モノの価値だけではお客さまの心に響かない、精神的な豊かさが求められる時代へシフトした2000年代以降。「モノからコトへ」という考えは、ホテル業界においてもその傾向が今後ますます加速するといわれている。そのような時代背景の中で、日本一インパクトのあるプールホテルとして2023年8月に誕生したのが約1万平米の敷地面積を誇る「BOTANICAL POOL CLUB(ボタニカルプールクラブ)」だ。過去の実績はなし、コロナ禍で起業したにも関わらず成功に導いた秘訣はどこにあるのか。日常では味わえない圧倒的スケールの異世界体験にフォーカスした「尖った仕掛け」について、株式会社VALM代表取締役の北原耕太郎さんにお話をうかがった。
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北原 耕太郎さん/株式会社VALM 代表取締役
横浜市出身。学生時代から「街づくり」「場づくり」に興味を持ち、大学卒業後は湘南レーベル株式会社に入社。不動産事業部でのシェアハウス立ち上げ、そして社長の右腕という経験を重ね、不動産流通の仕組みや会社経営に必要なスキルを養う。さらに配属されたホテル事業部では現場での活躍が認められ、統括部長として経営企画・販売戦略を担当。2021年に株式会社VALMを立ち上げ、不動産に関するコンサルタント業務やホテルの経営および施設の企画、販売、コンサルティング、マーケティング、プロモーションなど幅広く手がけている。
究極の息抜き!主役は1年中楽しめる自由で贅沢なプール
─ ボタニカルプールクラブが人々の興味・関心を引きつける強みとは?
北原:僕らが大切にしているのは「〇〇なホテルをやりたい」ではなく、千葉の安房郡鋸南町に来たとき、何があれば人が喜ぶのかというファーストインプレッション。東京から車で約1時間という気軽な距離でありながら、東京では絶対に味わえない異世界を体験してほしいという思いを持ってスタートしたプロジェクトが、日本一インパクトのあるプールクラブでした。
中央の炎を囲うように、変形したヤシの木“フェニックスロベレニー”がシンメトリーに配置されている円形プール「SIGNATURE POOL」と、海を見下ろす全長40mのインフィニティプール「BLACK POOL」この2つのプールを中心に、プールサイドで食事を楽しんだり、キレイな夕日を眺めたり、ゲスト一人ひとりが思いのまま時間を過ごせるのがボタニカルプールクラブの特徴。一定の項目に目的をフォーカスするディスティネーションホテルとは違う「本能のままに、自由に過ごせる」ライフスタイルホテルです。
─ 具体的にどのような過ごし方がおすすめですか?北原:ボタニカルプールクラブのおもしろいところは、長閑な田舎の山上に現代的で非日常の贅沢な世界が広がっていること。「こんな場所にこんなホテルが!?」というギャップから体験が始まります。それこそチェックイン直後から寝る直前までずっとプール遊びが堪能できるのもプールクラブというテーマならでは。
もちろんプールだけでなく、プライベートな空間で仕切られたPOOL HOUSEでくつろぐ、ROOFTOP SEATでお酒や食事を楽しみながらサンセットタイムを特等席で鑑賞する、SWEAT LODGEでサウナ体験をする、さまざまな植物であふれるBOTANICAL AIR BATHで外気浴するなど、過ごし方は無限大です。プールから出た後、しょっぱいものが食べたいと思ったらフレンチフライを食べようとか、夕陽や星空を眺めながら会話を楽しむとか……目的を持たず、気の向くまま、本能のままに1日を過ごしてほしいですね。敷地内には300種類以上もの個性豊かな植物が共存していますので、目に映る景色や香り、音などさまざまな気づきもあると思います。チェックアウト後のお客様の日常へどれだけインパクトを与えられるか、その後のライフスタイルをアップデートするきっかけになってほしいという思いを突き詰めました。
─ 「冬もプールが楽しめる」と注目されていますが、ここについてはどうでしょうか。
北原:「プールクラブ」というコンセプトホテルが発信する「ホットプール」のコンテンツメーカーとしてゲストに楽しみを提供できたらと考えています。冬にプールは寒いと思われがちですが、冬場のプール温度を38℃前後に設定しているので実際はかなり温かいです。プールから出た後も寒くないよう、プールサイドにはパラソルヒーターを、POOLHOUSEにも暖房を完備しています。ゲストルームに用意されているバスローブも季節に合わせて素材を変えるなど、宿泊者目線のサービスも大切にしています。
そして何よりも「ホットカクテルを楽しみながら真冬に温かいプールに入る」という圧倒的な異世界感を味わってほしいですね。こんなホテルが日本にあるのか!と驚いてもらえる存在でありたいです。ありがたいことに冬時期の予約も埋まり始めているので、冬のプールに対する関心度の高さがうかがえますし、それこそ圧倒的な体験になると思います。
全21室のゲストルームもプールを意識
─ ゲストルームにはどのような工夫をされていますか?
北原:全21室のゲストルームは4タイプから構成されていますが、僕のおすすめは専用テラスでBBQが楽しめる「POOL TERRACE」。SIGNATURE POOLとBLACK POOLを見下ろしながら、その先にはオーシャンビューが広がるゲストルームです。他にもゲスト専用のプールがある2部屋限定の「POOL SUITE」、カジュアルで過ごしやすい「POOL CLUB ROOM」、小さなお子さまも楽しめるミニプールが付いたファミリー、ロングステイ、ガールズ向けの「POOL VILLA」があり、水着でくつろげるようゲストルームの床は防水仕様で家具もアウトドア用をセレクトしています。ボタニカルな香りが印象的なアメニティセットも、すべてオリジナルで作りました。
─ エントランスやレセプションもおしゃれな空間ですね
北原:エントランスに入ってすぐ、正面にある2m×4mの特大アートは千葉のアトリエを拠点に活動されている水戸部七絵さんの作品。ボタニカルプールクラブをイメージして描いていただきました。レセプションに隣接しているショップも、ビーチボールやルームウェアなどBPCオリジナルアイテムを展開しており、お客さまからも好評です。受付スタッフが着用しているユニフォームも自社のデザイナーがデザインしているので、そうした取り組みは他のホテルではあまり見られないかもしれません。
成功の秘訣は、最初から最後まで責任を持つ「人」としての「信頼」
─ なぜ実績がない中でボタニカルプールクラブを立ち上げることができたのでしょうか。
北原:ボタニカルプールクラブの構想を立てたのは、起業した2021年。学生時代からずっと興味があった「まちづくり」「場づくり」をやりたいという思いからでした。ゲストのライフスタイルへの影響力を持つ仕事ってホテルだと思いますし、あらゆる文化レベルを問われるホテルだからこそ「やってみたい」と感じたし、収益性も期待できると。もともとこの地には元は中学校、その後は大学のセミナーハウスが建っていたという背景があり、それゆえ山上なのにインフラがしっかり整っている。当時はコロナだったこともあり、不動産流通マーケットが不安定だったことは、アセットを持っていなかった僕らベンチャーはチャンスでないかと思いました。起業したばかりでしたが、企画・設計計画・収益計画の道筋を投資家様にプレゼンすることで資金を調達しました。とはいえ、会社としての実績がゼロという状況からでしたので「なぜ?」と聞かれることは多いです。前職でのコロナ禍のホテル運営成功や弊社取締役陣の強さも理由のひとつですが、我々は不動産の仕入れから、企画、建物の設計業務、プロジェクトのマネジメント、そして完成後の運営、広告戦略などホテルの開発に関わるすべてを行うという仕組み。最初から最後まで僕らが責任を持って行いますと伝えているので、「人」としての信頼・信用も大きかったと思います。
─ ボタニカルプールクラブの着想についてヒントになったホテルはありますか?
北原:オーストラリアのボンダイビーチにある「BONDI ICEBERGS CLUB(ボンダイ・アイスバーグクラブ)」や、バリの「ULUWATSU SURF VILLAS(ウルワツ・サーフビラ)」、メキシコの「PARADERO(パラデロ)」などからインスピレーションを受けました。これらに共通するのは、なにをとっても100点を目指す。というより、コンセプトに相応しい体験設計を徹底しているところ。ボタニカルプールクラブは「プールクラブ」としてのあり方をまだまだ追求しなければいけないと常に考えています。今後もどんどん新しいホテルがオープンしていく中で、テーマが明確なコンセプチュアリーなホテルが受け入れられていくんだろうと感じています。
異業種コラボで未来を切り開く
─ 個性あふれるプールを活かし、今後どのようなチャレンジをしたいと考えていますか?
北原:ぜひやってみたい!と考えているのは、ラグジュアリーブランドのファッションショー。例えばBLACK POOLはプールサイドの両端が20〜30㎝くらいの浅瀬になっているのでプールランウェイとして活用できます。SIGNATURE POOLも円形を利用したファッションショーが展開できそうですね。プールの中からゲストがファッションショーを観覧する、そんなコラボレーションが実現できたら面白いと思います。
─ ファッションショー以外にもやってみたいことはありますか?
北原:プールサイドでボタニカルを感じるアウトドアダイニングを振る舞うパフォーマンスや、フェスのような野外イベントにも興味あります。観光バスやフェリーなど交通手段を工夫すればできると思うので、今後はさまざまな企業と一緒に仕掛けていきたいですね。都心ではないこの地でハイクオリティを目指すというギャップがいい。ゲストのセルフブランドに寄与できたら最高です。
僕らのチームは、良い意味でみんな「ポジティブな遊び人」。訪れたホテルやレストランを真剣に見て、疑問やひらめきが生まれます。優れたサービスは実際に自分が受けないと許容範囲がわからないし、写真とリアルはやはり違います。そうした行動から今後もどんどん新しい取り組みを実現したいですね。
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