岐阜の縫製団体は政府の担当者を招き実習制度適正化のセミナーを開いた
22年は企業に強制労働や児童労働の排除など、サプライチェーンでの労働者の人権保護対策強化を求める動きが欧米を中心に加速した。2月にEU(欧州連合)が企業の人権対策に必要不可欠な「人権デュー・ディリジェンス」(人権DD、今後の可能性を含めた人権侵害の内容と人権への「負の影響」を特定し、防止・低減策を行い、検証した上で、その内容を情報開示すること)を企業に義務化する指令案を発表し、6月には強制労働が問題となっている中国新疆ウイグル自治区での生産品の輸入を原則禁止する法律が米国で施行された。
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■実習生の問題も重視
日本でも、政府が人権DDを軸にした企業の人権対策の初のガイドライン「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を9月13日に決定した。それに先行して、日本繊維産業連盟(繊産連)がILO(国際労働機関)と共同で、繊維・ファッション業界独自の人権対策ガイドライン「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を策定し、7月28日に公表した。
いずれも経済産業省が主導した。政府のガイドラインは経産省が3~8月に開いた有識者会議での議論を経て作成した。繊産連のガイドラインは経産省が昨年2~6月に実施し、同年7月に報告書をまとめた有識者会議「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」での提言を受けて策定した。繊産連の富吉賢一副会長は同検討会と経産省のガイドライン策定のための有識者会議に委員として参加しており、両ガイドラインは位置付けは異なるとはいえ、連携している。いずれも国際連合やOECD(経済協力開発機構)、ILOなどの「国際スタンダード」を踏まえ、人権DDの手法と事例を軸に作成した。繊産連のガイドラインは業界の特性を踏まえ、サプライチェーンの受注者側の中小・小規模事業者が「最低限守るべき事項」も示し、業界の課題である外国人技能実習生対策も重視した。
■ビジネス上メリット
国際的に、企業に人権対策強化を求める機運が高まり、繊維・ファッション業界でも海外企業との取引の際に環境配慮や人権対策を契約条件として求められるケースが増えている。日本でのガイドライン策定は必然的な動きだ。繊維・ファッション業界ではガイドライン公表以前から対策を重視している大手企業も多い。
しかし、業界の大半を占める中小事業者の多くが人材確保を含め、対策のためのコストアップに悩んでいる。業界団体に加盟していない小規模事業者への周知や、欧米のような法規制ではないガイドラインの実効性をいかに高めるかも大きな課題だ。行政にはガイドラインの意義と重要性だけでなく、「順守することがビジネス上のメリットになる」ことを業界にしっかり発信することが求められる。
(繊研新聞本紙22年12月14日付)
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