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「スタバらしさ」をめぐる消費文化論講義 第4回 スタバと湘南と「分裂」

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「スタバらしさ」をめぐる消費文化論講義 第4回 スタバと湘南と「分裂」

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ACROSS編集部
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批評家・ライターの谷頭和希による、「スタバらしさ」を通して消費文化を考える連載の第4回目。今回は石原裕次郎、「太陽族」、サザンオールスターズ、湘南といったキーワードが登場。「かっこいい」の裏側に潜む「分裂」について深掘りしていきます。※本連載は講義スタイルのトークイベントとして開催した内容を元に、後日編集したものを掲載していきます。(編集室H)

前回は、スターバックスジャパンの歴史を辿りながら、そのはじまりからスタバが「分裂」していたことを見ていきました。そして、スタバを日本で展開していたサザビーの創業者である鈴木陸三が、スタバを「かっこいい」と表現したことに注目しながら、その「かっこいい」感じが日本とアメリカの分裂と関係があることを予告しました。では、その「かっこいい」とはどのようなものなのか。鈴木はそれまでどのような境遇で育ってきたのか、今回はそこを見ていきましょう。

鈴木陸三と湘南文化

スタバを「かっこいい」ものとして捉えた鈴木陸三という人に改めて注目すると、面白い事実が見えてきます。そもそも鈴木はどのようなものを「かっこいい」とする感性を持っていたか。スターバックスの日本進出の秘話が書かれている『日本スターバックス物語 はじめて明かされる個性派集団の挑戦』に次のようなエピソードがあります。

陸三さんの価値観を決定づけたのが、当時の湘南文化でした。陸三さんは学生時代に、ヨット仲間だった石原裕次郎さんたちと奔放に遊んでいました。その様子を裕次郎さんの兄の石原慎太郎さんが若者の風俗として記録し小説にしたのが、のちに芥川賞を取り、一世を風靡することになる『太陽の季節』でした(梅本龍夫『日本スターバックス物語』)。

1956年に発表された石原慎太郎『太陽の季節』は、当時の文壇に大きな衝撃を与えると共に、若者文化の新しい形を提示し、「太陽族」という言葉も生み出しました。日本各地で石原裕次郎のスタイルを真似した若者たちが現れたのもこの時期です。しかし、鈴木の場合は、その本人である石原裕次郎と遊んでいたのですから、本物の太陽族だったといえるでしょう。そして、彼らが本拠地にしていた「湘南エリア」も太陽族の名前と共に全国に知れ渡っていきます。

のちほど詳しくみていきますが、この頃から「湘南」という地域の名前は、ただの地域名に留まらず独特のイメージを帯びた言葉に変貌していきます。スタバに惹かれた鈴木は、湘南文化にどっぷりと浸かった人間だったのです。ここに、スタバと湘南文化をつなぐひとつのラインが見えてきます。このように見ていくと、鈴木がスタバに抱いていたかっこいい、という感性を考えるときに、湘南文化がすごく重要になってくるということがわかるでしょう。

分裂としての湘南文化

では、湘南文化におけるかっこよさとはどのような特徴を持っていたのでしょうか。日本のスターバックスの起源を考えるときには、この湘南という土地が日本において担っていた役割が重要になってきます。

湘南と聞いて皆さんは何をイメージするでしょうか。サーフィンに興じる若者でしょうか。あるいはサザンオールスターズの音楽でしょうか。しかし、少し前までの「湘南」は現在の我々が持っているイメージとは異なる姿をしていました。

社会学者の吉見俊哉はこのように述べています。

このような基地の存在と不可分な「アメリカ」への欲望が、今日的な「湘南」のイメージを支えてきたのではないか。[…]この時代(1950年代)の湘南には、若者たちに「日本のなかのアメリカ」を体現させていく文化力学が構造化されていたのではないか(吉見俊哉「ベースとビーチ 「湘南」の記憶」吉見俊哉/若林幹夫『東京スタディーズ』)

湘南エリアは、いま私たちが抱く印象よりもまず、米軍基地が多くある地域というイメージがあったのです。現在はその多くが無くなってしまいましたが、横須賀や厚木には現在でも米軍基地が残っています。無くなってしまったところで言えば、茅ヶ崎にもキャンプ茅ヶ崎という基地がありました。イメージとしてはいまの沖縄のような感じで、1950年代の湘南には多くのアメリカ人がいたのです。ある意味では、日本であるにもかかわらずアメリカでもあるという分裂した地域が湘南だったわけです

アメリカの記憶は今日でも何気ないところで見出すことができます。サザンオールスターズ『希望の轍』という曲があります。この歌詞の中に登場する「エボシライン」は、茅ヶ崎の名所でもある「烏帽子岩(えぼしいわ)」を望むことができる海岸線沿いの国道134号線のことを表しています。サザンに歌われるほど、湘南の象徴的存在でもある「烏帽子岩」ですが、実はこの岩、在日米海軍辻堂演習場での砲撃訓練中に、砲弾が当たり、大きく欠けて現在の姿になったといわれています。これが湘南のシンボル的存在になり、サザンの歌でも歌われているのです。湘南と米軍基地の強い結びつきを表しているでしょう。

▲海岸から烏帽子岩を眺める

伝播するアメリカ

しかし重要なのはここからです。吉見が強調するのは、米軍基地の多くが無くなった後でも、様々な文化を通じて、「アメリカ的なるもの」をどうしようもなく欲してしまう欲望を体現させていくような力学が湘南という土地に働いていたのではないか、ということです。

例えば、先に湘南のイメージとして挙げたサーフィン。サーフィンは、米軍基地のアメリカ人が持ってきたものが湘南に伝わって、最終的に日本全国に広まったものです。それを、湘南を代表する著名人たちが広げ、現在では、茅ヶ崎はサーフィンの聖地になっている。アメリカ軍基地があったために伝わってきたものが、アメリカ軍基地が無くなった後も、文化として広がりながら根付いているのです。このようなプロセスを通じて、湘南はいまでも日本の中のアメリカというイメージは根強く持っています。

▲茅ヶ崎には今でもサーフショップが軒を連ねる

湘南に残り続ける「アメリカ的なるもの」はまた別の形でも現れています。ファストフードチェーンのマクドナルドがその1号店の候補として選んだのが茅ヶ崎にかつてあったパシフィックホテルの隣接地でした。アメリカ側は、アメリカのようなロードサイドが見られるこの場所を1号店に推したといわれています。すでにキャンプ茅ヶ崎は無くなっており、実際にはアメリカの影は見られなくなった時期であるにも関わらず、アメリカ側からこのような提案がなされたのです。最終的に、日本側の代表者であった藤田田が銀座への出店を強く進めてこの案は却下されますが、アメリカから見ても湘南という土地はアメリカのような雰囲気を感じさせる土地だったということでしょう。

このように湘南は「日本の中のアメリカ」という磁場が大変強く、日本・アメリカという分裂の非常に大きな象徴であることがわかります。そう考えると、鈴木が「かっこいい」と感じ大きくコミットしていたものは、湘南文化にしてもスタバにしても「分裂している」ものでした。つまり、鈴木は「分裂しているもの」を「かっこいい」とする感性に惹かれていたのです。ここにきわめて興味深い「分裂」という言葉をきっかけとした繋がりが見出せます

分裂とは「かっこいい」のか

分裂する湘南文化に惹かれる鈴木陸三は最終的にスタバを「かっこいい」ものだと考えて、それを日本に持ってきました。そこには「分裂」を軸とする文化のつながりがあります。

私たちはスタバにフォーカスを当て、そこに見られる「分裂」がどのような特徴をもっているのかを考えてきました。その「分裂」とはどうやら「かっこいい」という言葉と関係が深いようです。そして、またそれは、「日本とアメリカの分裂」という言葉とも関係が深そうです。

徐々にではありますが、スタバの分裂の輪郭が少しずつ見えてきました。

スタバにおける<日本的>なるもの

ここで閑話休題。

いうまでもなく、スタバはアメリカにそのルーツを持っています。したがって日本にスタバができたとしても、あくまでもそれはアメリカのものとして受け止められています。当然すぎる指摘でしょうが、「分裂」というキーワードで考えていくと、日本とスタバはずいぶんと親和性があるようにも思えてきます。

日本は、そのはじめから、海外文化の流入によって社会システムや文化を醸成してきました。ですから、必然的に諸外国と自国の文化の間に分裂が生まれてきました。つまり、大胆にいってしまうならば日本とは「分裂」する国だといえるでしょう。その意味でもスタバに通ずる分裂的な要素を見出すことができるのですが、興味深いのはスタバ側の人間もそのような観点からスタバを語っているということです。

スターバックスジャパンの創業者であり、鈴木陸三の兄である実業家の角田雄二の発言がこのことを考えるときに興味深い話題を提供してくれます。

スターバックスってさ、実は日本的な雰囲気をもった会社なんだよね。日本が昔からもっていた良さをアメリカの会社に教えられたんだ。そういう意味でも感謝してるね(梅本龍夫『日本スターバックス物語』)。

日本のスタバをもっとも間近で見てきた角田雄二がこのようにいうのです。スタバとは、非常に日本的なのではないか。ここでいわれる日本的とは、「和風」ということでは決してないでしょう。私は、その親和性は、やはり「分裂」というキーワードにあるのではないかと思っています。実際、スタバはいまや世界各国にありますが、北米以外で外国に進出したのは日本が初めてだったといいます。

そう考えると、やはり日本とスタバの親和性は高く、その親和性はまさに、この分裂していること、矛盾した要素を含み持っているということで共鳴しているのではないかと思います。

【文:谷頭和希/ライター・批評家】

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