墨で一気に描き上げたスタイル画を真骨頂とするファッション・イラストレーター、森本美由紀(1959~2013)。1980年代から2000年代にかけて活躍した彼女の回顧展となる『伝説のファッション・イラストレーター 森本美由紀展』が東京・文京区の弥生美術館で6月25日まで開催されています。
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岡山県津山市生まれの森本美由紀は、「コム デ ギャルソン」の川久保玲、「ヨウジヤマモト」の山本耀司、「ピンクハウス」の金子功、「ユキコハナイ」の花井幸子ら、日本を代表するデザイナーや芸術家を数多く輩出してきたセツ・モードセミナーに1979年に入学(2017年4月閉校)。日本のファッション・イラストレーターの草分け的な存在であるスタイル画の第一人者、長沢節のもとで学び、在学中にイラストレーターとしてデビュー。以後はフリーランスのイラストレーターとして、エディトリアル、広告を中心に幅広く活躍してきました。没後10年が経ちますが、モードな感覚を墨で描いたファッション・イラストレーションは今なお他の追随を許さず、デジタルでイラストを描くことが主流になった現代において、森本の筆と墨を用いた一発勝負のアートワークは注目を集めています。
そのアートワークを楽しめる本展は、セツ・モードセミナーで学んだ画学生時代、1980年代のカラフルな作品から筆と墨を使ったドローイングへと移行する過程を原画193点と多数の資料で紹介。どのような変化を辿ったのかを知ることができる内容になっています。
初期にあたる1980年代の作品は、カラフルな色彩で描かれたペン画が中心。伝説の少女雑誌『Olive』(1982年創刊/2003年休刊)やファッション誌『mc Sister』(1966年創刊/2002年休刊)、『an・an』などにイラストを描き、おしゃれな画風で人気を博しました。ここでは、代名詞である墨のアートワークとはまた違った、アメリカンテイストのキュートな作風を楽しむことができます。
そして、1990年代からは画風が大きく変化。1950~60年代の『VOGUE』のスタイル画家のイラストに影響を受けた<筆と墨を使ったドローイングスタイル>を完成させました。彼女のファッション・イラストレーションは、ファッションの雰囲気やイメージを伝える服そのものを見せる絵ではなく、女の子のなりたいイメージを具現化したもので、その高いファッションセンス、確かなデッサン力が支えた無駄のないシンプルな線、引き算の美学で描かれたスタイリッシュな作品は他分野のクリエイターの感性を刺激。音楽グループ「ピチカート・ファイヴ」とのコラボレーションを皮切りに、“渋谷系“ミュージシャンのCDジャケットにも数多くの作品が起用されました。その他にも、パンフレット、映画のポスター、フライヤーなどの仕事を手掛けており、墨一色ではなく、墨とカラーによるアートワーク作品も見ることができます。
2000年代には松屋ギンザなどの広告、ユニクロやマークス(ステーショナリー・雑貨メーカー)などの商品展開も盛んに手掛け、海外の雑誌でも活躍。その当時の作品である『コスモポリタン』フランス版によせたイラスト、ファッションブランド『スプンティーノ』のコレクション広告原画なども展示されています。また、本展ではこれらの作品以外にも、津山アトリエから発見された、作家の心の軌跡が窺える新資料も初公開。より深く彼女について知ることができるでしょう。
学生時代から“森本ワールド”に至るまでの作家の軌跡、活動を知ることができる本展。今なお魅力的で、ファッションも楽しめるおしゃれなスタイル画の数々は一見の価値ありです。
TEXT:金子裕希
【INFOMATION】
『伝説のファッション・イラストレーター 森本美由紀展』
会場:弥生美術館
会期:2023年4月1日(土)~2023年6月25日(日) ※休館日:月曜日 ただし5月1日(月・祝)は開館
時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30前まで
公式サイト:https://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html
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