込む恐れのある従業員にも配慮した形だ。
パーソナルなリメイク
SDGsの「つくる責任、つかう責任」や「平和と公正をすべての人に」のテーマを実現する形で、同社もダイヤモンドや地金は、キンバリープロセスやLBMA(ロンドン貴金属市場協会)など国際的な認定機関や監査を経たものを仕入れている。加えてユニークな取り組みとして昨年設けたのが、再生地金専用ラインだ。ジュエリー製造の際に社内で出た端材や残材を中心に、一般消費者から買い取ったジュエリーも含め、同社で再生資材として分けて管理。この再生資材を溶解し、金、プラチナに戻した素材のみで製造したジュエリーは「再生地金でできた商品」と定義することができる。既にこのラインで受注した製品を作っているほか問い合わせも複数受けている。
この発展形として着手を始めたのが〝パーソナルなリメイク〟。「ジュエリーは思いが込められているもの。何かをつなぐ形で再生させたい」(深沢社長)との考え。思い入れのあるジュエリーの地金を確実に再利用し、新たなジュエリーによみがえらせる仕組みの確立を目指す。「証明も出す形でメーカーとして可能にしたい」と意欲的だ。
多能工育成と時間分析
「働きがいと経済成長」「産業と技術革新の基盤作り」のテーマにつながる施策も行う。その一つが、リスキリング。同社では積極的に未経験者の中途採用を行い、社内での研修などを通して戦力化している。装身具の製造に関する技能検定試験の受験を会社負担で奨励、今年は作りの部分などでの講習会も予定している。
既存のスタッフに対しても、効率化に向けて独自の取り組みを行う。その代表例が、時間分析による技術の向上と多能工の育成だ。時間分析は、作業者が1日の中でどの作業に対し、標準時間と比較し、どれほど時間をかけたかを見える化。集計、分析して各人の得手不得手を把握している。この結果を元に、「作業工程ごとのユニット長が個別に対策や指導をしている」と製造統括部長の清原元弘氏。
多能工に関しては、星取表を設け、一つの仕事に対し、2人、3人とできるスタッフを増やし、受注が集中した時に応受援できる体制を整えている。工場のスタッフだけでなく、営業職や事務職のスタッフも、ジュエリーコーディネーターの資格取得を通じてジュエリーに関する基礎知識を高め、一部技術を習得し、繁忙期の応援に入れるようになった。効率化ではこのほか、膨大な数のカウンター業務の自動化も行った。これら施策を通し、時間外労働の月平均時間が17年時の28時間から21年時には12時間に減少した。
20年には本社工場での再生可能エネルギーの100%使用なども果たすなど、多方面で取り組みを進めている。
《チェックポイント》挑戦かなえる現場の力
社会の流れにおいても、技術においても、新たな潮流を先んじて捉え、企業の強みに変える。技術面では、主力事業となっている鍛造リングの製造もその一つだ。
鍛造の特色である硬さを追求するだけでなく、より効率的に地金を使う製法を編み出すなど工夫を重ねてきた。特に、これまで鍛造では困難とされてきた、細かなデザインを表現する技術に磨きをかけてきた。リングを切削するためのプログラムは「ただ作るだけのプログラムではなく、スピードや一度に削る量など、細かな条件を最適化して組んでいく」と開発統括部長の薬袋利雄氏。様々なデザインに挑戦することでデータも積み上がり、次につながる技術基盤も厚くなっていく。
鍛造では、硬さ故に石留めや磨きでキャストとは違う難しさも要求される。「作業条件の最適化は何度も試し、日々進化させている。まだ完成ではない」と、より高みを目指す。
《記者メモ》必要だからこそ真剣に
RJC認証はダイヤモンド、金、プラチナを扱う宝飾企業を対象に、取引の透明性や環境・倫理面の取り組みを評価する国際的な非営利組織RJC(レスポンシブルジュエリーカウンシル=責任あるジュエリー協議会)による認証だ。光・彩が認定を得た昨年11月時点で、日本国内での取得企業は6社。しかし世界的に見ると、川上から川下企業まで約1300社が認定を得ている。特に、名の通ったラグジュアリージュエラーの多くが取得し、グローバルで一定の認知を得ている。
SDGsへの取り組みについて深沢社長は、「かっこつけてやっているわけではない。必要だからこそ真剣に取り組んでいる」と話す。それは、環境や社会のためであると共に、ビジネス的にも不可欠となるとの意味合いも含む。海外との取引も増加中だ。その際、監査を受けての認証は、相手先にとって選択のための確かな根拠の一つとなるとの考えだろう。新たな市場を開くためにも、SDGsへの取り組み無しでは進めない時代になったと感じる。
(中村維)
(繊研新聞本紙22年3月30日付)
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