途切れることのない新型コロナウイルスの波やサプライチェーンの混乱、戦争、インフレなど刻々と変わる事業環境の中で、繊維事業を手掛ける商社は売り上げ拡大に力を入れる。コスト高や円安などで収益が圧迫され、目標とする利益を達成しようとすれば増収が鍵になるからだ。経営陣は発破をかける。しかし現場ではどうだろう。「増収基調だが、以前減らした人員では対応できない。残業が続き現場はヘトヘト」。「若手、中堅社員の離職率が高まっている」。「通常業務に加え、環境配慮など対応すべきことが次々と増える」と人手不足や労働強化を指摘する声が強くなってきた。
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成長事業に集中
業績拡大が見えていれば人員増強もしやすいが、一進一退が続く現状では、それも難しく悩ましい。
成長、縮小事業を見極め、成長事業にヒト、モノ、カネを集中させる動きが加速する。またDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も鍵だ。基幹システムの刷新やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用などデジタル技術を活用して仕事の効率化、生産性の向上、省人化で人手不足に対応する。蝶理は将来の人手不足に対応し、基幹システムを刷新し(24年度予定)、デジタル経営を進める。帝人フロンティアは、DX推進室を軸に研究・開発から物作り、マーケティング、販売までをデジタル技術でつなぎ、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化や収益の拡大などにつなげる。
繊研新聞社は繊維事業を手掛ける商社に対し、「若手・中堅社員育成に関するアンケート」を実施した。その中から直近の正社員の人数とその増減をまとめた=表。多くの企業で人員が減っている。回答企業のうち、繊維関連に携わる正社員数が20年度と比べて増えたのは一村産業、帝人フロンティア、豊島、ユニチカトレーディングの4社のみ。前年並みが3社(クラレトレーディング、信友、田村駒)で、それ以外は減った。大幅減が目立つ企業もある。
「就職先として繊維業界を志望する人が減っている」と増やそうと思っても優秀な人材の確保は簡単ではない。特に繊維業界は、「独自のルールや慣習が根強く、営業の中途採用には業界経験者が必要。積極的な採用が難しい」との声もある。
教育メニュー充実
若手社員向けの教育を整え、中堅社員を次期管理職、幹部に育てようと各社、人材育成のカリキュラムや取り組みを充実している。MBA(経営学修士)取得支援やビジネススクールを活用し経営幹部の育成に力が入る。伊藤忠商事は、独自MBAコースとしてマネジメントスクールと提携。希望者を単科クラスに派遣し戦略やマネジメントに関するスキル・リテラシーを体系的に習得する。八木通商は、部長・副部長クラスの中で、年2、3人が大学主催のビジネススクールに参加。グローバルな視点や経営学・財務・会計などの専門知識を学び、マネジメントのプロを育てる。
GSIクレオスは、「クレオスアカデミー」を立ち上げ、階層別研修を体系化した。キャリアごとに受けるべき研修を明確にしてマップ化・可視化して必要な研修を必ず受けるようにして成長を促す。ヤギはコーポレートブランド向上プロジェクトなどで次代を担うリーダーを育てる。学生や起業家、地域社会や行政、業界を超えた様々な協業に取り組み、新たな価値と未来を作り出せる人材を育てる。
この10年間の商社繊維部門の人員数は、企業別ではバラツキはあるものの繊維商社全体では大きな変動はない。10年前の12年度と21年度の繊維部門正社員数(単体)で、比較可能な17社を比べたところ12年度の各社の合計が5201人、21年度では5276人と多少の増加に過ぎない。大きな変化は大手総合商社の繊維事業の縮小。伊藤忠を除いて繊維部門が実質なくなり、事業も人員も大きく減った。
総合商社が「コストが合わない」と手放した事業をOEM(相手先ブランドによる生産)子会社や繊維商社などが担ってきたこの10年。市場が縮む中、優勝劣敗がより明確になってくる。「人が財産」と言われる商社業界。デジタル技術の活用で経営の高度化を進めながら、人材への投資が欠かせない。体系的に育成し、様々なチャンスを与えてキャリアを積んでもらい、次世代の経営幹部が次々と出てくる企業に成長の芽がある。
高田淳史=大阪編集部商社担当
(繊研新聞本紙22年10月17日付)
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