日本初となるIR(=統合型リゾート)の整備に向けて、大阪府とIR事業社が実施協定を結び、予定地となる人工島・夢洲(ゆめしま)での開業に向けて本格始動した。カジノ施設やホテル、国際会議場などで構成されるIRがもたらす雇用創出効果は大きく、その数はなんと近畿圏で約9.3万人と言われている。まさに大阪から日本が変わる──このプロジェクトを牽引するのは、「アジアNo.1の国際観光文化都市 大阪」を実現するために奮闘する大阪観光局理事長・溝畑 宏氏。日本を元気にすることをモットーに数多くのコンテンツを発信してきた溝畑氏に、IRが日本経済にもたらすインパクトについてお話を伺った。
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溝畑 宏(みぞはた・ひろし)氏/公益財団法人 大阪観光局理事長(大阪観光局長)
元観光局長官 大阪府・大阪市IR推進会議座長
1960年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、総務省(当時の自治省)に入省。2002年大分県企画文化部長。2004年大分フットボールクラブ代表取締役、2010年国土交通省観光庁長官。2012年内閣府参与、大阪府特別顧問、京都府参与。2015年より大阪観光局理事長を務める。
IRによって創出される雇用は近畿圏で約9.3万人。900種の職種と300種の新しい職種が創出される。
― 大阪IRの立役者と言われている溝畑さんですが、日本初となるIR実現の背景について教えてください。
私は2015年から公益財団法人大阪観光局で理事長を努めていますが、IRは2010年に国土交通省観光庁長官に就任したころから進めてきました。当時はシンガポールに世界最大級のIR施設が作られ、年間で2000億円もの営業利益を生み出したことが話題になりました。就任直後に着手したのは、まず“観光”という言葉を変えるということ。地域の総合的戦略産業として、日本各地にある素晴らしいコンテンツを、さらに磨き上げて世界に売り出していくことに注力しました。観光というものは本来お金をかけずともブランディングとプロモーションで十分に惹きつけることができるものですから、日本が誇る素晴らしく美しい四季や食、安全性、そして世界6位の海岸線など、国家戦略でやっていけば勝てるチャンスは大いにあると考えています。
2010年のインバウンド(訪日外国人)はおよそ800万人程度で、これを3000万人まで押し上げるべく観光立国推進本部を立ち上げました(※現在は廃止)。これは国土交通省観光庁だけではなく、全省庁で構成し連携を図ることで観光立国の実現に向けた推進体制を強化するもので、こうした日本を世界に発信するための重要なプロジェクトの1つがIRです。理由はまず民設民営であること。そして、これまでの日本にない複合型の観光産業であること、給料水準が高いこと。観光業は他の産業と比較して給与水準が高いという観光業を夢のある魅力ある産業にして優秀な人材を確保・育成するには、生産性、収益性を上げて給料水準を上げていく必要がある。大阪IRを通じて、日本の観光業のサービス向上を目指し、富裕層を取り込めるような体制づくりに重点を置いています。
― IRによる経済効果とは?
IRを核とした国際観光拠点は地域経済に多くの波及効果をもたらします。まず年間の経済効果でいうと約1兆1400億円、IRにより創出される雇用は約9.3万人に及びます。さらに、900種の職種と300種の新しい職種が創出されます。
― 具体的にはどのような施設ができるのでしょうか?
IRはカジノ施設のほかホテル、国際会議場・展示場、レストランやショッピングモール、エンターテイメント施設など、観光振興に寄与する諸施設が一体となった施設郡で、民間事業者による一体整備・運営を行います。大阪IRでは、6,000人以上収容する国際会議場施設などオールインワンのMICE拠点を保有します。これは観光立国の大きな起爆剤となる予定です。
― IR=カジノというわけではないのですね。
IRの目的は観光立国です。サービス産業の高度化、ラグジュアリー対策、交通政策、スポーツ政策などを強化することが大きな目的です。どうしてもカジノが表立って話題に上がりますが、カジノ施設は全体約77万㎡のうちわずか約6.5㎡、3%以内の面積。カジノ導入は、目的ではなくあくまで手段の一つとして捉えています。日本にはすでに公営ギャンブルがたくさんありますから、メリットを最大化しデメリットを最小化する、そういった運営ができる体制づくりが重要だと考えています。
富裕層向けの人材育成をはじめとする“ラグジュアリー対策”とは?求められる人物像。
― どのような客層がIRを訪れ、どのような人材が求められるのでしょうか?
年間で約2,000万人のうち約1,400万人が日本国内から、約600万人が海外からの訪日外国人を見込んでいます。そのうち富裕層がかなりのウェイトを占めることが予測されるため、富裕層へ向けた人材育成は急務だと考えています。「大阪IR株式会社」は、米MGM日本法人とオリックスなどで構成される事業社ですが、MGMはすでに諸外国でのIR経営ノウハウを持っている会社ですから、その知見を最大限活用し、富裕層向けの人材を大阪でしっかりと育成していく準備を今している段階です。
2025年に開催する大阪・関西万博では約350万人の訪日外国人を見込んでいますが、この万博というステージにおいてもラグジュアリー対策をしっかり行っていく必要があると考えています。そのために空港の専用ターミナルの設置やヘリポートの整備、スーパーヨット入港審査の緩和などを進め、富裕層向けのコンテンツ整備としてネットワーク構築やコンシェルジュ人材の育成をはじめています。万博を目前に控えたわれわれにとって今は「ホップ」の段階。2025年の万博は「ステップ」、そして2030年に本格化するIRが「ジャンプ」なんです。大阪をアジアNo.1の国際観光文化都市に育て、大阪から日本を元気にする。そんな成長戦略のストーリーを構想しています。
― どんな人材がフィットすると思いますか?
インテリジェンス=日本の歴史や文化を世界に向けて伝えることができることが重要です。英語が話せて機転が利き、フットワークが軽い。そんな人材がフィットするのではないでしょうか。語学スキルは必要ですから、今事業社との間で留学生を活用した人材供給についても戦略的に進めています。
目指すはミラノ。大阪を拠点に日本を楽しむことができる「玄関口」へ。
― 2030年には3,000万人が訪れる観光大国へ。これまでさまざまな国に訪れてこられた溝畑さんが、もっとも良かったと思う土地とは?
住んでいたこともあるので、やはりイタリアという国は大好きですね。住んでよし、迎えてよし、地域よし、まさに三方よしです。まず住んでいる人たちが自分たちの国が大好きですし、どこにいっても地球儀が置いてあって、自分の国が世界の中心都市であるということを常に意識している。まさに「Think Globally. Act locally」の精神です。自分の国が好きだから景観も大切にするし、自分たちが暮らす場所もきれいにする。こうしたことを何百年も前から自然にやっているということが素晴らしい。いつも笑顔だし、どこにいっても楽しく人生を送っていて……。
大阪に似ているという意味ではミラノが似ていると思っていて。ミラノも大阪も同じ「玄関口」。だから私はまず日本にいくときに大阪に行こうと思ってもらえる「玄関口」をつくりたいと思っています。大阪にいけば北海道でも沖縄でも、どこへでもいける。大阪にとどまるだけでなく大阪をゲートウェイに日本を楽しむ。そういう都市にしていきたいですね。
― 溝畑さんのお話を聞いていると本当に心から日本を元気にしようという情熱が伝わってきます。その原動力はどこにあるのですか?
今から150年ほど前、明治維新期大阪経済界のリーダーと言われた五代友厚さんが東京の政府の役職を辞めて大阪に来たんですね。そのとき、彼は「大阪という自由な都市は日本を変えることができる。アジアのマンチェスターをつくる」と掲げて、大阪に株式取引所や商工会議所などを設立しました。私は第2の五代友厚さんになりたいと思っていて。今住んでいる家も五代友厚像の近くなんですよ(笑)。毎日「負けないぞ」と、自分を鼓舞している。やっぱり大阪の歴史において、アジアや世界に向けてどう向かっていくかっていうことは重要なのです。私は京都出身ですけど、大阪という商業都市に大きな可能性を信じています。
まもなく万博まで500日。インバウンドの完全復活を見据えて。
― まさに注目の都市、大阪です。最後に大阪の最新情報を教えてください。
多くの野球ファンが熱狂する日本シリーズがいよいよ開催されるのは楽しみですね。そして今、インバウンドの本格復活がはじまってきています。現状9割復活してきているので、11月くらいには完全復活すると予測しています。いよいよコロナがあけて、インバウンドが本格復活。これは大きなニュースですよね。さらに、11月30日には万博まで500日となり、チケット発売もはじまります。東京オリンピックでは残念ながらコロナの影響で訪日外国人を迎えることができず、日本の魅力を最大限に伝えることができなかった。万博をやる都市のミッションとして、しっかり日本の魅力を世界中に発信したいと思っています。また、コロナによって生活が大きく変わってきた今、デジタルによって人と人とのつながりというものは薄まってきてしまいました。ネガティブなことばかりが取り沙汰される一方で、アフターコロナ時代に日本人の素晴らしい感性や文化など本質的な魅力を噛みしめて、どうそれを世界に示していけるか。大阪から日本を変える、最大のチャンスに精一杯取り組んでいきたいと思います。
― ありがとうございました!
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