住宅の金属屋根の修理をメインに行うウチノ板金。「和國商店」というブランドを設立し、習得に長い年月と経験が必要な建築板金の技術を、折鶴やアニマルヘッドの壁掛けに活かして世界へ発信している。時を経て磨かれる技術のように、エイジングによって金属特有の渋みを感じることができる作品には、人手不足や職人たちの未来を見据えた想いが込められている。先日、隈研吾氏とのプロジェクトを発表したばかりのウチノ板金 代表取締役の内野友和氏にインタビュー。
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内野 友和さん / ウチノ板金 代表取締役
高校卒業後、父・國春のもとで建築板金の修行を開始。2014年株式会社ウチノ板金の代表取締役に就任。和國商店を設立し、建築板金の技術でつくられた折鶴やペーパークラフトブランド「Oxygami」とのコラボレーション作品を手掛ける。
父のもとで磨いた建築板金の技術
ー 内野さんのお仕事について教えてください。
祖父が板金の仕事をはじめて、父が「ウチノ板金」を立ち上げました。3代に渡ってこの仕事をしていますが、ウチノ板金としてはわたしが事業を引き継いで2代目になります。主な仕事内容は、板金と呼ばれる金属の薄い板を使った、一般住宅の屋根の工事や雨漏りの修理。雨樋(あまとい)と呼ばれる屋根に落ちた水を地中に流す装置の修理や、建物の外壁の修理も行なっています。BtoCがメインで、ウェブサイトやオフラインの展示会で集客し、地域に住んでいる人から直接仕事を受けています。
子どもの頃はテレビ関係の仕事に憧れていましたが、高校卒業を目前にして父と一緒に仕事をしようと決意。とりあえず父の仕事を手伝ってみようという気持ちで建築板金の世界に飛び込んだのですが、想像以上に覚えることも多く、技術を習得するには長い時間がかかるな、と思ったのが正直なところです。
技術はもちろんですが、気温の厳しさも実感しました。夏場は屋根の上が60度以上になり、冬場は寒い。とくに夏場は暑さから逃げられず、屋根に上がったら20分が限界なので、極力仕事量を調整しながら過ごしています。
ーウチノ板金では「和國商店」という屋号で、板金でつくられた折鶴の販売も行なっています。つくりはじめたきっかけを教えてください。
父が北海道へ旅行に行ったときに露店で銅板でできた折鶴を見つけて、お土産で買ってきてくれたのが最初の出会いです。興味本位で平らにバラしてみたところ、自分たちの技術が活かせそうな構造でした。地域のお祭りや会社のPRで板金の折鶴が配られることはよくありますが、販売している人はほとんどいません。職人の技術がたくさん詰め込まれているのに無料で配られているのはもったいないと思い、「和國商店」というブランドを立ち上げ、販売してみることにしました。
「和國商店」の名前の由来は2つ。ひとつは「和の国に日本」として、日本の職人さんの文化や技術を発信していきたいという想いがあります。もうひとつは、祖父の名前「和一」と父の名前「國春」の頭文字。先代が続けてきてくれた感謝の気持ちを込めています。
また、屋根の上で作業をする労働環境なので、職人さんが引退する年齢もほかの業種に比べて早い。巧みな技術をもつ職人さんの次のキャリアにつながるブランドにしたい、という思いもあります。
ー どのような方が折鶴を購入されるのでしょうか?
板金の折鶴は、ハンドクラフトが集まるグローバルオンラインマーケットで販売しています。ウェブサイトは英語に対応していますが、とくに海外に向けて広告を打っていないのにも関わらず、6〜7割がアメリカやヨーロッパ、東南アジアなど、海外からの購入です。
以前、オーストラリアの方から「自分が建てた新築を販売するときに、階段の吹き抜けに折鶴をシャンデリアのように飾りたい」と、100羽のオーダーがありました。下からライトアップすると、光の反射でキラキラして、ゲストが喜んでくれるみたいです。
日本の伝統と平和の願いを世界へ
ー グローバルにビジネスを展開する理由や、世界を目指すモチベーションを教えてください。
とくに建築業は、職人さん不足が深刻。わたしみたいに身近で仕事を見ていた人がほとんどで、外から新しく業界にチャレンジする人が少ないんです。それでも屋根屋は、今後も社会で必要とされる仕事。台風や地震などの自然災害が起きたときに、メディアで建物がブルーシートに囲われた様子を見たことがある人もいると思いますが、それはほとんどわたしたちが屋根や雨漏りを修理しているんです。
人手不足の状況で職人さんを増やすためには、着眼点を変えていかなければなりません。稼ぎだけでなく、やりがいや会社の持続性を考えている人も多い。横並びで同じようなことをやっている会社ばかりのなか、世界に向けておもしろいことをやっている会社なら目立つだろうな、と考え、海外に目を向けるようになりました。実際に、折鶴の存在を知って、飛び込んできてくれた若手もいます。建築とは離れている人も、アートの分野から職人を目指したり、屋根屋に興味を持ってくれるといいですね。
ー 海外で折鶴のワークショップを行なっています。参加した方のリアクションはいかがでしたか?
芸術の発信地であり、「OXYGAMI(オキシガミ)」というペーパークラフトをやっている仲間が住んでいることからパリに親近感を持ち、銅板の折鶴のワークショップを開催しました。6〜80歳まで幅広い年齢層の方が集まり、横でわたしたちがレクチャーしながら折鶴をつくっていきます。
ワークショップは、折鶴について説明するところからはじまります。広島で被爆した少女が、回復を願って折り紙で鶴をつくったエピソードから、平和記念公園にはたくさんの折鶴が捧げられています。しかし、不審火で燃やされる事故があり、京都の板金屋さんが燃やされない鶴をつくるために銅板の折鶴が生まれたと言われています。今もヨーロッパの隣国であるウクライナで紛争が起こっている。遠い日本から、折鶴で平和を伝えたいと想いをお話ししました。
完成した折鶴の形は人それぞれですが、みんな喜んで持って帰ってくれました。みなさん感動してくれて、わたしたちもワクワクしましたね。「次はいつ来るの?」「次回は友達も呼んでくるね」というリアクションも嬉しかったです。
行動力で切り開く新たな道
ー 折鶴や和國商店としての今後の展開を教えてください。
フランスのパリをはじめストラスブール・コルマール、ドイツのハンブルクでのワークショップの反響がよかったので、今後も折鶴を販売しながら世界中でワークショップを開催していく予定です。小さなことかもしれませんが、わたしたちの技術や日本の文化で平和を伝えられたら、おもしろいなと思っています。
和國商店としては、地域の職人さんや建築に関わる職人さんが輝けるようなプロダクトを一緒につくっていけるプラットフォームになるのが理想。折鶴以外にも「オキシガミ」とのコラボレーションや、板金を使ったクリエーションを増やしたいです。板金の技術を伝えて、最終的には雇用につながるようなPRになれば、と考えています。
ー 先日、隈研吾さんとのプロジェクトが発表されました。どのような経緯で隈さんとタッグを組むことになったのでしょうか?
子どもの頃から遊んでいた「青葉商店街」という場所があります。当時は60〜70件の店舗が並ぶ活気溢れる商店街でしたが、現在は常時オープンしている店舗が少ないシャッター商店街になってしまいました。
さみしさを感じ、以前から不動産屋さんに相談したところ、いい物件を紹介してもらったんです。不動産は水物なので、状況が変わる前にひとまず契約。あとでどうすればいいか考えよう、と思っていたところ、1週間後に隈研吾さんと会うチャンスがありました。
隈さんと何回かお仕事をしている友人の板金屋仲間と土地のことを話していると、「隈さんと一緒にやったらおもしろそうだね」という話題になったんです。受けてくれないだろうと思っていたところ、その場に同席していた隈さんのスタッフさんが、なんとか調整してアポイントを取ってくれました。
たまたま隈さんが、別の板金屋仲間から「おもしろい板金屋がいるよ」と折鶴をプレゼントでもらい、わたしたちのことを認知していました。デスクの前に置いて眺めていたほど、技術に感動してくれたようです。5分間のプレゼンで牛のオブジェも写真で見せたりしていると、「すごいね、君」と言ってくださり、その勢いでプロジェクトがはじまりました。
ー 隈さんと手がけた建物が、街にとってどのような存在になってほしいですか?
隈さんの建築といえば、釘を使わずに設計された「地獄組み」のような木でつくられた建物が代表的ですが、ウチノ板金といえば板金なので、外装仕上げには木を使わない建物になります。隈さんとしても、クライアントも施主もわたしで、誰も間に介入せずに直接職人と仕事ができるおもしろさを感じてくれているようです。
青葉商店街は、駅と駅の真ん中にある、バスや自転車でないといけないような場所。パーマ屋さんや惣菜屋さんなどが数店だけ開いているようなところに、たくさんの人が集まるベンチマークにしたいです。人が集まれば、商店街にお店を開く人も増える。アクションの輪を広げ、街を活性化させていこうと目論んでいます。
ー 人手不足や事業の存続が心配されることも多い業界で、クリエイティブに展開されている内野さん。新しいことを生み出すために、意識していることを教えてください。
まずは、行動してみること。行動していくうちに、段々と道筋が見えてきます。わたしがウチノ板金に入ったときも、「とりあえず入って、そこからどうするか考えよう」という気持ちでした。変化の多い時代です、自分たちの仕事や将来のことは考えてもわかりませんし、またコロナのような状況がいつ起こるか予想できません。規模が大きいほど動くお金も大きくなり、たくさんの人を巻き込まなければならず、慎重になる必要があると思います。ただ、わたしたちのような中小企業は、やってみなければ何も始まらない。いろいろ計算して考えてから行動するのではなく、まずは行動に移すことを意識しています。
文:Nana Suzuki
撮影:Takuma Funaba
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