ボス(BOSS)の2023年春夏キャンペーンブランドアンバサダーに大谷翔平選手を起用し、大きな注目を集めたドイツの「ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)」。従来のイメージからさらに洗練され、より幅広い世代に愛されるブランドに変革を遂げたヒューゴ ボスの日本法人を牽引するのが、イケアやラルフローレンなどで手腕を振るってきた比留間 育洋 代表取締役社長だ。実はキャリアのスタートが飲食だという比留間氏に、ご自身の経歴やヒューゴ ボスの可能性についてお話を伺った。
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比留間 育洋(ヒルマ・イクヒロ)さん/ヒューゴ ボス ジャパン株式会社 代表取締役社長
高校・大学時代をアメリカで過ごす。帰国後、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに入社し、飲食事業の立ち上げを経験。イケアグループの飲食部門の統括、イケア ジャパンの経営陣の一員として店舗運営業務に従事。ラルフローレン株式会社のバイスプレジデント、アディダス・ジャパンのバイスプレジデントを経て2022年より現職。
アメリカで学んだリーダーシップと、「衣・食・住」のキャリアで培ったノウハウ
―比留間さんご自身のキャリアについてお聞かせください。
アメリカ留学をしていた大学時代に現地のキャリアフォーラムで就職活動をしました。そこで銀行や商社など日本企業数社から内定をもらいましたが、面接が進むうちに「自分は日本企業に染まれない気がする」と感じて、結局すべて辞退して何も決めず帰国したんです。それで日本のキャリアフォーラムに行ったときにちょうどユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)が上陸するタイミングで留学生の採用枠を出していて。「面白そう!」と応募して飲食部門で採用されました。実はキャリアのはじまりは飲食だったんです。入社後は、飲食部門の立ち上げから運営、人材育成などを経験しました。
―ご経歴では高校がフロリダエアアカデミーとのこと。当時パイロットを目指していたとか?
それがそういうことでもなくて(笑)。中学の頃、漠然とアメリカに行きたいと思うようになって両親に相談したら、「学校をいくつか選んでくるから、そのなかから選ぶならいい」と言われて。ある日、父親が学校案内を見せてくれたのがフロリダエアアカデミーでした。軍隊の部門がある普通の学校だと思っていたら、民間軍事寄宿学校で(笑)。そこで3年間みっちりリーダーシップについて学びました。
―とてもユニークなご経歴です。アメリカでの経験はUSJでも活かされたのでしょうね。
いずれは経営に携わりたいと思っていたのでアメリカで経済を学び、その土台もあったので、USJに入ってからは店舗をどう経営していけば利益が出るのか、従業員が満足いくのかということに注力しました。4年ほど経った2005年、イケアが日本上陸するタイミングに1号店のオープンで飲食事業の募集があり、飲食部門の統括者として転職しました。イケアでは自営で飲食店を開けるほど、行政の手続きなどすべてのポイントに携わりました。飲食部門は母体となる家具のイケア・ジャパンとは異なるグループ会社だったのですが、1号店をオープンして、そのあと神戸と大阪の2店舗をオープンした頃、母体のイケア・ジャパンの店長としてオファーをいただきました。飲食でのキャリアしかなかったので不安もありましたが、リーダーシップを評価され、大阪の4号店の店長に就任しました。イケア・ジャパンの店長は一つの会社を運営していくような仕事でしたね。最終的には横浜の港北店の店長を担いながら、イケア・ジャパン全体のマネジメントの職務にも就きました。
―もともとファッションがルーツではなかったのですね。
いわゆる専門的な勉強をしたり、ファッションが大好きでずっとブランドを渡り歩いてきたりしたわけではありません。USJとイケアで飲食、イケアで家具、それからラルフローレンに移って、結局気がついたら「衣・食・住」のすべてをやっているんですよね。
―イケアからラルフローレンへのキャリアチェンジは大きなチャレンジだったのでは?
飲食から家具のときもそうですが、ファッションへのキャリアチェンジは大きな変化でした。自分がスペシャリストとして豊富な知識を持ちリーダーシップをとれるわけではないので、組織として個々の器量を信頼し、マネジメントすることに注力しました。私のリーダーとしての動き方は、ビジョンに対してどうチームを引っ張っていくか。ハンズオンでやるというより、一緒に働く仲間を信じて、その人たちの器量に任せる。それで負けたら仕方ないと思っている。アパレルのスペシャリストでもないし、家具のスペシャリストでもないからこそ、ある意味万能なのかもしれません。経営のノウハウを知っているというところが、私の唯一の強みなので。
大谷翔平の起用でさらに加速する「ヒューゴ ボス」の日本での認知拡大
―ヒューゴ ボス ジャパンという企業についてお聞かせください。
現在、グローバル展開は132カ国。直営店は470店舗あり、7400ヵ所の販売拠点を持つ世界的プレミアム・ファッション&ライフスタイルブランドです。売上は非常に好調で、サステナビリティの観点からしても貢献度が高く、世界的規模のブランドを擁する企業であることは自信を持って言えます。一方で日本においてはまだまだ認知度が低く、私も含めてですが日本で働いている人材を含め、本来のブランドの価値に触れられていないと感じています。昨年の国別の売上ランキングで日本が17位だったことから、他ブランドと比較しても日本市場の順位は低い。日本は市場としてTop5に入るほどの可能性があるマーケットなので、成長の可能性は大いにあると感じています。
―最近ではファッション感度の高い層がボスを着ていて、ブランドが変わってきていることを感じます。
約2年前、本国のマネジメント層が変わり、ブランドのリフレッシュ(刷新)を行いました。ブランドロゴの変更から幅広い世代にターゲットを変更して、アイテムではスーツ以外のセットアップアイテムやカジュアルなラインナップが非常に増えています。
―好調な要因として、アンバサダーの大谷選手の影響は大きいですか?
もちろんブランド認知が高まった大きな要因の一つです。競合ブランドと比べて認知が低い日本市場に、大谷選手をアンバサダーに迎えたことでブランドを知らない人やファッション関心層ではないお客様の認知が高まりました。非常に大きな影響を与えていると感じています。彼自身もアンバサダーに就任したことで、今まで以上にファッションに興味がでてきていると感じますし、ボスというブランドをさらに好きになってくれています。
―比留間さんも実際にお会いされたのでしょうか?どのような印象でしたか。
撮影でご一緒させていただきましたが、一言で言うと“好青年”ですよね。メディアでとりあげられているそのままの印象でした。WBCが盛り上がりを見せたタイミングだったことも大きいですが、彼は確実にブランドの認知に貢献してくれている存在です。
―今後の日本市場における計画とは?
まさに今5ヵ年計画をプランニングしているのですが、計画では5年後に現在の売上の2.5倍を目指しています。これは大きな風呂敷を広げているだけではなく、世界的なブランドとして日本市場を見たときに本来あるべき規模まで持っていきたい、そこまでもっていく必要があると感じています。単純に店舗を数多く出店すればいいというやり方ではなく、この5年のなかでボスというブランドを日本の人たちに向けて、我々が理想とするプレミアム・ファッション&ライフスタイルとしてのNo.1ブランドとなれるよう浸透させていきたいと考えています。
今、どのオケージョンでボスを着る、というイメージがあまりないんです。たとえば前職でいたラルフローレンであれば、「子どもの入学式といえばラルフの服」。「40代のキャリア女性はマックスマーラのコート」といった風に、ブランドの代名詞的なものが少ないのは事実です。「ヒューゴ ボスといえば◯◯ 」というオケージョンを想像できる、そういった認知を日本のマーケットで獲得していきたいです。
―日本市場を拡大するためのチャレンジの5年ということですね。
いろいろなブランドがあるなかで選択肢のなかに「ボス」や、より革新的なラインである「ヒューゴ」が入ってくるようなイメージを目指しています。逆に言えば、今までイメージが植え付けられていなかったぶん、好きなように広めていけるという面白みもあると思います。私自身はこれまでのビジネスで、緩やかだとしても売上を上げてきた経験があります。ブランドの本当のポテンシャルを感じている人が少ないなかで自分たちの手でブランドを大きくさせていく実感をつくり、成功体験をさせてあげたい。将来的にはボスやヒューゴというブランドを通して、さまざまな場所で活躍できる人材を育てていきたいと思っています。
―働く人たちにとっては、ブランドを大きくしていく貴重な体験ができるということですね。
ヒューゴ ボス ジャパンを大きくしていくことで将来的にもファッションに精通したキャリアを形成できると思います。私がヒューゴ ボス ジャパンに来てやることは、そのすべてを請け負うことであり、このポジションを私が去ったときに私以上に優秀な人材を残していきたいと思っています。
求めるのは、起業家精神を持ち、“動機”を持つ人
―どんな人材を求めていますか?
起業家精神を持った人です。すでにその精神を持っている人もいるだろうし、これから経験して培う人もいると思います。けれど、どちらでもよくて。今ブランドとして成長しているから働きたい、ではなくて「この会社をどう大きくできるのか?」、自分で考え自分で動ける人を求めています。
―ご自身も異業種からでしたが、そこはどのように考えていますか?
マインドセットはどこの業界だからといって、あまり変わらないと思っていて。私自身が飲食からのキャリアですし、経験がなかったとしても、根本のところがわかっていればいいんです。むしろそういう人たちがいたほうが可能性が広がると思っています。ファッション業界に限らず、社会人として高い志と夢を持っていることが重要で、どんなことでもいいので明確な“動機”を持っていること。動機とモチベーションは結びつくものではありません。仕事の動機って、自分で決められることなんですよね。仕事になると、どうしても小さい世界で自分をどうみせるかばかりを考えてしまいがちですが、「自分が社会人としてどうなりたいか」という動機を持っていれば、セルフスターターで動けますし、それこそが起業家精神につながると思います。
―比留間さんご自身の仕事の動機とは?
私は常に働く上で明確な動機があります。自分が社会人になって働いてきて、今までのキャリアで自分を育ててくれた方や自分にチャンスをくれた方がいました。永遠の自分の課題として、どうやったら私自身がもっと人を成長させることができて、より素晴らしい経営者やリーダーを育てていけるか、ということです。プライベートな趣味においても動機を持っていて、趣味のゴルフでも、アマチュアの選手としてここまではやりきりたいという目標を持ち取り組んでいます。
―非常に監督的な考えです。
海外にいた立場として、日本人というのはやっぱりとても優秀なんですよね。近年スポーツの世界では日本人がどんどん活躍していますが、その点ビジネスの世界では外国に行き、その国の企業で社長をやるというようなケースってあまり多くないと思うんです。日本人はビジネスにおいても大きく海外で活躍できるチャンスがあると思いますし、そういったケースがどんどん広がっていけばいいなと思います。
―最後にメッセージをお願いします。
会社の人でも店舗の人でも、もっと知ってほしいことがあります。自分がどういうところに興味があって、どんなところに長けているのかということをもっともっと知ってもらって、自分はこれだけは負けない、これで生きていくといったことを極めていってほしいです。すべてできる人なんていないですし、私自身もできないことばかりだからこそ皆がサポートしてくれている。自分がこれだけは負けないということを知らないのは、とてももったいないことです。「お金を残して三流、仕組みを残して二流、人を残して一流」という言葉がありますが、私はいつもこの言葉に立ち返るようにしていて、難しいですが常に一流を目指していきたいと思っています。
―ありがとうございました!
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