「誰よりもサステナブルが好きな人」とご自身を表す西川明秀さん。アパレル素材に一貫して携わり、環境に配慮したサステナブルな素材開発に力を入れています。海外のブランドからも注目されている有限会社やまぎんと、ファッション業界におけるサステナブルの「今」について話を伺いました。
ADVERTISING
西川 明秀さん/有限会社やまぎん 代表取締役
1977年生まれ、大阪市出身。大阪の卸問屋での勤務を経て、2000年にやまぎんを創業し、2005年に有限会社化する。以来、一貫して服地の開発に携わる。SDGsが国連総会で採択されるよりも前、すでに2012年からサステナブル活動に本格的に取り組んでいる。2021年に環境に配慮した洗濯可能な医療用ガウン向け素材や廃棄物0を目指した素材ZERO-TEXⓇを相次いで開発し発表。国内に東京本社と大阪オフィスを、海外には上海とシリコンバレーに拠点を構える。
普通の生地は一切作らない。サステナブルにこだわる生地屋さん
― まず、有限会社やまぎんのビジネスがどのように展開されているのかお聞かせください。
主にアパレル向けの生地を開発しています。ですが普通の生地は一切作らず、特別な効能や性能、プラスアルファのある素材だけを作っています。僕らは生地屋さんですが、ほかの服地メーカーとはまったく違う考え方で進めています。
― そもそも服地素材の世界、ファッションの世界で起業されようと思ったのはなぜですか?
起業する前は、大阪の卸問屋で4年半ほど働いていたのですが、あるとき急にお客様に「お前が新しい会社を創ったら、そこから買ったるよ」と言われました。22歳の僕は勢いのまま、その場でそれまでの会社を辞め、新しい会社を創る決心をしました(笑)。そのお客さんは、当時、僕らがやっていたデニム製品を採用してくれて、その後も3年くらいデニム製品を通じたお付き合いが続きました。
― そうした経緯から、次第に「ネットゼロ」「サステナブル」のビジネスに目を向けることになった出来事やきっかけを教えていただけますか。
2012年に、アウトドアウェアの「パタゴニア」を英語サイトの記事で初めて知りました。10年以上も前からペットボトルから自社商品を作っているというのがすごく面白かったのです。何回も繰り返し読んでいるうちに「これを僕らが絶対、やらなあかんよね」と感じました。まだ、リサイクルやサステナブルという言葉もなかった頃のことです。翌年の2013年4月にはリサイクルポリエステル製で製品化して、2013年の秋冬にデビューさせましたが、当時はまったく売れませんでした。
もうひとつきっかけとなったのは、漁網に絡まってる亀の映像をいろいろなところで目にしたことです。ちょうど2015年に国連でSDGsが採択された時でした。それを見て、「この漁網を解決するぞ」と思いました。その頃から、環境を変えたい、将来のためにいろいろなことをしたいという気持ちがありました。
― ご自身のパッションに時代が追いついてきた?
追いついてほしいですが、現状は、なかなか追いついていません。僕らはどんどん進んで、切り拓いていくという気持ちでサステナブルと向き合っています。
日本のファッション業界におけるサステナブルトレンド、現在地は?
― 10年経って、今のサステナブルトレンドの現在地、特に繊維業界やファッション業界の世界的な動向や日本の現状、各国との比較について、西川さんの視点からお話しいただけますか。
サステナブルという言葉自体、世界的にはもう前提になっています。僕らのファッション業界でも「リサイクルできないものは販売しない、作る段階でそれを意識する」のがスタンダードな流れです。欧米のお客様と話しても、リサイクルポリエステルとかリサイクルナイロンとか製造プロセスだけでなく、使われた後もリサイクルできるかどうかが大切だと言われます。もしくは、普通になくなっていく「生分解」できるもので作っているか、というのが世界のスタンダードになっています。
逆に、日本は今でも「リサイクルポリを使えばいいだろう」「回収もお店に箱を置けばいいだろう」というやっているふりの「なんちゃって」状態にあります。今、日本で一番リサイクル回収をしているのは海外ブランドで、1年間で1079t集めています。日本はまだまだ追いつけていないし、追いつくことは難しいかもしれない。けれど、チャンスはいっぱいあると思います。
例えば、環境省によると国内では年間25億着もの服が販売されていて、総人口で割ると1人あたり1年間に18着、服を買っている計算になります。一方で、1年間に12着しか廃棄されず、家には1年間に1度も着られていない洋服が25着も眠っていると言われています。さらに、輸入総点数は、2020年時点で35億着と言われていて、売れていない分が相当数あるわけです。でも、誰もそれについて声をあげません。これが日本のサステナブルの取り組みを遅らせている原因だと思います。
― なるほど。西川さんはアメリカのパタゴニア社から影響を受けたそうですが、そのほかに学ぶことの多い企業やベンチマークにしている企業あるいはブランドなどはありますか。
僕は、ファッション業界の中ではなく、スウェーデンのビジネスモデルがすごく面白いと思っています。彼らはドイツからお金をもらってゴミを輸入しています。そのゴミを分別処理して、エネルギーに変えたりリサイクルしたりして、サーキュラーエコノミーを完成させているのですが、これはファッションでもできることだと思います。
あとは、フランスの取り組みも見ています。民間も国もESG投資以外の投資はできない、しないというのがスタンダードになっています。また、投資先のほとんどがスタートアップです。
ASEANの工場づくりからも学ぶことは多いです。今後、ASEANの人口はどんどん増えるはずですから、そういう国々が今後どういった動きをしていくのか興味があります。
日本の企業ですと、トヨタですね。ディーゼル車が主流のヨーロッパで環境負荷の少ないクリーンディーゼルを押し始めた時、ディーゼルを持ってなかったトヨタはクリーンディーゼルにはいかず、そしてEV車でもない水素自動車に向かいました。なぜかというと、エンジンにすごくこだわっているからです。ハイブリットより環境にやさしいエンジンを作るという自分たちの信念を曲げませんでした。
― そういう意味では今、ほかの自動車メーカーがトヨタの言い分が正しかったと言っている記事を見ます。やっぱり独自の哲学、主義主張をもって貫くのは重要なのでしょうか。
そうだと思いますね。自分たちは何をやっているのか、ポジションは何なのかをはっきり理解していないと厳しいと思います。僕らは、生地屋ですけれど、世界中のファッションのサステナブルの考え方を変えたいと本気で思っています。僕らの会社規模で、名だたるグローバルなブランドのサステナブル担当と直接話すことは、普通あり得ないことですが、彼らに求められているからできる、と僕は思っています。
ちなみに、僕は服が好きで、先ほど1人あたり年間18着を買うと数字を出しましたが、その4倍くらいは買っています(笑)。だからこれからも服を買い続けたいし、買い続けるためにどうしたらいいか考えていきます。ファッションは楽しまなくちゃいけないですから。
環境にも人にもやさしく、無理をさせないサステナブルなZERO-TEXⓇ
― やまぎんが開発したZERO-TEXⓇ(以下、ゼロテックス)という新素材はどのようなものでしょうか。
ゼロテックスは、環境配慮を第一に優先した物作りをして、さまざまな効能がクローズアップされています。環境に、そして着た人に対してもやさしい素材です。マルチファンクションを謳っていますが、普通に着て、普通に過ごせる一方で、環境には絶対的にやさしいというのがゼロテックスの特徴です。
― マルチファンクションについて、具体的にどのような機能があるのでしょうか?
まず、撥水機能ですね。お客様からの要望が一番多い機能です。100回洗濯しても撥水効果が変わらないことと通気性を重要視しており、熱くなったりべた付いたりしない着心地が特徴です。いつも着ている洋服と同じ感覚で着られますし、レインコートの代わりに着用されることもありますね。でも、レインコートと違うのは、そのまま洗濯機で洗い、さらに乾燥機にも入れることができる、イージーケアな点です。
環境にも人にもやさしく、無理をさせないサステナブルな素材。
― つまり、ゼロテックスは素材単体を指すわけではなく、プロセスそのものを総称するわけですね。この「ゼロ」にはどのような意味が込められているのでしょうか。
人へのストレスや環境負荷をゼロにしていこうという意味です。ゼロテックスのカーボンニュートラル宣言では、2030年にゼロテックスの素材を作る際に、CO2排出量から吸収量や除去量を引いた結果をゼロにするという「ネットゼロ」を目標にしています。おそらく、生地を作る際、ネットゼロをやると言い切っているところはほかにないでしょう。ファッションで最もCO2排出が多いのは生地の生産なんですが、それをゼロにしようと僕は言いました。
― 具体的にはどのような取り組みが必要になりますか。
一番簡単にできることは、工場の電気をすべて再生エネルギーにすることですね。僕らは、廃棄や工場で残った生地を集めてそこから水素を作ろうとしています。そこから電気を作って工場を回して、アパレルから出たゴミで再びアパレルを作るという循環システムを構築していきます。
― エネルギー再生のほかには、カーボンニュートラルや水の汚染ゼロなども?
もちろんです。今、僕らの取り組みのひとつに排水ゼロがあります。家庭では難しいですが、クリーニング店に提案して、排水ゼロで洗剤ゼロのシステムを導入してもらおうとしています。今年くらいから実証実験が始まります。
― 生地にも汚れが落ちやすい特徴をもたせているのですか。
今の技術ですと、すでに洗剤がなくても汚れを落とすことは可能です。しかし、生地の耐久性や色落ちに問題があります。それに対応した生地がゼロテックスです。僕の理念の中には、水があって緑があって地球があるので、水をきれいにしないと地球はきれいにならないという考えがあります。僕らのシステムではクリーニング店の実験で、排水を塩素などで処理する必要がないことが実証されています。ゴミを取るフィルターしかなく、水を循環させるだけなのです。
― おもしろいですね。ゼロテックスは、グローバル企業ともご相談をされているそうですが、今後はどのようなカテゴリでの活用を期待しますか。
一番使ってほしいのは、ユニフォーム衣類です。CO2排出が少ない素材なのでどんどん使えます。また、商品を回収して水素に変え、再生エネルギーに活用できるので、使う前から使った後まで、僕らがすべて面倒をみてサーキュラーエコノミーを完成させることができます。作った電気や再生エネルギーはネットゼロになるので、企業が目指すカーボンニュートラルやネットゼロの助けにもなるのです。ユニフォームを置き換えるだけで実現します。自然を愛する方にも使っていただきたいですね。
― 最後に、御社の今後の展望についてお聞かせください。
まずは、ファッションを楽しもう!ということを堂々と言いたいです。ファッションは環境的に悪だと言われることが多いので、僕たちが変えていきたいですね。また、廃棄アパレルはゴミではなく、エネルギーにしていけるものだということを訴求していきます。ファッションを楽しむために僕らは全力で挑戦していきます。
― 読者の方々に向けて、ファッションを楽しむためのTipsがあれば教えてください。
長く着るもの以外は、タンスにしまいっぱなしにしないでください(笑)。どんどんいろんな服を着てもらいたいですし、僕らが再生エネルギーに変えるので、家に服を溜め込まずBIOTECHWORKS-H2などに持ってきてください。好きな服を好きなときに買いましょう!
― ありがとうございました。
生産プロセスで環境に大きな負荷がかかるファッション業界において、サステナブルはもはや「待ったなし」の状況です。ゼロテックスがもたらす環境や人に対する「ゼロ」の効能は、これからさまざまなシーンで実力を発揮するでしょう。海外企業の取り組みをいち早くキャッチアップし、先んじて取り入れる西川さんの視線の先には、どのような世界が広がっているのか──次の一手にも大きな期待を寄せたいと思います。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【NESTBOWL】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング