F/CE.®は、世界中から選んだひとつの国をテーマにコレクションを展開するブランド。実際にその国を訪れて、生活、歴史、建築、アート、音楽などに触れることでインスピレーションを得て、デザインとディテールに落とし込んでいます。今回は、ディレクターの山根敏史さんとその妻でありデザイナーの春山麻美さんに、このユニークな手法の背景にある二人のキャリアや考え方についてお聞きしました。
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山根 敏史さん/OPEN YOUR EYES INC.代表、F/CE.クリエイティブディレクター
愛知県生まれ。1997年からデザイナーとしてキャリアを積んだ後、クロックス日本支社創立に携わり、マーケティングマネージャー、クロックス グローバルプロダクトアパレルラインマネージャー、アジアクリエイティブチームチーフデザイナーを歴任。2010年にオープンユアアイズ株式会社を設立し、F/CE.を立ち上げる。インストバンド「toe」のベーシストでもある。
春山 麻美さん/F/CE. WOMENSデザイナー
大阪府生まれ。セレクトショップ「チャオパニック」でバイヤー、ウィメンズPRに携わる。2013年にオープンユアアイズ株式会社へ転職。F/CE.のウィメンズデザイナーを務める。2児の母。
大手アパレル、外資系企業で独立のためのすべてを身に付ける
― お二人のこれまでのキャリアについて教えてください。
山根 敏史さん(以下、敬称略):スタートは、大手アパレルのデザイナーとして6年、下積みしました。その後、縁があってクロックスの日本法人設立に携わり、そこではデザインから離れて日本市場にローカライズするためのセールス&マーケティングなどを3年ほど務めた後、アジア市場の商品開発やマーチャンダイズを経て、自分のやりたいことを実現するためにファッションの会社を設立しました。
春山 麻美さん(以下、敬称略):私は、大阪のファッション専門学校を卒業して、チャオパニックのスタッフとして働きました。2年弱ほど過ぎたところで東京に新しくできたお店に異動。初めは販売員をやっていましたが、バイヤーをやりたいと話をして、週に2日はバイヤー、3日は販売という感じで両方経験しました。
最初はバイヤーアシスタントとしてあちこち連れていってもらいましたね。雑貨や企画などいろいろ経験しました。それから、会社の方針でプレスを担当することに。プレスからバイヤーという方は多いんですけど、私は逆のパターン。物が作れるプレスということで、モデルや企業、バンドとコラボもやりました。その頃、雑誌の取材でキャンプに誘われたんです。ちょうどチャオパニックがキャンプや山を推していた時期で、「行きます!」って。そこで出会ったのが山根さんでした。
旅先でその国のカルチャーをリアルに見て感じ、人と出会って生まれるブランドコレクション
― F/CE.のブランドコンセプトは、初めから日本だけでなくグローバルを狙っていたのでしょうか。
山根:コンセプトは変わっておらず、僕らはすべて自分たちでブランドの全てをやっています。物作りも妻と2人でやる。僕が社長で、最終的な責任を取る。安売りはしたくないし、売りたいところに売ればいいかな、と。それに、面白い人と仕事をしたいと思ったときに、自分にとって面白いと思える人が海外にたくさんいたんです。自分のアクションを自分で設計しているという感じです。今は売上の比率でいうと、海外が4割くらいですね。
春山:F/CE.の綴りやロゴは、グラフィックデザイナーの平林奈緒美さんに考えていただきました。山根さんと二人でコンセプトを説明してお願いしたところ、二つ返事で受けてくださって。その流れで、展示会の案内やノルディスクも平林さんにお願いしています。
― グローバルを狙っていたというより、山根さんがやりたいことをやったらグローバルに広がった、と。当初から企業コンセプトのFunctionality(機能性)、Culture(文化)、Exploration(探求)や、ブランドコレクションは「旅」をテーマにしたスタイルだったのでしょうか。
春山:はい、最初からです。もともとひとつの国をテーマにするというのは決まっていて、最初のテーマはモロッコ、初めて一緒に旅行したのはキューバですね。春夏(SS)と秋冬(AW)で2シーズンにわたって同じ国を扱います。深掘りできる国だと3シーズンやることもあります。旅は、まず初めの宿だけ決めて首都に行ってからマップを調達しています。そのあとは特に決めずに車で動きながら、良さそうな町が見つかったら泊まって2~3週間かけて旅をします。
山根:だいたいカメラマンが一緒で、運転を交代しながらアクシデントを乗り越えながらという感じですね。借りた車が壊れたり危ない目にも遭ったりもしました。何も知らない土地で、全然インターネットがつながらないとか。
― 今までに一番印象深かった国や場所といえば?
春山:それぞれに良いところがありますね。私はイギリスが好きでどこを周っても面白いだろうなと行ってみたけれど、やっぱりロンドンが一番面白いっていう再確認もありました。常に新しい発見があるから、ここが1番好きというのは特にないです。
山根:それぞれの国や場所が全部印象に残っていて一長一短があり、自分たちが行くからすべて記憶に残っています。インターネットの普及で、情報に1から10まですぐ辿りつける環境になりましたが、自分たちでリアルに行ってそこで見たものを形にするというのは、デザイナーじゃないとできないと思います。写真集を見てインスピ―レーションで物を作るスタイルもあるけれど、直接会って話すほうが得られるものが多い。そういうアナログな部分って、生きていく上で絶対必要。リアルを追求したいと思っています。
― 旅から着想を得て、旅先のカルチャーから深掘りしていくわけですね。ブランド作りで大切にされているのは、どんなことでしょうか。
春山:機能的な素材、今ならリサイクル、サステナブル、SDGsを意識していたものを使っていますね。基本的にその服を着て遊びにも行けるし、山にもキャンプにも行ける。生活の中で使いやすいという点は、かなり意識しています。また、もともと「旅で使う」というコンセプトもあったので、旅先には自分たちが作ったバッグや服を持っていきます。現地で急に雨が降ったり、子どもを連れてベビーカーを押して行ったりして、使いにくいところが見つかると都度アップデートしていく。実は、定番のアイテムも少しずつ変わっているんですよ。
― 五感を使いリアルを追求してブランドを作っていくことが最も大切にされているということでしょうか。
山根:ブランドのために旅に行くのではなくて、自分たちが行きたいから行く。やりたいことをやっていくために、その設計を自分でやっているという感じですかね。同時に、同じ船に乗ってくれる社員がいる以上、僕は社長として責任をもつ、という部分もある。なかなか言葉では表現しにくいですが。
まだ見ぬ新しい仕組みを作り、価値を提供していくためのステップ
― 長年ブランドを運営してきたわけですが、今後の展望をお話いただけますか。
山根:海外流通のフレームを作りたいですね。2017年から事業にアウトドアが加わりましたが、アウトドアもファッションも楽しみや価値を提供する点では同じ考え方なんです。この会社の目的は、マーケティングして物を売るだけじゃなく、誰も考えていない仕組みや売り方を達成すること。来年、ロンドンに会社を作ってヨーロッパ市場向けの拠点と、デザイン開発の拠点にする予定です。EU圏内へ簡単に行けるし、コストやTAXのメリットも大きい。いろんな人を巻き込んで協力してもらっています。
春山:海外売上が4割を占めていますが、EU圏内、特にUKでなぜかすごい人気なんです。それでイギリスに拠点を作って、私がそこへ行くことになりました。子どもたちを連れて私ひとりで(笑)。コロナで延期していましたが、先日久しぶりにUKに行って計画を再開しました。
山根:僕は社長業とバンドがあるから、日本を拠点にして時々イギリスへ行く感じですね。
― 海外展開のほかに、商品やコラボレーション、新店舗の展開など計画されていることは?
春山:コラボは常にやろうとしていますし、お店ももうちょっと増やしたいと考えています。ノルディスクのコンセプトストアは、店舗数を増やしたいんですがお店自体が大きくないと難しい。渋谷のパルコにできた店舗は屋上を使えると聞いて「あんな都会のど真ん中でテントを10台も張れるなんて!」ということでお受けしました。ちょっと意表を突きたいという思いもあり。
― まだ見ぬ新しいことをやるという気持ちですね。お二人は常に走り続けているように感じますが、その原動力はどこから来るのでしょうか。
山根:自分たちが作った物や仕組み、お店で、皆にハッピーになってもらいたい。人より原動力が大きく見えるかもしれないけれど、思いついたことをすぐ作れる環境を作りあげたからそう見えるのかもしれない。人生は1回きりだし、ゴールに早く到達するために自分のスキルを磨くことは良いことだと思います。何かを提供するには自分が楽しめないと絶対できないと思うし、その仕組みや土台は、なるべく会社で作りたい。
― これまで経験されてきたことを社員にも伝えながら、環境を提供していくと。
山根:そうです。でもやっぱり、会社は最終的には利益を生まなければいけない。その設計もしなきゃいけないのは大変ですが、ひとつの価値をブランドやお店を通じて提供していくには、皆にスキルアップやキャリアアップしてもらわないと達成できない。僕の考えでは、社長はできて当たり前で、一番できる人間でなければ、というのがあります。でも、社員が30人を超えた今は一人でやるのではなく、それぞれに役割分担をして分業していくテクニックや考えも必要。だから自分のやり方や仕組みを変えてきました。まだまだ途中段階ですけど。
春山:私の原動力は子どもですね。彼らとスケボーやサッカーをしていますが、イギリスで言葉はしゃべれなくても友だちができるかなと思ってやらせているんです。子どもを通じて出会う人も多いですね。子どもが何かを始めるときは、自分もやってみようと思ったり。そういう新しくて面白いことがさらに原動力になったりします。
撮影:Takuma Funaba
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