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染色工場では今以上の小ロット生産が不可能であるという話

染色工場では今以上の小ロット生産が不可能であるという話

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー
南 充浩

繊維製品で今以上の小ロット生産を求められても対応できる機械が無いという話

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4月上旬から5月連休明けにかけて、久しぶりに岡山、児島、福山の各種工場を回らせてもらった。洗い加工場、整理加工場、染色加工場である。

今回、特に染色加工場についてなのだが、洗い加工場に比べて、導入されている機械設備がかなり大きい。洗い加工場の機械設備はどちらかというと小さい。

これは洗い加工場の出自が関係していると考えられる。ジーンズの洗い加工が原点であるため、極端な話、家庭用洗濯機と乾燥機くらいがあれば業務を開始することができる。ヒゲ加工やアタリ感加工もジーンズを台に置いて人間が手作業でこすればやれる。そのための必要なスペースというのは一畳程度で十分だろう。もちろん、現在はそんなことはないが原点がこれなので、現在の機械設備もそれほど大きな物は少ない。我々が日常生活で目にする程度の大きさの機械がほとんどである。

一方、染色加工場は染める物、その材質によっても機械設備は異なる(天然繊維と合繊では染まる温度が異なるため、また天然繊維でも綿、麻、ウールはそれぞれ染まる環境が異なるため)が、とりわけ生地染めの機械設備は我々の日常生活では目にすることがないほどに巨大で長大である。デニム専用のロープ染色機も同様に巨大で長大である。

根本的な理由は「生地は長い」からである。

出荷される際に生地は芯棒に50メートル分巻きつけられるが、生地染め染色工場ではこれを芯棒から外して伸ばす。1反は50メートルだから最低でも50メートル分の長さの機械が必要になるということになる。

しかし、1反だけ染めるというのは、恐ろしく非効率的なので染色工場はやりたがらないし、機械設備の稼働コスト率の悪さから考えると、染色工賃もアップチャージされてしまう。

だから、だいたい最低でも2~3反、通常なら10反単位というロット数が必要になってしまう。

生地を芯棒から外して伸ばし、染める分量だけ生地をつなぎ合わせて染色加工はスタートする。

ということは2反でも100メートルの長さになるわけだから機械もそれだけの長さが必要になるし、そもそも染色加工機は1反や2反の小ロット染を前提として製造されているわけではなく、例えば小さい物でも5反分くらいの想定で作られているから相応の長さが必要になってしまう。

生地染め染色加工場を見たことがない人はぜひとも一度見学してもらいたいと思う。

これほどに巨大で長大な機械設備が必要になるのかと驚いてしまうだろう。

生地染め染色工場でも規模の大小がある。それは何に由来しているのかというと、取引先の求める生産数量の違いである。

小規模ブランドが多い工場では自ずと小ロット生産が主体となるし、大手メーカーが多い工場は大ロット生産になるため機械設備も大型化する。

この格差はどうしても生まれる。工場の成り立ちや生い立ちの経緯はそれぞれ異なり、それに付随して生まれた取引先もそれぞれ異なる。

着目すべきは、小ロット生産主体の生地染め工場であっても、機械設備の大きさは最低でも5反くらいの数量を基準とした物を使用しているという点である。

そうなると、小さいとはいえ、我々が日常生活では目にすることのないほどに巨大な機械が必要になる。

現在、業界メディアでは異様なサステナブル推しで、そこに登場する自称他称含めた有識者は小ロット生産を提案する。業界メディアに登場する業界有識者であれば、いくらポジショントークをしようともある程度は内情も理解しているし、業界内での仕事もあるので、呆れるほど極端なことは言わないし言えない。

問題は、業界外のイシキタカイ系自称他称含めた有識者の論調である。

工場の設備など見たことも無いから、1枚から作れとか1反から製造しろとか言いたい放題である。これがマイナーな存在なら構わないが、なまじメジャーな存在でメジャーなメディアで拡散されるから厄介である。

話を生地染め工場に戻すと、小ロット生産を中心にやっているならもっと小規模な機械設備を導入してみてはどうかという意見もあるだろう。

しかし、現状の機械設備よりも小さい機械設備というのは製造販売されていないのである。じゃあ、そういう新商品が製造販売されるのかというと、その見込みはほぼ無いというのが工場側の冷静な見方である。実際に某工場の社長も「これ以上小さい機械が無いんですよ。メーカーも作ってないし開発もされていない」と言う。

理由は売れないからである。

需要が無い物をわざわざ作って販売する馬鹿な会社はこの世に存在しない。また、染色加工機なんて物は需要を新たに創造して開拓すべき市場でもない。

染色加工機に限らず、繊維の製造加工に必要な機械は年々製造販売が絞られており、現在では修理用の部品すら手に入りにくい品番が珍しくない。

そんな状況で「わざわざ」超小ロット用の染色加工機を企画製造販売しようなんていう物好きな機械メーカーは世界のどこにも存在しない。

だからこれ以上の小ロット生産は生地染め工場には不可能である。

まさか、明治以前のように手作業で人海戦術で1反ずつ染めろとでもいうのだろうか?

以前、インターネット中継に出演させてもらった際、「全人類が古着を着るようになれば解決する」と言い放ったイシキタカイ系業界外有識者がいたが、古着しかなくなってしまえば、その古着もいつかは着古して廃棄することになり、新品は作られていないのだからその際に新たな古着が供給されることは無いのだがその辺りは全く考慮していないのだろうか。呆れ果ててしまった。

全般的にこのようなイシキタカイ意見が多いのだが、生地染め工場に限らず、全工程において現状よりもさらに小ロット生産することは機械設備の供給から考えても現状では不可能であるということを業界有識者は広めるべきだろう。

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