ファッションデザイナーの中には、アーティストとコラボレーションしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
国内外から高い評価を得ているブランド「ALMOSTBLACK」は、数々の名だたるアーティストとのコラボレーションを実現。コレクションはいずれも大きな話題を呼んでいます。
ユニークなコラボレーションはなぜ可能となったのか?
その背景には、デザイナーと弁護士の強力な連携と、並々ならぬ熱意があったようです。
「ALMOSTBLACK」デザイナーの中嶋峻太氏と弊所の小松隼也弁護士に、コラボレーションを実現する秘訣を詳しく語っていただきました。
2人の出会いとチームとしての連携を語ったVol.1もぜひご覧ください。
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――ALMOSTBLACKは多くのアーティストとコラボレーションしていますが、数々のコラボレーションを実現できたカギは何でしょうか?
中嶋峻太氏(以下「中嶋」):
本人がどれだけやりたいかを伝えるしかないと思うんですよね。
たとえば白髪一雄さん、白髪富士子さんとのコラボレーションでは、財団の方に「どうしてもコラボレーションしたい」と熱意を伝え、ブランドの理解者になってもらいました。
また、細江英公さんとのコラボレーションでは、ご担当者であるギャラリストの方とお話をし、さまざまなご質問に誠実に回答することで熱意を伝えました。
コラボレーションのためにコミュニケーションが必要な人々をどれだけ味方にできるか。理解者を増やすことがコラボレーションへの近道なのだと思います。
小松隼也弁護士(以下「小松」):
誰に対してどうアプローチするかも大事ですよね。
中嶋:
白髪さんとのコラボレーションでは、先ほどの財団の方から、白髪さんの息子さんとお話しをする必要があると伺い、その息子さん宛にお手紙を書いたんですよ。手紙で熱意が伝わったのか、息子さんが会ってくださって。その後、お会いして2時間ほどお話させていただきました。その中で僕がお伝えしたのは、僕が白髪さんをいかに好きであるかということと、どうしてもそれを世に公表したいという2点だけ。とてもシンプルですよね。
これは別の企画でコラボレーションさせていただいている作家の加藤泉さんもおっしゃっていたことですが、僕たちはビジネスなので、当然商品は売らなければならない。でもその前に、「そのアーティストや作品を好きかどうか」が一番重要だと思います。
小松:
アーティストは、皆さん好きな人とコラボレーションしたいと考えますからね。
私たちの事務所はアーティストやそのご遺族の方の代理人となることも多いのですが、ファッションとのコラボレーションでアーティスト側が気にされるのは、「どういう形でデザインされ、どの程度のクオリティで、どのように公表されるかを、あらかじめ教えてもらいたい」という点です。アーティスト側からすると大事な作品をむやみに消費されることは避けたい。だから、特に、制作前の承諾、生産枚数、クオリティ、広告の出し方といった点は非常に気にされます。
他方、ファッションブランド側ではこれらの点がギリギリまで決まらないことが多い。ファッションのスケジュール感でプロジェクトを進めてしまうんですよ。たとえば、アートの世界では3年先のプロジェクトに向けて準備を始めることは珍しいことではないのですが、ファッションの場合は半年先のコレクションに向けて準備をするというようにスケジュール感が大きく異なります。
また、宣伝・広告や露出も大きければよいというわけではないなど、ファッションとアートでは考え方やルールが異なるのに、ファッションブランドがアーティスト側のルールに寄せることをあまりしてこなかった。こうしたミスマッチが原因で、ファッションブランドがアーティストからコラボレーションを断れてしまうことも多い印象です。
ALMOSTBLACKではアーティスト側に対し、「アートのルールとスケジュール感で進めます」という提案を早い時期から行っていたことも、コラボレーションを実現できたカギだと思います。
中嶋:
アート側のルールという点では、「アーティストの嫌なことはやらない」ことも重要ですね。
「やりたかったのに」ということはたくさんあるんですが、アーティストが嫌と感じることをやっても、僕自身も気持ちがよくない。時間のない中で、別案を提案して、お互いに納得できるものを発表することこそがコラボレーションだと思うんですよね。
――では、具体的にどのようなスケジュールと役割分担で企画を進めているのでしょうか?
中嶋:
アーティスト選定のところから小松さんにご相談しています。2~3年先のコラボレーションまで視野に入れて、複数人との話し合いを並行して進めている感じです。
「このアーティストと将来コラボレーションをしたい」「そのアーティストとコラボレーションするのであれば、このアーティストは外せないよね」など、アートの文脈を踏まえた選定も含めて、小松さんに相談しています。
これは、アート業界の仕事もされている小松さんだからこそご相談できることではありますね。
小松:
コラボレーションを実現するために、誰にどういった内容を相談すべきかという点についても入らせてもらっています。
たとえば、コラボレーションを希望するアーティストの候補が決まったら、どのギャラリーや団体に連絡すべきか、さらにそのギャラリーや団体のどの人に連絡すべきか、といったところを、中嶋さんにも情報共有しながら進めています。
中嶋:
小松さんとの綿密な下調べと情報共有のもとで、僕は会うべきときに会うべき人に会わせてもらっているという感じです。
小松:
並行して「この本がおすすめ」「このシリーズがよかった」「この作品が気になった」といった点について情報共有しています。
このブレストを踏まえて、「コレクションではこのテーマが文脈的に最も適切だろう」「公表するならこの作品がいいのではないか」といった点についてディスカッションするという流れです。
その上で、最終的にコラボレーションで使いたい作品は中嶋さんがジャッジしています。
――契約書はどのタイミングで締結しているのでしょうか?
中嶋:
アーティスト側からコラボレーションについてOKが出たタイミングで、契約書を締結しています。
契約条件については、小松さんとアーティスト側とで話をしてもらい、小松さんには、あらかじめアーティスト側の意向に沿った契約書を作成してもらっています。
小松:
契約書の内容で一番重要なのが、「アーティストが安心できる内容にする」こと。
事前に中嶋さんと細かい点まで十分話し合い、契約の落としどころを最初から見極めた上で、アーティスト側が安心できる形に落とし込んだものを提案するようにしています。
アーティスト側に失礼のないよう、クオリティコントロールの点や、あらかじめロット数を制限する、広告・宣伝の方法など、かなり気を遣って契約書を作成していますね。
中嶋:
ALMOSTBLACKが、価格帯も比較的高く、そもそも大量生産を前提にしたブランディングではないので、そこはちょうどよいのかなと思っています。
小松:
アーティスト側は、ファッションだと量産されてしまうのではないかという点を一番気にしており、ALMOSTBLACKがその点をクリアできたことは大きいですね。
このようにアーティスト側の要望を聞きながら契約書を作成しているので、最初の契約書案をそのままOKしてもらえることがほとんどです。
このやり方だと、アーティスト側とのやり取りが最小限で済むので時間も短縮できますし、実は弁護士費用を抑えることもできます。
ALMOSTBLACKでの仕事は、アーティスト側が重要だと考えている点を前提に進めているというのもありますが、最初から条件をすり合わせ、落としどころを見据えて契約書を作成するので、実はとても効率的だと思います。
中嶋:
小松さんが最初から入って打ち合わせなどにも参加してくれていて、アーティスト側の温度感なども把握されているからこそできることですよね。
打ち合わせで条件のすり合わせをしてもらっているプロセス自体が、契約書の修正のプロセスそのものだなと。
小松:
幸い私たちの事務所が日常的に様々なアーティスト側からのご依頼も受けているので、ALMOSTBLACKの代理人ではあるんだけれど、打ち合わせの場では、コラボレーションするアーティストの意向も一緒に聞いているというのはありますね。そこは特殊かもしれない(笑)。
――最後に、コラボレーションへの思いを教えてください。
中嶋:
なんでもそうですけれど、「好き」を超えないと仕事にならないと思うんですよ。「熱意」もその延長線上だと思います。
たとえば、白髪さんとのコラボレーションを実現するために、僕自身、尼崎に3回ほど通いました。
若い方には「そこまでやれるのか」を常に自分自身に問いかけてほしいですね。
他方で、半年に1度コレクションを行うというスピード感には、自分自身も戸惑うところはあります。でもビジネスだからやるしかない。そのバランスをとるのが大変ですね。
小松:
中嶋さんのコラボレーションが面白いのは、アートと正面から対峙しているところだと思います。ファッションがアートの表現を流用しているのではなく、ファッションとアートが対等にぶつかった感じ。
コラボレーションの意味を突き詰めてご自身のデザインに落とし込んでいるのがすごくいいんですよね。
中嶋:
僕が日本のアーティストとのコラボレーションにこだわるのは、同じ日本人だからこそ日本人アーティストの思考を100%理解できるということもありますし、また、これほど名だたる日本人アーティストがいるのにファッションでは日本人アーティストとのコラボレーションが少なく、海外アーティストに目が向きやすいことに違和感をもったことも大きいですね。
デザインにあたり、アーティストと自分との結びつきを深く考えるようにしています。一般的にコラボレーション商品は、これまでの定番商品をベースにアーティストの作品をプリントしたりすることが多いと思うのですが、ALMOSTBLACKの場合、個々のアーティストと自分との結びつきはそれぞれ異なるので、アイテムもデザインもアーティストごとに全く新しいものになります。常に新作を出すことになるので、バイヤーの皆さんからは「来季は買わないかもしれない」と言われたりしています(笑)。
小松:
毎シーズン、「今回のデザインはこう来たか!」という驚きがあり楽しませていただいています。「これはアーティストのOKが出ないのでは?」と思いきや、これがOKが出てしまったり(笑)。
中嶋:
斬新なデザインをOKしていただけるのは本当にありがたいです。僕の誠意と熱意が伝わったからだと信じたいですね。
中嶋峻太氏と小松隼也弁護士が、2人の出会いとチームとしての連携について語ったVol.1もぜひご覧ください。
中嶋峻太
「ALMOSTBLCK」デザイナーエスモード・パリを卒業後、2005年から2007年の2年間、デザイナー、ラフ・シモンズのアトリエでデザインアシスタントを務めた。国内外のデザイナーズブランドでキャリアを積んだ後、川瀬正輝氏とともにメンズファッションブランド「ALMOSTBLACK」をスタート。「ポストジャポニズム」をコンセプトとし、アーティストとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。また近年は、e-sportsのブランディングやデザイン、生地のディレクションなど幅広い分野に活躍の場を広げている。小松弁護士とチームを組んでブランドを立ち上げるプロジェクトも計画中。
サッカー経験者であり、サッカー選手へのリスペクトとサッカー業界に恩返ししたいという気持ちから、Jリーグのデザインに関与するのが目下の目標。
また、将来的にはハイブランドのデザインを手がけたいとの夢も持っている。
小松隼也
弁護士
三村小松山縣法律事務所、代表弁護士。2009年に弁護士登録後、11年に東京写真学園プロカメラマンコース卒業。15年にニューヨークのフォーダム大学ロースクールでファッションローやアートローを専攻し卒業。帰国後は、ブランドの立ち上げや知財戦略、海外との契約交渉などを専門とする。ファッションに関する法律研究機関Fashion Law Institute所属、ファッション関係者の法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」共宰。また、現代美術商協会の法律顧問やアートウイーク東京の理事など現代美術に関する業務も専門的に取り扱う。
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