先日、1通のメルマガが届いた。発信元は「D1 Milano」(https://d1milano.com)。イタリアブランドの腕時計で、香港にあるアジア地域の統括部署から送られたものだ。通常なら商品の紹介情報やプロモーションだが、今回は切り口が違った。
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タイトルは「Green Code」。その名にあやかってか、Focus on GREEN CODE SIGNATUREのキャッチコピーで、緑のカラリングや素材を使用した4種の時計を取り上げている。題名を見て、こういう手法もあるのかと思った。機種の枠を超えてグリーンカラーの時計をラインナップし、環境に配慮するイメージを顧客のみならず、多くのステークホルダーにすり込みたいのだと思う。
タイトルにGreen Code、キャッチコピーにFocus on GREEN CODE SIGNATUREとつければ、メルマガを見る顧客も何となく「そうなんだ」と思ってしまう。そこが狙いなのではないか。D1 Milanoの真意の程を確かめたわけではないが、SDGsを意識したPRだと誰もが思うのは当然だ。
腕時計に使われている素資材はリサイクルできる。ケースやラグ、ダイヤル、リューズ、指針は主に金属や樹脂、風防はガラスやプラスチック、ベルトは金属やラバー、ナイロン、ムーブメントは金属や貴石だ。一方、D1 Milanoはムーブメントがクォーツ、価格帯が170~745ドルで、中価格帯のファッションウォッチになる。気軽に購入できる反面、飽きてしまったり故障したりすれば、修理されることはなくそのまま廃棄される可能性が高い。
ブランド側としてはそうした流れは変わらないにせよ、少しでもSDGsを意識し、循環型社会を目指す姿勢をアピールしたいのは本音だろう。では、実際にGreen Codeの国際認証はあるのか。気になったので調べてみると、確かに認証機関があった。行っているのは英国のロンドンから西に200キロほどのグロスターシャー州ストラウドに本拠を置く「Green Code The Global Sustainability Accreditation」という組織である。
HP(https://www.greencode.world)を見ると、活動内容が記されている。概要には「GreenCode は、サステナビリティへの道のりを歩む組織を引き続きサポートするため、消費者にあらゆる企業の環境認証を迅速かつ簡単に判断する方法を提供する」とある。つまり、企業の環境活動を支援し、消費者がそれを知ることができるようにする機関だ。
企業や組織がGreenCodeの認定を示すGCマークを使用すると、Green Code The Global Sustainability Accreditationの基準に合格するための十分な努力をしている証になる。認定された側はマークを12か月の間使用する権利を持ち、この期間中はメンバーとしてライブサポート、ワークショップ、その他の多くの特典を独占的に利用できる。
企業の活動は12か月ごとに監査され、GreenCodeの基準に達しない場合はGCマークを使用する権利が取り消される。認定を受けている企業や組織は、食料生産やエネルギーからスポーツチームや大規模製造業まである。再生可能なエネルギーの創出に取り組むEcotricity社もその一つだ。
同社はストラウドをホームタウンとするサッカーチーム「フォレストグリーン・ローヴァーズFC」をスポンサード。同チームは2022-23はEFLリーグ1の所属だが、現オーナーのデイル・ヴィンスによって買収された09-10シーズン以来、様々な環境保全活動を行い17年にはFIFAから「世界で最もグリーンなクラブ」として認定されている。
企業の中長期戦略の一つにしていく
Green Codeは、これからどんな位置付けになるのか。そして、日本の企業や団体もこぞって認定を受け入れていくのだろうか。国際基準という意味では、ISOがある。今や多くの企業が認定を受け、あまりに当たり前になったのか。最近は取り立ててアピールされることは無くなったが、参考にはできるかもしれない。
例えば、ISO9001(品質マネジメントシステム)を取得すると「企業としての信頼感や安心感がアップし、取引先拡大に繋がる」「組織のシステムが確立され、生産性が高まる」「人に依存せず品質を維持できる、従業員教育の効率アップが図られる」「継続的に品質が改善され、常にお客様からの信頼を得られる」「責任と権限が明確になり、従業員満足度がアップする」といったメリットがある。
また、ISO9001を取得していると、「国際基準をクリアした品質の製品やサービスをお客様に提供できる企業である」として、取引先から大きな安心感と信頼感を得られる。 ISO9001の取得を取引条件にしている企業もあるため、ISO9001認証を取得することは取引先の拡大につながると言えるのだ。
また、IOSには更新審査があるため上記のような業務改善を続け、常にPDCAサイクル(計画・実行・評価・確認)にそって、マネジメントシステムを正しく運用し続けると、製品やサービスの品質を高水準で保つことができる。つまり、企業にとってはISOは経営的にも、企業価値の向上にとっても非常に効果的だから、多くが取得に前向きになったのである。では、環境面での取り組みを客観的に判断するGreen Codeも同じようになるのだろうか。
企業は年頭にその年の経営戦略や経営目標を発表する。2023年はCO2や温室効果ガスの削減、カーボンニュートラル、循環型社会の実現と、言葉は違えどSDGsの一つである環境問題に取り組む姿勢を表明するところが多かった。SDGsは2015年に国連で採択され、30年までに持続可能でよりいい社会の実現を目指すための国際目標だ。17の目標と169の対象が定められ、どれも国際社会が抱えている深刻な問題で、目標達成に向けては待ったなしの状況と言えるからだろう。
それに企業がSDGsを考えず商品の価格やサービスの質で勝負し、利益のみを追求することは、社会やマーケットからは選択されないようになっている。短期的な利益を求める投資家ですら、SDGsを考慮しない経営スタイルは株価の低迷を招く非常に大きなリスク要因と見る。SGDsに取り組まない経営は証券市場からの資金調達をも困難にするのだ。
SDGsの各問題を解決するには、新たな視点や技術革新が必須になる。先に取り上げた腕時計では、You-Tubeなどでゴミ捨て場で拾ってきた錆だらけの「機械時計」を修理、再生する映像をよく目にする。配信元は精密機械技術の本場、スイスの工房もあれば、最近は中国の修理技術者もいる。
日本の時計専門店も、年代物のセイコーやシチズンの時計を修理する映像を配信している。電池式のクォーツ時計では電池交換には挑戦するが、錆が発生していたり、液漏れしていたりすると処置して電池交換しても動かないものもある。営業品目にクォーツ時計の修理を掲げるところもあるが、価格は国産で2~4万円、海外ブランドになると4万円以上もかかるので、そこまでかけて修理するお客がどこまでいるかだ。
メーカーや専門店の中には故障して使われなくなったクォーツ時計の回収キャンペーンを定期的に行うところもある。これをさらに進めて部材や部品を再資源化するようなリサイクルの仕組みを確立し、資源を供給する国に対し配慮していくことを大々的にアピールする必要があるのではないか。また、家電品と同様にクォーツ時計を販売する時点で、ある程度の価格のものはデポジット制を導入することも考えるべきだと思う。
まあ、セイコーはD1 Milanoに対しても自社のムーブメントを提供している。ムーブメントを国際基準化した汎用部品にし、メンテナンスや交換が楽にできるようにすることも検討すべきではないか。そうすれば、デザインが気に入ったファッションウォッチは機械式と同様に使い続けることができ、ブランド価値が上がるかもしれない。SDGsに対する注目度が高まっているからこそ、それはそれで時計メーカーにとっては新たなビジネスチャンスの創出になるのではないか。
交換可能なムーブメントを開発することは、確かに自動車の電動化と同じように表裏一体があるかもしれない。クォーツ時計が生まれた際にも時計店が儲からなくなったと言われたくらいだ。だが、SDGsに対し企業としての責任を果たす、社会に貢献するというイメージが向上すれば、技術を習得、伝承できることにひかれ、優秀な人材が集まってくるのは間違いない。技術者志望なら修理に耐えうる新しいクォーツ・ムーブメントを開発してみたいのではないか。
Green Codeの認証を受けるために、再生やリサイクルまで考えた企業戦略を構築する。それは社員が同じ目標に向かうことで一体感を生み、社内の意識統一にもつながる。これからは環境スタンダード(基準、規定)という新たな価値観がモチベーションの向上に欠かせなくなっていくのかもしれない。
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